第一章12 「見学者達の親睦」
足早にゆかを連れていった一之瀬 潤を見送り、蓮と琉依はまたしも疑問が浮かび上がっていた。「やっぱりよく分からない人だな」と。
「それで……どうする? 俺達はぶらぶらしてていいって一之瀬さんは言っていたけど」
「わざとらしい演技ですが、財布をどこに落としたか分かっていませんでしたし、少し長くなりそうですね」
「うーん……俺達四人でどこか行く?」
蓮と琉依の会話に美琴はただ聞いているだけだったが、それに一番の賛成派の叶愛は、こういう提案をした。
「だったら皆でゲームセンター行こうよ! 美琴とは何回か二人で行ったことあるけど、大勢でなんて行ったことなかったから!」
「ほらほら行くよー! 美琴は着いてきてねー!」と言いながら蓮と琉依の手を引っ張り、強引にでも連れていった。美琴はその後ろからついていく形で三人の後を追いかけた。
そしてゲームセンターにて。
「UFOキャッチャーやろ!」
お金を入れ、アームを操作する。叶愛が狙っているのは中ぐらいの人形、それはそれは取るのが難しい。
「むー……全然取れない……」
アームで景品を掴んでいるが、景品を落とす場所まで届かず落ちてしまう。
「ちょっと俺もやってみていい?」
「うん、いいよ!」
叶愛の後ろで見ていた蓮が自分からUFOキャッチャーの前に。
お金を入れ、アームを操作する。一回目の結果は叶愛と同じく落ちてしまい失敗。
「意外と難しいな……」
「蓮、頑張ってー!」
二回目。さっきの一回目で景品を落とす場所に近づいている。それを狙ってアームを操作し……、
「……よし、落ちた!」
「やったー!」
見事景品をゲット。叶愛が狙っていたのは、ウサギのぬいぐるみで大きさも中ぐらいでさほど大きくないサイズ。叶愛が背負ってるリュックに全然入る大きさだった。
蓮と叶愛はUFOキャッチャーに夢中だが、あとの二人はどこにいるかというと、景品がお菓子のタイプのUFOキャッチャーをやっていた。叶愛と蓮が夢中になっているときに、琉依が自分から美琴に話しかけ、そう提案したのだ。
「美琴、あれやってみませんか?」
「う、うん。分かった……」
琉依と美琴、交代でUFOキャッチャーをやり進める二人。叶愛と蓮に比べて会話がなく、黙々とやっていた。
(うぅ……気まずいよぉ……私は叶愛しか友達いないし、話したことないし……)
美琴は身長が女性の平均より高く、その上スタイルもいいのでとても綺麗だ。そしてあまり喋る性格じゃなく、端から見ればクールな女性という印象を持たれがちなのだが、実際は人見知りでコミュ障を拗らせている。友達も叶愛一人しかいないという、本当に会話やコミュニケーションの類いが苦手な美琴だった。
そして美琴にとって、『初対面の相手』、そして『二人っきり』というのは最悪中の最悪。もしここに叶愛がいればまだ大丈夫なのだが、その本人の叶愛はここから少し離れた場所で蓮と二人でUFOキャッチャーを楽しんでいる。
(叶愛、早くこっちに来てー! 空気が嫌だよ!)
美琴の心の中の悲痛の叫びは勿論叶愛には届かず、美琴はただ琉依が今操作しているUFOキャッチャーを見ることしかできない。
すると突然、琉依は操作しているレバーを止めた。
「……美琴は楽しめてますか?」
「え」
琉依は手は止めているが、顔は後ろにいる美琴の方を向いていない。その状態で美琴に話しかけた。
「美琴は多分、コミュニケーションとかが苦手なんですよね? 僕の我が儘で叶愛と離れちゃってすみません」
「いや、大丈夫、だよ……」
「……僕、こうやって友達と遊ぶって初めてなんです。昔から友達とどこかで遊ぶってやったことなくて……初めてだから、僕も体験したかったんです。だから美琴を呼んだんです。叶愛と蓮は目の前のUFOキャッチャーに夢中だったから」
「そうなんだ……私、自己紹介のとき、琉依くんは爽やかな笑顔で喋っていたから……こういうの、慣れてるのかなって思ってた」
「そう見せているだけです。実際の僕は全然違いますよ」
今琉依が言ったことは、おそらく本音なのだろう。琉依も琉依で昔は今とは違っていた。今の琉依に変わってしまった時期があった。
美琴は、琉依の後ろではなく、琉依の隣にいった。
別に琉依に対して、全てを見せれるわけじゃないし、充分な信用も信頼もない。あくまでそういう相手は美琴にとって、今は叶愛しかいない。
だけど後ろではなく、隣に立って、同じものを見る。それだったら、してみてもいいと思えたのだ。
「琉依くんは、探偵事務所に入るの……?」
「はい、入ります。見学も一之瀬さんから提案されたから来ただけで、そのまま入るつもりでした」
「そうなんだ」
この会話の後、お金を入れ、クレーンを少ししか動かしていないUFOキャッチャーの存在を思い出す。
「あ、UFOキャッチャーやってたの忘れてました」
「あはは、喋ってたから忘れちゃってたね」
二人は笑いながら、再度UFOキャッチャーへ。
景品は二人で交代でやり、落とす場所まで誘導済み。後は上手くキャッチし、落とすだけ。
「よし、やりますよ……」
慎重にクレーンを動かし、景品の上に持ってくる。そしてボタンを押し、クレーンは下に落下し景品をキャッチ。
ここからが本番だ。そのまま景品を掴んだまま、落とす場所へ行かないといけない。アームは景品を掴み、動き続け、最後は……、
「やった!」
「やった……!」
アームは景品を落とすことなく、そのまま動き、琉依と美琴も景品をゲット。互いに喜んだ瞬間だった。
「良かったです、取れて」
「私達も一個ゲットだね……!」
その後は蓮と叶愛、琉依と美琴はお互いに合流。その後も二人ずつではなく、四人でゲームセンターを楽しんだ。
蓮は親友以外に友達がいない、琉依は友達という存在と遊びに出掛けたことがない、叶愛と美琴は二人でしか遊んだことがない。
初めて会った四人だが、どことなく共通点のようなものがあった。
四人は初めて会ったのに、ゲームセンターでの出来事はすごく思い出に残った。友達と遊び、笑いあう。そういう楽しさを知ったから。
ゲームセンターで遊んだ四人はベンチへ休憩に。
「ゲームセンター楽しかったね!」
「うん……皆で遊べて、すごく楽しかった」
「僕もこんなに楽しい気持ちになったのはいつぶりか分かりません」
「皆楽しめて良かったよ。俺も勿論楽しかった」
ベンチに座り、お互い今日の思い出は本当に心に残るだろう。
「……けど、こんなに楽しいけど、私達、依頼を解決するためにここにいるんだよね……?」
「あ、そういえばそうだよね。私達今はただ楽しんでるだけだ」
「そこについては問題ないよ」
美琴と叶愛は今自分達は依頼のために出かけていることに気付く。楽しすぎたあまり、忘れていたようだ。
蓮は一之瀬 潤が話していたことを美琴と叶愛にも共有する。
「なるほど! 合図したら私達で捕まえるんだね!」
「私達が買い物してる間にいつのまにそんな話してたんだ……」
その話をし、蓮はあることを思い出した。自分のショルダーバッグに手を入れ、一之瀬 潤から渡された原石状態のスピリツメタルを取り出す。
「これ、一之瀬さんから。美琴と叶愛にって」
二人に原石状態のスピリツメタルを渡す。
二人は化身の存在は元々知っているようだが、スピリツメタルを見たのは初めてらしい。
「これがスピリツメタルなんだね~」
「なんか……鉄みたい」
琉依は自分の腕につけてある腕時計を見る。時間を確認し、充分な時間が立っていると知る。
「皆、もうそろそろいい時間ですし、元いた場所に戻りましょう」
・・・・・・
今現在、一之瀬 潤と白山 ゆかは落とし物を探しているわけではなかった。
「あの、一之瀬さんの落とし物はいいんですか?」
「ああ、大丈夫です。嘘なので」
「ええ!?」
今は二人でショッピングモールを歩いている最中だ。別にどこか行きたいわけではなく、ただ見学者達から離れていっている。
一之瀬 潤は良さげな休憩スペースを見つけ、ゆかをそこに誘導する。
その休憩スペースはテーブルとふかふかの一人用ソファーが向かい合うように置かれている。二人はそこに座る。
「落とし物じゃないなら、なんで叶愛ちゃんや美琴ちゃん達から離れたんですか?」
「そうですね……親睦を深めてほしかったから、ですかね」




