熱
【20】
脳波には異常もなく、5日後、らいとは元気に退院することができた。
やはりあお向けで寝て、戻した物が喉に詰まってしまったことが今回の原因だったようだ。退院してからも、らいとが寝てから1時間くらいは様子を診てあげてください、ということで、毎日気を付けていたが、その後はこのような症状が出ることはなかった。
子供たちもスクスク育ち
らいと7歳
こーや4歳
こーやもらいとが卒園した同じ幼稚園に入園した。
そのタイミングで、私も子供たちが学校と幼稚園に行ってる間の時間で仕事に行くことにした。近くのファミレスのランチタイムのみのシフトだ。短時間でも雇ってくれるのはありがたい。お給料は少額だが、こどもたちの洋服や学校、幼稚園で使うものに充てた。
毎月、ギリギリの生活だったため、少しでも子供たちのため余裕が欲しかった。
──7月のある日の早朝
朝ごはんとお弁当を作って、子供たちを起こしに行くと、らいとが真っ赤な顔をしている。
「らいと?どーした?」
おでこに手を当てると熱い...
「らいと熱出ちゃったね」
「うーん」
「お熱計ろうね」
──37.8℃ 結構高い。。
冷たいまくらや、タオルを用意して頭を冷やす。
らいとには玉子粥を作って食べさせる。
「らいと、ちょっと待っててね。こーやを幼稚園に行かせなきゃ」
「はぁ、はぁ...うん。わかったー」
寝ぼすけこーやを起こし、ごはん食べさせ、幼稚園バスを待つ。
家の前まで来てくれるから、本当に助かる。
こーやを見送り、家に戻ってらいとの様子を見る。
「らいと、大丈夫?」
「うん。大丈夫だよー。はぁ、はぁ...」
「お薬飲んでみよっか。」
お薬は子供用シロップ。子供たちはこの薬が大好きだ。
なんか、おいしいもんね。
早く熱下がんないかな。。
そして、もうひとつの心配が...
この日私はファミレスのバイトが入っていたのだ。
1時間半のランチタイムだけだが、この店は工場地帯の中にあるのでめちゃめちゃ忙しい。毎日ホールは4人、キッチンは4人、1人でも欠けるとかなり厳しい。
(1時間半...どうしよう。)
どうしよう、じゃない。子供が熱を出しているんだから休むべきだ。
実はこのファミレスで雇ってもらう前、4件くらいの面接で落ちてしまっていた。その面接で必ず聞かれたこと...「お子さん、まだ小さいですね。熱が出たときは、お休みされますよね?」と。
落ちた理由はそれだけではないと思うが、やはり雇う側からしたら突然の欠勤は厳しいものがあるのだろう。
そんな中でも、このファミレスは採用してくれた。
魔が差した。。
(1時間半なら、らいと大丈夫かな。。)
らいとのおでこに手を当てると、あれ?だいぶ薬効いたかな。
「らいと、どぉ?」
「うん。大丈夫」
「よかった。あのね、らいとお願いがあるんだ」
「なに?」
「ママね、1時間半だけお仕事行ってきても大丈夫かなー?終わったらすぐ戻ってくるから。らいとのゼリーとか飲み物も買ってきたいし」
「うん。わかった。」
「ありがとう。じゃあちょっと待っててね」
「うん。」
後ろ髪を引かれながら、家を出た。
ランチタイムはいつも以上に混雑し、とても忙しく終わったが
店長には事情を話していたので1時間15分で上がることが出来た。
帰りに薬局で、ゼリーやポカリ、コーラなどを買って家に向かう。
ガチャっ。ガサガサ、バタバタ...
「らいと!ただいま!」
らいとのところへ駆け寄っていくと、約2時間前の様子とは違い、熱が上がっていた。
「はぁ、はぁ...ママおかえり。ぼく、ちゃんと待ってたよ」
──後悔した。
なんで置いていったんだろう。。
本当に私はバカだ。
大丈夫?って聞いたら、らいとは大丈夫じゃなくても大丈夫って答えるんだ。らいとは我慢強いからきっと大丈夫という、私の中での思い込みが、自然にらいとに伝わり、「良い子にしてなきゃ」というプレッシャーを与えてしまっているのかもしれない。
こどもが頑張っているのに──
泣き顔を見せないようにらいとを抱きしめ「ごめんね。もう置いてったりしないからね」と頭を撫でた。
「うん!」とらいとは嬉しそうな返事をした。
病気の時は絶対に置いてかない。心に強く決めた日だった。




