第一章10 「護衛を兼ねたお出かけ」
香織によって、依頼人の白山 ゆかが談話室から出た後、一之瀬 潤は何故『調査』ではなく『護衛』なのかという見学者達の質問を聞いていた。
「はいはい、一回ストップ。ちゃんと話すから落ち着いて、蓮くんに琉依くん」
「いやいや、これが落ち着いていられないですよ」
「そうです。依頼人は誰かの視線、そして幻聴の解決の為にここまで来たのに、あなたは勝手に依頼内容を変えています。そんなんじゃ信用されませんよ? 理由も濁すし」
という風に現在、蓮と琉依による質問責めが起こっていた。
「待って待って。ちゃんと僕の考えを言うから、一旦待って! ね?」
まだまだ言いたいことがありそうな蓮と琉依だったが、話を聞く姿勢はあるので、とりあえず一旦黙ることにする。
「まずなんで依頼を『調査』から『護衛』に変えた理由だけど――まだ話を聞いた段階では分からないことが多すぎる。だから一旦護衛という体にして、僕達全員でゆかさんを守ろうと思った。それがまあ理由の一つかな」
「一つ……? まだ、あるってことですか?」
美琴の疑問に一之瀬 潤は「その通り!」なんて大きい声で美琴の方を向いて言ったため、美琴は「ヒェ!」と悲鳴を溢し、すぐさま叶愛の後ろに隠れた。
「あらら、驚かすつもりはなかったんだけどな~……」
「それで、他の理由はなんです?」
一之瀬 潤の態度に呆れながら、琉依は理由を聞く。
「えっと、他の理由はね、――皆も仕切りの向こうで聞いていたと思うけど、幻聴に関して少し不思議な点があってね」
「そうなんですか?」
蓮自身には何も感じなかったため、咄嗟に聞き返す。
「そう。まず、駅で何駅か離れる、そして終点まで行っても幻聴なるものが聴こえてきたという点。そんな遠くまで離れても聴こえてくるってことは相当実力があるんじゃないかって僕は仮定した。けどね、そんなに実力があるなら、僕はさっさとゆかさんを自分の物にすればいいのにって思うわけ。この中では一番化身について詳しいだろう琉依くん、ゆかさんの話を聞いて、相手の化身の能力は分かる?」
「まず、その原因が化身の仕業だと判断していていいんですか? ストレスじゃないにしろ、何か病気を密かに患っていた可能性もありますよ?」
「それならちゃんと医者が教えてくれるでしょ? この場では一番の専門家の人が言うんだから、信じざるを得ない」
「……まあ、分かりました。そうですね……幻惑系の能力……とかでしょうか」
「まあ話を聞いてたら一番はそう思うよね。けど僕は違うんだ。僕は、相手の化身は『思考操作』を持っているんじゃないかと考えてる」
「思考操作……ですか?」
「思考操作は相手の思考を覗き、情報を得ることができる能力。時には相手の思考と自分の思考を繋げて、一瞬のテレパシーを可能にできる。――そして、相手の思考に直接自分の言葉を投げることもできるんだ」
それを聞いた四人は一之瀬 潤の最後の言葉を聞き、依頼人の白山 ゆかとの状況と一致していることに気付く。
「それじゃあ、相手の化身は」
「それはまだ分からないよ、琉依くん。まだ会ったこともない相手だからね。さっき琉依くんが言ったように幻惑系の能力の可能性もある。けど、今ここで推理するなら、僕の長年の経験から相手は思考操作を持っていると僕は考えてる」
「なるほど……」
「これが僕の考えだ。まだ何か不満があるなら答えるよ」
一之瀬 潤の思った以上の推理に蓮と琉依はほぼ納得していた、いやせざるを得なかった。この件は見学者達が口を出せるものじゃないと踏んだからだ。圧倒的に四人は経験が足りない。蓮はこの前化身を出し、戦っただけ。叶愛と美琴はまだ化身を召還したことがない一般人。琉依も知識として知っていただけ。そんな素人といえる四人が口を出せるわけがないのだ。
四人は言えることがなくて黙っていると、一之瀬 潤はそれを納得したものだと捉え、「ないみたいだね」と言ってこの話を終了した。
この話が終わった時、談話室の扉が開かれる。そこにいたのは医者の香織とその化身のリリエル、依頼人の白山 ゆか。さっきまでのゆかとは違い、やつれていた顔もリラックスできたみたいに緩んでいた。そして心なしか、表情も探偵事務所に訪れたときより明るくなっていた。
「おかえりなさい、ゆかさん。表情を見るに、リラックスできたみたいですね」
「はい、おかげさまで。香織さんもリリエルさんもありがとうございました」
「いえいえ、ただ私はほんの少し話をしただけ。依頼の件、そっちも頑張って下さい」
「また何かあったら遠慮なく言って下さいね! 私が心の傷でもなんでも治しますから!」
この二人に何か言われたからだろうか、白山 ゆかの表情は明らかに緩み明るくなっている。白山 ゆかは本当に綺麗なんだろう。表情が明るくなった今なら彼女の魅力が分かる。香織とリリエルにお礼を言ったとき、その笑顔はとても綺麗なものだった。
「じゃ、私はこれで」と香織とリリエルは談話室から退出する。
メンバーが揃い、出かける準備は整った。
「よし、じゃあ改めて、皆でお出かけにしゅっぱーつ!」
「おーー!」
一之瀬 潤とテンションを合わせ、返事をしたのは叶愛だった。彼女の場合は合わせているんじゃなくて、これが素なのかもしれない。
そして今現在、一之瀬 潤、見学者四人、そして白山 ゆかはショッピングモールに来ていた。
今見ているのは雑貨屋。こういう買い物は女性が一番はしゃぐものだ。
「わあ、このお皿の模様可愛い」
「本当ですね! この箸も可愛くないですか? 美琴はどう思う?」
「私はこれかな……」
「おー、そのコップの模様シンプルでいい感じだね!」
「本当ですね! それもいいなぁ」
という風に、ゆか、叶愛、美琴は買い物に夢中だ。一方の男性陣はというと……。
「あ、扇子売ってる」
「ここ最近の夏は暑いですもんね。年々気温が上がってる気がします……」
「扇子なら鞄に入りやすいし、一個くらい買ってみてもいいかも」
「そうですね。うちわはでかすぎますし、もうそろ夏が来ますから買うのは賛成です」
「お、蓮くんと琉依くんは何見てるの?」
蓮と琉依で扇子の話をしている途中、後ろから一之瀬 潤がやってきた。
「ちょうど扇子を見てたんです」
「一之瀬さんは夏になると暑そうですね。スーツですし」
一之瀬 潤のスーツについて、琉依から話を出される。だけど一之瀬 潤は一切そんなことないという余裕な表情で、
「実はそんなことないんだな~。このスーツは特別製だから、気温変動に対してもちょうどいい温度に保ってくれるんだよ。多分このスーツを着てるだけで砂漠でも南極でもちょうどいい温度で過ごせるよ」
「え、そんなすごいものなんですか!?」
「まあ行ったことないから分かんないけどね」
「もー、そういうのはちゃんと実証してから言ってくださいよ」
一之瀬 潤の言葉に、蓮は真に受け、琉依は冗談交じりの言葉に少し呆れている。
そんな話をしていると、男性陣から離れていた女性陣達が買い物から帰ってきたようだ。
「ただいまー!」
「遅くなりました!」
叶愛とゆかの声で三人はそちらの方を向く。
叶愛と美琴は何も買ってなく、手ぶらだったが、ゆかの手には袋があった。
「ゆかさんは何か買ったんですか?」
「はい、お皿を。可愛い模様だったので、欲しくなっちゃいまして」
「そうですか。じゃあ次の場所を見に行きましょうか」
そう言って、サッとスマートにゆかの手から袋を取り、一之瀬 潤自分からゆかの荷物を持ってくれたのだ。
「え、一之瀬さん悪いです! お皿しか入っていないのに、自分で持てます!」
「いやいや、今日はあなたの為のお出かけですから。今日一日楽しんでほしいんですよ」
「いやいや、それでも悪いですよ~!」
ゆかはそう言っているが、当人の一之瀬 潤は荷物を離す気はなく、そのまま歩き出す。ゆかはそれを追いかけながら『自分で持てる』という意思を伝えようと大きな声で言いながらついていっていた。
(すげぇ! めっちゃスマートだ!)
(すごい自然に持っていった……スマートだな)
(一之瀬さんすごい……スマートだ……)
(流石一之瀬さん! すごいスマートだった!)
それを横目で見ていた見学者四人は全員解釈一致で『すごい』、『スマート』。この二つの言葉が全員心の中で思っていたことだった。




