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燃え尽きる炎

 ケルベロスがマックスの背後に移動する。


 戦いを傍観していたフェルナンドは、次のマックスとケルベロスの攻撃でディックかクロキのどちらかが倒されると直感した。

 どうする……どうする、どうする――フェルナンドの頭がフル回転する。

 さっきのように攻撃と見せかけてディックを援護するか。だが、この状況でそれをすれば、必ず意図が知られるだろう。

 そうなれば命は、ない。


 ディックとクロキは全身の痛みに耐えながら対応方法を考えていた。あのスピード、威力は生半可な方法では防ぐことができない。

 しかし、対応方法を思いつく前に、再びマックスの炎が燃え盛る。


「これで終わりだ、ディック……」


 マックスの武骨な目が、一瞬悲しみに沈む。


「フレイムソード!」


 しかし、ディックは諦めない。フラフラと立ち上がり、再び剣を炎に包んだ。


「さあ、行くぞ!」


 マックスが走り出した。


「くそっ……」


 クロキが重い体を奮い立たせ、ディックを援護しようとしたが、身体が思うように動かず、その場につまずいてしまった。


 ケルベロスの身体が大きく膨れ上がり、特大の火炎が吐き出される。

 そのときであった、


「ウォーター・スクリュー!」


 フェルナンドの放つ巨大な水流がケルベロスの炎をかき消した。


「何?」


 マックスが予期せぬ事態に驚く。


「あんた、何やってんのよ……」


 ヘザーがフェルナンドを睨みつけると、フェルナンドの背後の影からヘザーにまとわりついていた人型の影が現れ、その腕でフェルナンドの胸を貫いた。


「フェルナンドぉぉ!」


 ディックが叫ぶ。

 ケルベロスの援護はなくなった。だが――


「このまま行く!」


 ケルベロスの援護を失って止まるかと思われたマックスであったが、振り絞るように身体の炎を燃え上がらせると、そのままディックに向かって砲弾のように突っ込んできた。

 さきほどと比べて威力もスピードも落ちている。しかし、ディック一人を倒すには十分な威力。


「うぉぉ! フレイムソード……」


 ディックはマックスの突撃をかわそうとはせず、大きく剣を振りかぶった。


「ファイナルスラッシュ!」


 マックスとすれ違う瞬間、ディックは剣を振り下ろした。

 ディックとマックスの炎がぶつかり合い、周囲に大きな炎の嵐が巻き起こる。


「グフッ……」


 血を吐き出しながら、ディックがその場に倒れた。


「み、見事な一撃……」


 背後に立つマックスは肩から腰に掛けて大きな傷を受け、血を流しながらも立っていた。

 全身を炎化するセルフ・エスティームが発動している間は、瀕死の重傷を負ってもしばらくは動くことができる。

 ディックによってマックスが負った傷は、大変深いものであったにもかかわらず、立っていられるのはそのためであった。セルフ・エスティームを解除すれば、マックスは一瞬で意識を失うだろう。


 マックスはセルフ・エスティームを解除せず、ディックにとどめを刺すべく振り向いた。

 そのとき、振り向いたマックスの眼に飛び込んできたのは、倒れるディックと、そして、真っ二つにされたケルベロスであった。

 ディックのファイナルスラッシュは、マックスだけではなく、およそ20メートル離れたケルベロスをも斬っていたのだ。


「ディック、お前には驚かされる。いや、もはやこれは敬意と言ってもいい」


 マックスの肩の炎がエンジンのように細かく振動を始めた。右拳の炎が大きくなる。


「あの世から我々の明日を見ていろ!」


 マックスが大きく右腕を振り被った。

 そのときであった。

 クロキがディックの前に立ち塞がる。


「させるかよ!」


 クロキが半身になって刀を構える。

 マックスの肩の炎が大きく爆発し、右腕が勢いよく振り下ろされた。

 大きな爆発が巻き起きり、辺りを爆煙が包む。


 ヘザーは爆煙で二人の姿を見失い、巻き上がる砂ぼこりを防ぐため、手を顔の前に上げ、眼を細めて成り行きを見ていた。

 しだいに爆煙が薄くなる。二人の姿が見えてきた。

 拳を振り下ろしたマックスの背後にクロキが背を向けて立っている。

 と、マックスの胸と首から炎とともに血が噴き出した。


「なん……だと……」


 マックスはクロキを振り向こうとしたが、セルフ・エスティームの耐久の限界に達し、ろうそくが燃え尽きる間際のように、身体の炎は一瞬大きく燃え上がると、フッと消え、マックスはその場に倒れた。


「スキル発動『浮葉』」


 クロキは既に聞こえていないマックスに向かって呟いた。


 クロキは口と鼻を覆う襟元を下げると、ディックに駆け寄った。

 息はある。死んではいない。

 それを確認するとクロキはヘザーを見た。

 残るはヘザーただ一人。ヘザーはどう動くか。


 そう思っていると、数人のメソジック帝国兵がクロキらのいる最上段に上って来た。

 ここで増援は正直なところきついが、やってやれないことはない。

 クロキは迎え撃つ意志を固めた。

 しかし、兵士たちはクロキらを無視してヘザーに駆け寄ると、ヘザーに向かって石板を見せて何やら報告を始めた。

 報告を聞いたヘザーは眼を見開いて微かに笑う。


「そう、やはりここが『空中庭園』なのね」

「はい、調査の結果、間違いないかと」

「良いわ、戻りましょう。しばらくはここに用はないわ」


 そう言ってヘザーは魔獣に乗り込み飛び上がった。

 そして、兵士たちが周りに倒れるシアラとマックス、そしてモニカを担いで飛空艇に乗り込もうとしたとき、突如としてモニカが起き上がり、石板の一つを抱えて飛空艇から飛び降りた。


「あんた、何してんの?」


 ヘザーがモニカを睨む。

 モニカは乱れた髪をかき上げながら、ヘザーを睨み返した。


「私一人だけ戻るなんてないわ」

「なに? 死にたいの?」

「殺すなら殺してみなさいよ! フェルナンドにしたようにね!」


 モニカが声を張り上げた。


「私はディックと行く。もうあなたたちには従わない」

「あー、もう、裏切りイベントとか私嫌いなんだけどっ」


 ヘザーはモニカに手を向けると黒い球を放つ。だが、モニカは石板を抱えたまま、黒い球をかわしてディックの容態を見るクロキのもとに駆け寄った。


「あんたたち何してんのよ、早く取り返しなさい!」


 ヘザーが焦ったように上から叫ぶと、兵士たちがクロキらを取り囲む。


「ディック、ゴードン、起きろ! 退くぞ!」


 クロキの声に、ゴードンは力を振り絞るように立ち上がると、ケヴィンを背負い走り出し、リタもそれに続く。

 クロキとモニカはディックの周りの兵士たちと斬り捨てると、モニカはディックに肩を貸して立ち上がらせ、クロキはフェルナンドに駆け寄るとフェルナンドを背負って走り出した。

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