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業火に猛る男たち

 ディックは身体に魔力を集中させ始めた。

 マックスは警戒し、距離を取る。

 ディックが大きく深呼吸をして気合をこめる。

 すると、ディックの鎧が微かに光り、光った部分が手を使うことなくディックの身体から外れていく。

 みるみるうちに、動きを阻害する歪んだパーツが地面に落ち、ディックの身体には鎧の傷のない部分だけが残った。


「ディック!」


 マックスが再び炎を燃え上がらせながらディックに向かって拳を向けた。

 しかし、拳は空振る。

 ディックは地面に落ちた剣を手に取りながらマックスの拳をかわし、マックスとの距離を詰めるとそのままマックスを通り過ぎた。

 マックスのわき腹から火炎とともに血が噴き出す。

 先ほどよりもディックのスピードが上がっている。鎧を外した分か。


「ならば出力を上げるまで!」


 マックスの全身を立ち昇る炎が一層燃え盛る。

 マックスはさらに圧を増してディックを攻めたが、マックスの攻撃はディックに掠りもせず、逆にディックはマックスの攻撃をかわしながら、マックスの身体を斬っていく。

 明らかにスピードが上がっているが、鎧を外した分、防御力は低下しているはず。


「うおぉぉっ!」


 マックスは気合を入れると、ディックの攻撃をあえてその身体に受けつつ、ディックにカウンターを仕掛けた。

 マックスの拳がディックに掠る。直撃ではないため大したダメージではない。ディックの身体が一部焦げるのみ。

 だが、マックスの攻撃は止まらない。ディックはかわしながら、マックスに向かって剣を振るった。しかし、マックスはその剣をかわそうとも受けようともせず、ディックに向かって拳を向け続ける。


「「うぉぉぉっ!」」


 ディックの剣がマックスの身体を斬り、マックスの拳がディックの胸に命中する。

 ディックの攻撃を受けながら放たれたため、マックスの攻撃はディックに致命傷を与えるには及ばなかったが、ディックの口から血が溢れ、零れる。

 一方のマックスもノーガードの捨て身の攻撃で身体のあちこちから血が流れていた。

 だが、マックスは確信した。タフネスと攻撃力は自分が勝っている。この戦い方ならば最終的に勝つのは自分だ。

 マックスの身体中の傷から血とともに炎が噴き出す。


「ディック! 行くぞ!」

「マックス! 来い!」


 ディックもまた、剣を包む炎を一層燃え上がらせた。

 2つの業火がぶつかり合う。

 斬られながら殴り、殴られながら斬る。ディックとマックスは身体に傷を増やし、血にまみれながら、なぜかその口元に笑みが浮かぶ。


 二人の激しい応酬で舞い散る火の粉を浴びながら、クロキはケルベロスと対峙していた。

 ケルベロスがいくつ頭を持っていようと、四足獣への対処としては背後を取れば容易いと考えていたが、首元の毛だけではなく、尾の毛をも毒蛇へと変化させることができるケルベロスの特性のため、クロキは攻めあぐねていた。

 クロキはケルベロスの口からか吐かれる炎をかわしながら一旦距離を取る。

 ケルベロスの巨躯と鋼のような体毛にクロキの刀は通らない。

 クロキは刀を納めると、襟元を引き上げて口と鼻を覆った。


「俺も、覚悟を決めるか……」


 クロキは真っ直ぐとケルベロスに向かって走り出す。

 ケルベロスは左右の頭部でクロキに向かって炎を吐きつつ、真ん中の頭部で噛みつこうとした。

 クロキは炎の中に飛び込みつつ跳び上がると、ケルベロスの頭部を踏んで、左側に着地する、というフェイントを入れて右側に着地した。

 ケルベロスがフェイントに反応し、一瞬左側を見たところ、ケルベロスの顎にガントレットに仕込んだ魔法石エクスプロージョンで加速させた拳を叩き込んだ。

 ケルベロスの右側の頭部は気を失い、歯の隙間から血を滴らせながら、力なくうなだれる。

 ケルベロスのたてがみが毒蛇へと変化し、接近したクロキを襲う。

 クロキは後ろに下がりながら両手を広げると、空中に黒い粉が巻かれた。

 そして、クロキは片手の指を丸めて筒のような形を作り、口元に当て、息を吹くと、その手から炎を噴き出した。

 炎は黒い粉—―火薬に引火し、周囲を明るく染め、毒蛇もケルベロスも、その発光と熱によって動きを止めた。

 その隙をついてクロキは再び跳び上がると、回転しつつ真ん中の頭部に踵を激突させた。

 先ほどと同じ箇所への攻撃に、ケルベロスは大きな声を上げながら悶えたが、クロキが着地したところ目掛けて左側の頭部から炎が吐かれる。しかし、クロキは怯むことなく炎の中に突っ込んでいくと、火炎を噴き出す口の中に拳を入れた。


「喰らえ!」


 ケルベロスの口が爆発した。

 ケルベロスの口に入れた手にはエクスプロージョンの魔法石が握られており、それを発動させたのだ。

 クロキが腕を引き抜くと、ケルベロスは口から煙を吐き出しながら気絶した。

 魔法を使えないにもかかわらずケルベロスを翻弄するクロキを、ヘザーは眼を輝かせながら見ていた。


「さあ、そろそろ良いんじゃない? 早く終わらせなさい。ただし、その異邦人は殺さないこと、良いわね」


 ヘザーの注文にマックスは舌打ちをする。

 あの女はこの戦いをまるでゲームか何かだと思っているのか。

 今、マックスとディックは命のやり取りをしている。マックスは侮辱されたように感じた。

 しかし、マックスの傷も深く、ここで一気に決着をつける必要があるのも事実であった。


「ならばヘザー! 力を貸せ!」


 マックスはそう言うと、ディックの攻撃をかわしてケルベロスの前に立った。


「そう、良いわよ、存分に使いなさい」


 ヘザーが両手の平を上空に向けて念じると、ケルベロスの身体が黒いオーラに包まれ、真ん中の頭部が大きく遠吠えを上げた。

 みるみるうちに、クロキが与えた左右の頭部へのダメージが回復する。そして、毛を逆立たせ、身体を大きく膨らませた。

 マックスもまた、両の拳に力を込め、気合を入れると、体中についた傷から噴き出す炎が一層燃え上がり、全身を包む炎と一体となってさらに大きく燃え上がった。

 その姿もはや人の形をした炎。


「行くぞぉ! ディーック!」


 マックスは走り出しながら、飛び込むように前方に向かって地面を蹴った。そのマックスを目掛けて、ケルベロスが特大の火炎を吐き出し、火炎はマックスを飲み込む。

 すると、ケルベロスの火炎の力を借り、勢いを増したマックスが両手を前に伸ばして、回転しながら砲弾のように突っ込んできた。

 クロキとディックはスレスレで回避したが、炎によってダメージを受けるとともに、すさまじい勢いのために吹っ飛ばされてしまった。

 マックスは地面を抉りながら前進し、石壁を破壊するとそこで静止した。

 砂ぼこりの中、マックスは振り向く。


「次は……外さん……」

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