第一章11 「最悪の可能性」
雑貨屋を出た六人が次に向かったところは――服屋だった!
案の定、女性陣はすぐさま三人で店に入る。美琴は若干強引に叶愛に連れていかれた感じだったが。
「ゆかさん見て~! この服可愛い!」
「叶愛ちゃん、このワンピースも大人っぽくて可愛いですよ!」
「本当だ~!」
買い物を楽しんでいる叶愛とゆかはテンション爆上がり。女性の買い物は長い。服屋だとなおさらだ。
そして今、その輪に入れていない人物がいた。それは美琴で、服にあまり興味がないのか、服を見ている二人の後ろにいて、話を聞いているだけという感じだった。
そのことに気付いたゆかは後ろにいる美琴に話しかける。
「ごめんなさい、美琴ちゃん。二人だけで話しちゃって……」
「え、いや、大丈夫、です……気にしないでください……」
「美琴ちゃんは服とか興味あるんですか?」
「えっと……実はあまり興味はなくて……流行りとか分からないし、とりあえず着やすいなら、なんでもいいって感じで……」
「そうですか……」
そう言ったゆかの顔は何か閃いたみたいに、表情は明るくなり、すぐさま隣にいた叶愛に耳打ちでこっそりと何かを話す。
「ふむふむ……いいですよ! 私も元々そのつもりだったので!」
「ありがとうございます、叶愛ちゃん!」
妙に二人の顔が明るくなり、美琴の顔、いや体全体を見てくる二人に何か美琴の中で嫌な予感がした。
美琴はあまり刺激しないように、まだこっそり耳打ちで何か話してる二人を置いて、どこかに逃げようとするが、
「逃がさないよ~、美琴!」
「ちょっとだけ私達に付き合ってください!」
と二人は美琴の両腕を掴み、逃がしてはくれない。
美琴はそのまま二人に連行されていった。
そして今現在――。
「やっぱりこうなった……」
美琴はどうしてこんなことを口に出したのかというと――、
「叶愛ちゃん、美琴ちゃんならこのパンツとかどうですか!」
「そのパンツならこの白のトップスが似合うかも!」
今現在、この状況を簡単に言うと美琴は『二人の着せ替え人形』になっている。
美琴は二人に連行されたあと、色々な服を試着されていた。可愛い系から大人っぽい系、カジュアルなど様々だ。
「美琴ちゃんって身長大きいですよね。どれくらいあるんですか?」
「えっと、確か百六十五センチだった、と思う……」
「私より七センチも大きいんですね! すごいです!」
「私なんて美琴と比べれば九センチも離れてるよー。身長大きいっていいなぁ」
叶愛は美琴を見上げながら、自身の身長の愚痴を言っていた。
そして気になっているであろう男性陣達は――服屋の外で服を見てる三人を見守っていた。
「やっぱり女性って服のことになると買い物が長いよなぁ」
「今美琴ちゃんが着せ替え人形にされてるから、これはあと数十分はかかるだろうね」
服屋の外で蓮と一之瀬 潤がそんな会話をしていたとき、二人の隣にいた琉依が口を開く。
「……あの、このままずっとお出かけするつもりですか? まだ依頼のことも何も調べてないですし、何か目処があるんですか?」
それまでずっと蓮と喋っていた一之瀬 潤の表情は真剣な顔つきになり、声も一段と慎重な声になった。
「――さっき探偵事務所で話したことの続きがあるんだ。あの仮説の話は仮に相当な実力がある化身使いっていう体で話した。けど僕はもう一つの可能性も考えてるんだ」
「もう一つ……もしかして、大した実力がない化身使いっていう可能性ですか?」
「まあ正解かな。……琉依くんは実力がない場合、どうやって彼女に幻聴を送る?」
「うーん……実力がないから、能力の効果範囲も絞られる……だったらやっぱり近くにいないと――あ」
そう言った琉依の顔は何かに気付き、一気に青ざめていく。当然近くで聞いていた蓮も、表情は青ざめていた。
二人は気付いてしまった。もう一つの可能性、白山 ゆかにとっての最悪の可能性を。
「二人とも気付いたみたいだね。実力がない化身使いは相手の近くにいないと四六時中幻聴なんて送れない。実力を上げていくことで、化身の能力の精度、効果時間の増加、そして効果範囲が広くなる。――僕のもう一つの可能性、それは、相手はもう既にゆかさんの近くにいるという可能性」
蓮と琉依も思ったことは同じで、二人は焦り始めている。
「それ、白山さんに言ったら……」
「そうですね。これは相当なものですよ……実は相手はずっと白山さんの近くにいたって知ったら……だから護衛にしたんですか? 彼女を一人にするのは危険と感じたから」
「うん。ゆかさんさ、探偵事務所に来たとき顔がやつれてたし表情も暗かったでしょ。初対面の僕達ですら分かるんだ、相当追い込まれてたんだろうね。それでも彼女はこの状態で過ごして、ずっと耐えてた。僕から見てもすごいと思うよ。ゆかさんの根本は強い人なのかもね」
それに続けて、一之瀬 潤はいい継ぐ。
「化身とは縁遠い一般人が幻聴なんてずっと喰らってみなよ。相当なストレス、悪く言えば精神病、最悪の場合自殺する可能性だってある。だから僕は護衛という名のお出かけで、ゆかさんの精神ケアをしつつ、同時に調査を進めていこうと思ったんだ」
これがさっき探偵事務所では語れなかった一之瀬 潤の全ての考え。それを聞き、改めて納得した二人は依頼の解決策の話をする。
「それなら白山さんが言っていた、誰かに見られているというのも納得できますね。でもどうするんです? 近くにいると仮定して、どうやって犯人を誘き出すつもりなんですか? そもそも今この場にいない可能性もある」
「それについては僕の方で考えがある。もうすぐお昼の時間、その時ショッピングモールじゃなく、近くのファミレスで昼食を取るように誘導する。到着して僕が合図したら、蓮くんと琉依くん、そして叶愛ちゃんと美琴ちゃんを連れて、犯人を捕まえてほしい」
「でも俺、この前化身を出したばかりなのに……」
そう蓮が呟くと、一之瀬 潤から蓮に向かって何か投げられる。
蓮は反射神経はいいので、驚きながらも投げられたものをキャッチする。
「うぉっ! ……と。って、なんか既視感が……」
蓮は一之瀬 潤から投げられたものを見てみると、前回と同じ、手にはスピリツメタルがあった。
「やっぱりスピリツメタルだった……」
(……でも、またこれで焔を召還できる。また会える!)
一之瀬 潤はポケットから巾着袋を出し、何か取り出す。それは、蓮に渡したスピリツメタルの原石、二つだった。一之瀬 潤はそのスピリツメタルの原石二つとも蓮に渡す。
「これは美琴ちゃんと叶愛ちゃんの分ね。後で渡しといて。ゆかさんには見られないようにね」
「分かりました」
すぐさま持っていたショルダーバッグに二つのスピリツメタルの原石をしまう。
それと同時に、服屋から三人が出てきた。手には何も持っていなかったから、服は何も買っていないが、二人はそれはとても楽しかったという表情をしていた。二人を除く美琴はそれはとても疲れたという表情をしており、二人とは真逆だった。
「おかえりなさい、三人とも。ショッピングは楽しめましたか?」
「はい! 美琴ちゃんなんでも似合うので、つい叶愛ちゃんと盛り上がってしまいました」
「ですね! すごく楽しかったです!」
「……疲れた……」
一之瀬 潤の問いに対してゆかと叶愛の二人は満面の笑みで楽しかったと解答。対しての美琴は相当二人に着せ替え人形にされたのだろう、目に見えて疲れが溜まっていた。
この後の予定は、さっき一之瀬 潤が言っていたショッピングモールを出て、近くのファミレスに昼食を取るように誘導する。そう言っていたので、蓮と琉依はその言葉を待っていたが、一之瀬 潤から発せられた言葉は――。
「おっといけない、いけない! 僕としたことが財布を忘れたようだー! これは取りに行かないとー!」
なんと、すごくわざとらしすぎる声で財布をどこかに置いてきたと言っているのだ。ちなみに蓮と琉依の二人はショッピング中ずっと一之瀬 潤の近くにいたため、財布というか、そもそと何も落としていないことを知っている。
「あー、どこに落としたかなー! 探しに行かないとなー!」
(さっきファミレスで昼食取るように誘導って……)
(さっきファミレスで昼食取るように誘導って……)
一之瀬 潤のあからさまの演技に二人は幸運にも同じことを思っていた。
だけどそんなわざとらしすぎる演技に一番に反応したのは――、
「え、それは本当ですか!? 依頼の件もありますし、私も一緒に探しますよ!」
依頼人の白山 ゆかだった。彼女にとって、最初のこともあり不安なのだろうが、今表情が生き生きしているくらい楽しんでいる。その恩返しなのかもしれない。
「おお! ありがとうございます、ゆかさん! それじゃ、お言葉に甘えて! 皆はどこかで適当にぶらぶらしててね~」
ゆかの言葉を待ってたと言わんばかりにその後は少し早口になり、素早くゆかさんを引き連れて何処かに行ってしまった。




