入院
【18】
大学病院に着き、らいとの治療が始まった。
こーやも異変を感じているのか、起きておとなしくしている。
待合室で、時計の音だけが鳴り響く。
──おねがい、神様。らいとを助けて...
もう何時間経ったのだろう...
時計をみたら、深夜3:00。
──まだ目を覚まさないの?らいと?
先生が出てきた。
「あ。...らいとは?!」
「まだ目は覚ましませんが、もう大丈夫でしょう、今日は遅いのでまた明日お越し下さい。大丈夫ですから、目を覚ましたらすぐご連絡します。」
「でも...」
「下のお子さんもいるでしょう?今日はお帰りください」
「...。 わかりました。息子をよろしくお願いいたします...。」
こーやを抱え、先生にお辞儀をして、家に帰った。
涙が止まらない。
「こーやも心配だよね。ごめんね。...ママがしっかりしなきゃいけないのに」
家に帰り病院からの連絡を待ちながら、こーやの隣でうとうと寝てしまい、朝が来た。
病院から連絡が来たのは10時。
「意識がもどりました、お話もあるので病院に来て下さい。」と。
よかった!よかった!
急いで車に乗り、病院へ向かう。
家から近いはずの病院が遠く感じる。
らいとの姿を見るまでは安心できない。
ナースステーションで案内され、らいとの部屋に向かう。
らいと、らいと、迎えにきたよ!
すると...
「?!」
──その部屋は、重症な患者さん用の病室だった。
不安ばかり募る。部屋の奥へ行くと、目を開けて窓の方を見ながら、らいとが静かに寝ていた。
「らいと!?」
「!!! ママ~!」
あぁぁ...よかった。
「らいと、ママのことわかる?」
「ママ~」
らいとが大泣きする。
らいとはどんなに不安だったか。。
起きたら知らない場所で。パパもママもこーやもいない。
それなのに、私が来るまでは静かに、誰にも迷惑をかけないようにじっと待っていたんだ。
なんでそんなに我慢するんだ...まだ子供なのに。でも...
「らいと、がんばったね」
「ママ~!」
さぁ、おうちに帰ろう──と思った時
先生が「ちょっとお話があります。」
「わかりました。らいと、ちょっと待っててね。」
「うん!早く、戻ってきてね」
「もちろんだよー」
先生のお話はこうだ。
何が原因で、今回の症状がでたのかわからない。
この後ももしかしたら、同じことが起きるかもしれない。
5日か、1週間ほど、入院して脳波など、経過を診させてほしいと。
確かに。。このあとまた同じことが起こったら怖い。
でもらいとはおうちに帰れると思っている。
それでも聞き分けがいいので、我慢してでも入院に対し「わかった」と頷くだろう。
病室に戻り、しばらくらいとと遊んでから、らいとに話をする。
「らいと、ママのお話聞いてくれる?らいとね、ちょっと元気じゃないから、今病院にいるんだ。病院で5回寝たら元気になるから、それまで病院で遊んでてね。わかった?」
「...。それって、ママも一緒?」
「...うぅん。こーやがいると病院に入れないんだ。だから、お泊まりは出来ないけど、お昼にこーやをあーちゃん(おばあちゃん)のとこに預けて、らいとのところに来るから...」
「やぁーだ!!」
「らいと、ママもらいとと離れるの嫌だけど、元気にならないのはもっと嫌だよ」
「やぁーだ!!ママも一緒、ママも...うっ、」
──ずっと我慢してた涙があふれでる。
やっと迎えに来てくれたのに、まだ帰れないことを知らされて、どんなに辛かっただろう。まだ子供なのに。
予想外の反応だった。らいとは聞き分けがいいと思って話してしまったこと、それは、らいとに対して押し付けでしかなかったのかもしれない。でもこれが普通の子供の反応だろう。
「ごめんね。らいと。明日また来るからね。」
「やぁーだ!!ママも一緒、ママも!ママ~!」
看護士さんが目配せをする。
お願いします、と看護士さんに視線を送る。
一緒にいてあげたい。すぐに連れて帰りたい。
らいとの泣き声を聞きながら小児科を出て、廊下を歩く。
らいとが退屈しないように、明日はおもちゃや本を持っていこう。
5日なんて、あっという間だ。うん。きっと、大丈夫!
なんて思いながら、目を腫らしみっともない顔で病院をあとにした。




