第一章13 「正直な想い」
「親睦、ですか?」
『親睦』という言葉にゆかは戸惑う。だってそれはあの四人は初対面という風に捉えられるから。
「――僕は今から、正直な思いをあなたに言います」
「は、はい」
今から一之瀬 潤から語られるのは、異能探偵事務所への思い、見学者四人の思い等色々だった。
「僕は一度依頼を受けたら、絶対に解決に導きます。それが探偵事務所の方針だとも思っています。うちの社員は全員優秀です。もし社員の自慢大会があったら、全員分の良いところを言える自信もある」
「そうなんですね」
「あなたにとって、この依頼は今本気で悩んでいるから僕達のところに来た。だけど周りを見ればあなたのように本気で悩んでいる人は沢山いる。僕はあなた一人ではなく、沢山の人の悩みを解決し、救いたいんです。あなたにとっては知ったこっちゃないって思うかもですけどね。ですがいくらうちの社員が優秀でも、そんな依頼を複数抱えるのには限度がある。ならどうするか、――仲間を増やすんです。一人で抱えているものを分けあってくれる仲間を」
「仲間……」
「あの四人は会社見学としてあなたの依頼に同行させました。まだ正式な社員じゃないんです。僕は今回、あなたの依頼を見学者達の土台にしようと考えました。そしてこの依頼、解決していくと同時に見学者のこれからに繋がるようにしていこうとも思いました。つまり今回の依頼、遠回りをしながら進めていくということになるんです。すぐには解決できません。依頼と見学者達、両方を見ないといけませんから」
「そうなんですか……」
「だけど、絶対に後悔はさせません。さっきも言ったように、一度受けた依頼は絶対に解決します。今回も、最後にはあなたが安心できる未来を掴めるように努力します。もしかしたらまた僕は遠回りするかもしれません。――だけど信じてくれませんか?」
白山 ゆかは、一之瀬 潤の最後の言葉を聞いた瞬間、とある出来事を思い出した。
・・・・・・
「やっぱり信じられませんか?」
その言葉は、午前十時半から来ていた探偵事務所での出来事だった。
一之瀬 潤の言葉で、ゆかは探偵事務所の医師と共に医務室に向かう。
上記の言葉は医務室に入り、探偵事務所の医師に最初に言われた言葉だった。
「え」
「まあ、そうですよね。いきなり依頼内容は変わるし、あなたからしたら意図は読めないし」
今はお互い向かい合って座っている。診察室でもよくある光景だ。
「すみません。先にやっちゃいましょうか」
すると対面にいる香織の背後から、銀髪の天使が現れる。
「え、天使……!?」
「自己紹介をしておきましょうか。私は探偵事務所の専属医師の藍沢 香織。この子は私の化身のリリエルです」
「よろしくお願いしますね。白山 ゆかさん」
「私の名前知ってるんですね」
談話室には一之瀬 潤と見学者の四人しかいなかったはずだが、どこかで話を聞いていたのかもしれないとゆかは考えた。
「ああ、ずっと談話室の扉の前にいましたから」
「じゃあ最初から聞いていたんですか!?」
「ええ、依頼のことも全部聞いていました」
あの場の人達以外にも聞かれていたと考えると、少しばかりの気はずかしさがあった。
香織はリリエルにアイコンタクトで合図する。リリエルはその指示に従って、ゆかの後ろに移動する。
「さ、話はここまでにして……早速開始していきます。ゆかさんは目を瞑ってもらえますか?」
「はい」
「今から施すのは疲労効果や精神安定剤のような効果、色々な効果を持つものです」
「はい、お願いします」
ゆかは目を瞑り、暫し暗黒の世界へ。
すると背中にかけて、何か温かいもので包まれているようなものを感じた。身近なもので例えるなら暖かい毛布で全身くるまっているような感じだ。
そしてゆかが抱えていたものがスッと抜け落ちていくような感じがした。
「どうですか? リリエルの治療は」
「とても気持ちいいです。温かくて、それに包まれているみたいで」
「それは良かったです。もう少しで終わりますから、それまで待っていてください」
その後もリリエルの治療を体験した。
そして目を開け、たった少ししか目を瞑っていたのに、光が少し眩しく感じた。
「……うん。さっきよりも、表情が明るくなった」
香織のその顔は医師としてとても満足したような顔になった。
「本当にありがとうございます」
「いえいえ。私はただ義務をこなしただけです」
そう話していたとき、香織の視線はジーッと白山 ゆかを見る目に変わった。
「香織さん……? 私の顔に、何かついていますか?」
「いえ、表情が明るくなっても、まだ少し不安が残っているなって思っただけです」
その言葉にゆかは図星だった。まあさっきまでの一之瀬 潤のやり取りを考えれば、当然と言えるだろう。
「……正直まだ、少し不安です。さっきまでの幻聴の恐怖や疲労は抜け落ちたみたいに無くなりました。けどやっぱりこの探偵事務所を信用していいのか……少しだけそう思ってしまうんです」
「まあ、無理もないですね。さっきも言った通り、勝手に依頼内容を変えられてるわけですし、あなたにとってはすぐにでも解決してほしい依頼ですからね」
香織は椅子から立ち上がり、ゆかの手をすくう。
「――信じてくれませんか?」
香織から発せられたその言葉にゆかは一瞬戸惑ったが、ゆかが何かを言う間もなく、香織はそのまま言い継ぐ。
「潤は端から見れば何も考えていない能天気に見えますが、アイツが一番探偵事務所のことを想っているし、依頼人のこともとても大事に考えています」
「…………」
「多分これから、潤の奇想天外な出来事に付き合わされるかもしれませんが、――アイツを信じてやってください。潤は必ず、あなたを幸せな未来へ導いてくれる」
・・・・・・
それが、お出かけに行く前に香織に言われた言葉だった。
正直、あの時は心には響いたが、実感が持てなかった。だけど今なら、一之瀬 潤の言葉を聞いた今なら、あの時香織が言ってくれた言葉が嘘じゃないと分かる。
――だって、あんなに真剣な眼でここまで言ってくれる人が嘘をついている人だとは思えないから。
「――はい、信じます――!」
そう言ったゆかの眼は、迷いや不安がなかった。やっと『この人に任せたらきっと大丈夫』と思えるようになったのだ。
「……良かった。――最後には必ず、依頼を解決します」
その後、四人と一之瀬 潤とゆかは合流。
四人は最初と比べ、共に遊び、笑い合うことでお互いに少しずつ距離が近くなり、普通の『友達』に思えるような関係になっていた。
一之瀬 潤と白山 ゆかは、ゆかは不安や迷いの気持ちがあった。それを一之瀬 潤が自分の考えを正直に言うことで、それぞれ分かりあうことができ、信頼するに至った。
「全員揃ったということでもうお昼だし、どこか食べにいきましょうか。ゆかさん、僕のオススメの場所があるのでそこで食べませんか?」
「はい。一之瀬さんのオススメ楽しみです!」
上手くショッピングモール外での昼食の誘導に成功。
ショッピングモールから出ようと移動中のこと、蓮は一瞬だったが、こちらの方をジッと見る謎の男性と目が合った。
男性は灰色のパーカーを着ていて、フードまでちゃんと深く被っている。フードが深すぎて目が合うかすら分からないが……だけど確かに、あのフードの隙間からこちらを見ている目と確実に目が合ったのだ。
だけどもしかしたら、あれは蓮を見ていたものではなかったのかもしれない。蓮じゃない別の誰か、その人のことを謎の男性は観察していたのかもしれない。
だがそれも一瞬の出来事。このときの蓮はそこまで深く考えず、皆の後についていった。




