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昂天祭

 城の廊下を歩きながらカミムラは後ろを歩くジャックに聞いた。


「どうしたんだい? とても楽しそうじゃないか」

「ああ、すいません、出会うはずのない友人と出会ったもので」


 ジャックは、激情と悔しさの混じったクロキの表情を思い出しながら、恍惚の表情を浮かべていた。


「友人ですか……友達は良いものです。友情を壊したときの友達の顔は、筆舌に尽くしがたいものがあります。ああ、思い出すなぁ……あの人、なんという名前だったかな」


 カミムラはブツブツと独り言を呟き、自分の世界に没頭し始めたが、ジャックもまた頭の中がクロキで満ち溢れ、自らの世界に没入していた。





 カミムラの後を追うように、オリバーはカルガナに挨拶をすると城の中に入って行った。

 オリバーの姿が見えなくなってから、カルガナの侍女がカルガナに耳打ちする。


「カミムラはどうでしたか?」

「そうですね……」

「私には、その……少し、足りない、ように……」


 カルガナはカミムラが入って行った城の入り口を見つめて少し考えた。


「一言で言うと『良く分からない』ですが……」


 —―危険である、とカルガナは感じた。

 人に興味のない無邪気な子ども。それがカルガナのカミムラに対する印象であった。

 そしてカルガナは、興奮冷めやらぬ様子のクロキが立ち上がるのを見て、何となくの事情を察し、


「では、クロキ、また会いましょう」


 と言って城の中に入って行った。


 クロキは眼をつぶって大きく深呼吸をすると、普段の様子に戻った。


「お前、一体どうしたんだよ」


 オウギュストがクロキに聞いたが、クロキは「すまなかった」と一言言って黙り込んでしまった。

 ティムはテオとテイラーから大体の事情を聞いてはいたが、実際にクロキの取り乱し具合を目の当たりにして、ロンの国での滞在に不安を抱かざるを得なかった。





 ほとんどの来賓が城内に入ったところで、場外に取り残された各国の護衛に朗報が入る。

 皇帝の計らいにより、観客席での式典の観覧が許されたのだ。

 本来、婚姻の式典は、来賓とロンの国の国民のほかは、高い入場料を払わなければ見ることができなかったが、来賓の護衛もまた来賓と、皇帝が無料で観覧することを許したのだった。

 思わぬ話に護衛部隊員は喜びに沸きたち、人混みが苦手と言って辞退したダリオを除いて全員が入城した。





 城の門を潜ると、再び空が見える。はるか遠くに見える奥の宮殿に向かって広がる広大な芝生の上に多くの人がひしめき合い、遠くの巨大なステージの上に皇帝や来賓客が豆粒ほどの大きさで確認できた。

 周囲の人々は、皇帝と花嫁の顔を見ることができず落胆していたが、ティムは逆に、カミムラの顔を視認できないためクロキが暴走する危険がないことにむしろ安どしていた。


 式典は、様々な催しが行われ、終始にぎやかで、そして、華やかであった。クロキの位置からは踊りなどは良く見えなかったが、その調べに乗せた歌は、聞くだけで心を躍らせた。


 そして、式典の最後、皇帝から式典の参列者への謝辞に続き、皇帝から一つの発表があった。


「さて、最後に私から一つ発表がある。この式典をさらに盛り上げるに相応しいイベントを開催することとした。詳細は省くが、要は宝探しだ。最も早く指定の物を入手できたものには、古代に作られたと言われる我が国の秘宝を授けよう。我こそはと思う者は、明日、ファオロン遺跡公園に集え!」


 一瞬の間の後、拍手とともに大歓声が沸き起った。


 皇帝の発表の後、大臣が説明した詳細はこうだ。

 宝探しは三人一組で行うこと。

 参加者の資格は不要であり、貴賤を問わず、他国の者でも参加できること。

 参加者は明日、已天の始刻(午前9時頃)にテイショウの街の東にある古代の遺跡を整備したファオロン遺跡公園に集合すること。

 そして、優勝者には古代から受け継がれる国の秘宝を授けることが改めて説明された。





「これはこれは、思わぬ展開ですねぇ。状況はシンプルになりましたよ」


 余興の内容を来賓席で聞いていたカミムラはほくそ笑んだ。

 背後からジャックがカミムラの耳元に顔を寄せる。


「では、俺が参加しましょう」

「よろしく頼んだよ。ああ、明日が楽しみだなぁ……」





「ファオロン遺跡ですか、私も行きます!」


 イベントのことを聞いたヒースが目を輝かせて立候補するように手を挙げた。

 しかし、


「どうやら危険なイベントのようだから、ヒースは辞めておけ」


 と、クロキはあっさりと拒否した。

 実際のところ、クロキも参加するつもりはなかったが、三人一組というルールからテオをティムによって半ば強制的に参加させられることとなっていた。

 他国の者でも参加できること。三人一組のチーム戦であること。これらのルールにより勝敗を決するイベントは、各国の騎士隊の力を見せつけるのに絶好の場と認識されるとともに、それは当然、モンテ皇国護衛部隊内において、各騎士隊の実力を競うことができる場でもあり、マティアス皇太子が護衛部隊全員に参加の許可を出したため、皆、参加に燃えていた。

 ヒースは落胆しながらも、その代わりに遺跡で面白い物を見つけたら持って帰ってくるようクロキに頼んだ。


「それじゃあ、私はもう一つ行きたいところがあるので、そっちに行きます」


 ヒースはそう言うと、ふと何かを考え始め、そして、近くにいた宿の従業員に現在の時刻を聞いた。


「今ですか? 夙実の中刻(午後6時頃)ですが……?」


 そして、ヒースはさらに1時間後、2時間後の時刻を聞いてはメモを取っていた。





 翌日、已天の始刻――モンテ皇国での言い方では明け5つ(午前9時頃)。

 クロキらはファオロン遺跡公園でイベントが始まるのを待っていた。


 遺跡公園は、アーミル王国の古代遺跡群とは異なりよく整備され、建物や何らかの目的で作られた石像などが復元されて公園のあちこちに配置されおり、さながらクロキの世界の屋外展示型の博物館のようであった。


 遺跡公園に集まったイベントの参加者は、500人に達する勢いで次から次へと集まって来ている。

 クロキらと同じように皇帝の婚姻の式典に参加する要人の護衛で来た者のほか、半分程はロンの国の国民が占めているようであった。

 クロキはもしやと思い、辺りを見回したが、来賓本人であるカルガナやオリバーはもちろんカミムラも当然参加していなかった。


 ロンの国の大臣が、古代遺跡の祭壇と思われる、ひと際高い建造物の上に立った。


「それでは昂天(こうてん)祭を始める。まずは、三人一組でそれぞれの肩に手を置くように」


 クロキとティム、テオは大臣の言葉に従い、それぞれの肩に手を置いた。

 次に何が起きるのかと思いながら、クロキは祭壇の上に大臣を見やる。

 大臣の後ろで数人が両手を合わせて儀式めいたことをしていたかと思うと、クロキらの足元が白聞く光出す。


「これは……」


 まるで、クロキが召喚されてきたときの白い輝きのよう。

 そう思った直後、クロキらの周囲の景色が変わる。


 古びた暗い褐色の石壁と天井に囲まれただだっ広い部屋。


「ここは、どこだ……?」


 ティムがキョロキョロと部屋を見回す。

 壁のあちこちに仕掛けられたホワイトライトの魔法石が点灯し、視界は確保できていた。部屋は小さな体育館程の広さと高さがあり、蔦で装飾された壁に何やら文様が見える。その文様はさっきまでいた地上の遺跡に刻まれた文様と非常に似通って、いや、同じであった。


「おい、気を付けろ」


 クロキの忠告でティムが気付く。テオは既に気付いて弓を両手で握っていた。

 同じ部屋にもう一組の参加者の姿があった。

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