92話 告発
私が主に命を受け、城を飛び出してからしばらく経った頃まで、少々時を遡る。
城の周囲を見て周り、少しずつ外周へと向かいながら索敵していた私は、ようやく目的の奴ららしき姿を見つけた。
多くの魔物の集団だ。ゴブリンのような見た目だが言葉を話す高知能な者や、私と同じく獣人族の者、体の一部を魔導具に改造したキメラのような魔物など、多種多様である。
しかしその中で、おそらく首領であろう人物は一風変わっていた。
顔を白塗りにし、鼻に真っ赤な果物を突き刺しており、見たことの無い形の帽子を被って、奇抜な格好をした奴は、一言で言うならば、いわゆる道化師と言うやつであった。王族や貴族などに雇われ、「何か面白いことやれ」と言われるあれである。
他の魔物はそこまででもないが、奴からは明確に膨大な魔力を感じ取れる。ほとんど魔力を持たない私でも感知できるということは、少なくともメリルやユリアに匹敵する魔力である訳だ。
「しかしあの者たちは、なぜ動かないのだ…………?」
ふと言葉が漏れる。もちろん清水が湧く音よりも小さな声だが。
こうしてここに陣取っていることが分かったが、それ以上のことは分からない。何が目的で、こんなところにいるのか…………そしてあの貴族の私兵を襲ったのか、ヒントとなる何かは無いものだろうか。
…………考えても仕方ない、私は元来考えるより動くタイプだ。とりあえず一人捕らえて拷問でもするか。
そう考えていた時のこと。
「いやはや、まさかこうも上手くいくとは思いませんでした…………そこの方、出ていらっしゃい」
ふと、道化が大きな声で話し始めた。
…………まず間違いなく私のことであろうが、動かない。わざわざ出ていくのは自分の居場所をバラす自殺行為だ。もしも私のことであろうが、初撃だけなら例のごとく携帯している無色石で相殺可能だし、物理的な攻撃は、私であれば確実に回避可能だ。刃物でさえなければ、だが。
「まぁ、そう簡単に出てくるようでは忍び失格ですよね、ヨミさん」
…………バレている。恐らくは、何もかも。
「あなたは好きに動いていただいて構いません。どうせ我々ではあなたは止められませんしね。ですが、もしよろしければ…………取引を交わしませんか?」
取引……私が?相手を間違えているだろう。
「どうして私に?と思っていらっしゃるでしょう?ですが私共があなたの主に会う訳にはいかないのですよ。こうしてあなたに縋るしかないのです。ヨミさん…………私共がここにいる理由をお伝えします。そしてその後、私共はここを離れます。無論、聖ケトラコル城を攻めることもありません。いかがでしょう?」
…………どうするべきか。奴らと取引を締結したとして、奴らが律儀にそれを守る保証はない。普通に考えるなら、取引など交わさぬべきだ。
しかし、今私がここから動きようがないのも事実。奴らが何をするのか、全く読めない。魔法での一撃ならいい。連射されてもいい。物理的な攻撃を仕掛けられてもいい。私は回避出来る。
問題は、奴らに聖ケトラコル城を遠隔で攻撃出来る力がある可能性があることだ。
今、私が無闇に動くことで主や仲間たち、ドラゴニアの面々、そしてその他の王侯貴族に被害が出るのはいただけない。となれば。
「…………兵士を一人残せ」
「おや?それだけでよろしいのですか?現状あなたの優勢ですし、何かしら厳しい条件を言い渡されるものかと思っておりましたが…………どうやら慎重な方のようですね」
……謙遜、と言うより、生まれながらそのようなことしか言えない口なのだろう。私が優勢?何を馬鹿な。私など、この局面に一筋の亀裂すら入れることはできない。今ここを支配しているのは奴だ。奴の要求を飲みながら、最大限の情報を集める……今できるのは、それだけだ。
「……分かりました、あなた。残ってください」
「え、あたしっすか!?いやいやいや、死にたくないっすよ!」
「大丈夫ですよ、ヨミさんは心優しいお方です。あなたは傷一つなく私供の下へ帰還できることでしょう」
「うぅ……疑わしいっす」
渋々ながら一人の魔物が残ったようだ。あまり目立つ方ではない、犬の耳と尻尾を生やし、茶色の毛をした獣人だった。ケモ度は私より少々高い程度で、足が毛に覆われていた。
…………私も、何かが違えばあそこにいたのかもしれない。
「ふぅ…………それでは、次に私共がここにいる理由をお話しましょう。一つ、聖ケトラコル城で行われる会議の内容を知るため。二つ、あなたの主、破創の魔女について知るため。三つ、あなたに会うため…………です」
「………………」
一つ目は分かる。敵性の魔物だ、恐らく魔王軍として組織された内の一部隊だろう。そして奴は、少なくとも幹部級だ。魔王復活に際して対策を練るためのこの会議の内容が知りたいというのはおかしいことではない。
二つ目も分かる。私の主は世界最強だ。無論、魔王より遥かに強いだろう。最大のイレギュラーについて調べをつけたいというのも分かる。
しかし、三つ目はなんだ?私に会いたい。それは、何を意味するのか…………考えても、よく分からなかった。
「分かった。では、去るがいい」
「ん、え?あたしも帰っていーんすか?」
「ダメに決まってるでしょう?あなたは残れと言われたのですよ」
「うえー!?怖いっす!ヨミさんってのがどんな人か知らないっすけど話を聞いてる限りめちゃくちゃ強い人なんすよね!?」
「ええ、ですが不必要な殺しをする方でもありません。安心してください」
「必要なら殺すってことじゃないっすか!?あたしここで死んじゃうんすね…………辛い人生だったっす…………」
「早く去れ」
「申し訳ありません…………皆さん、行きますよ!」
「うわー!置いてかないでー!!!!」
…………うるさい奴だ。なんとなくヒナタを思い出す。
…………親族かもな。
道化師共が去っていったのを確認し、プルプルしながらその場に残る獣人の元へと向かった。
◇
聖ケトラコル城内にいる全ての人間が大広間に集まり、円卓を囲った。無論俺の指示によるものである。監視のお兄さんやその部下の人達、そしてクロノやグレイの協力もあり、かなり早く集まってくれた。
急な呼び出しだったし、何があったのかと話す声でガヤガヤと騒がしい。監視のお兄さんが持ってきてくれた拡声魔導具を起動し、会場に響く声で話し始める。
『えーっと、そろそろ始めたいんですけど、いいですかね?』
俺の一声を持って、会場は静まった。
誰一人、文字通り一言一句発さない。
…………最近、こんなことばかりだ。俺は多人数の前に立つことが得意な訳では無い。毎度巻き込まれ巻き込まれ、気づけば誰かの前に立っている気がする。全く、我ながら自分の流されやすさには呆れるしかない。今回は自分から、片足どころか頭からつま先まで突っ込んだ気がするが。
『これから、俺の推理を話します。多分口頭じゃ分かりにくいこともあるだろうし、何かあったら質問してください。それじゃあ、まずは事件について振り返ってみましょう』
どよめきも、ざわめきも起こらない。静かな会場の中、次の言葉を繋ぐ。
『三日前、ギルフォード氏が生きていたと確定している最後の日…………あの日の夕食時、俺は彼と喧嘩をしました』
あの日のことを思い出したのか、アリアの隣にいるノーラさんが微笑んでいるように見えた。
『理由は、妹を侮辱されたからです。妹というか、俺が妹のように思い、彼女が俺を兄のように思ってくれているだけで、血縁があるわけではありません。しかし、あの侮辱は俺が怒りを露わにするに足るものでした』
この言葉を受け、アリアもなんだか嬉しそうに笑っている。
『しかしアリアによって制止してもらい、ギルフォード氏は部屋に逃げ帰りました。ここまでは皆さんも知っての通りです』
あの場に居合わせた人々が頷き、何人かはあの時のことについて話し始めた。
『そして、その後ギルフォード氏は部屋に篭もり続けていました。その際に彼の部屋を訪れた人物は三人…………部屋を訪れた順番に、ペドロ・ウィリアムズ氏、カウセル・パルタゴン氏、ノーラ・ユーステリアンヌ氏です』
それらも既に俺たちが行った尋問についての情報が出回っているため、周知の事実である。また幾人かは彼らについて話し始めた。
『彼らはそれぞれ、話し合い、健康状態の確認、被害者からの呼び出しを動機として彼の部屋を訪れています』
これも既に知れ渡っていることだ。
『そして、次に現場の状況について確認していきましょう。現場はさほど荒れておらず、被害者には外傷らしきものは一切なく、唯一あった異変はカーペット上の小さな……隈なく探しても見落としかねない血痕のみです。部屋からは魔力が検知されず、死後二十四時間以上が経過していることから蘇生魔法も使えませんでした』
血痕の存在はまだ知れ渡っていなかったため、少しどよめきが起き、人々は口々に意見を述べ合う。
『残った疑問は、犯人が誰か、殺害方法はなんなのか、動機はなんなのか……でした』
大きく間を置く。話し出さない俺を見かねて、仲間達が不安そうな顔を見せる。
『…………結論からお話しましょう』
場が静まり返る。口々に声を上げていた人々も、仲間たちも、一斉に口を噤んだ。この場の皆が、俺の次の言葉を待っている。ならば、俺は自信を持って告げるまでだ。
『犯人は…………』
『ノーラさん、あなたです』
どうも、皆さんお久しぶりです。唸れ!爆殺号!と申す者です。今回は公式企画へと参加させていただいておりまして、なんとですね、今日から五日間連続で本作が更新されます。二か月空いた後ですが、マジです。信じてください。五日間、午後7時20分に投稿していきたいと思います。
話は変わりまして、総PVが14000間近となりました。ありがたや…………これからもまだまだ「あなたは神を信じますか?」は続いていきますので、末永くよろしくお願いいたします。
それでは、また明日、お会いしましょう




