第2389話 桜の女王
愛馬を応援する為に関西まで来た奈央と亜美。
☆奈央視点☆
私と亜美ちゃんは、我が愛馬サイジョーレディーが大レースに挑むとあり、阪神競馬場まで応援に来ているわ。
ここまで見ていて思ったのが……。
「競馬場って、場所によってコースの形状が全く違うんですのね」
「そうだねぇ。 以前見に行った中山の競馬場には、最終直線に心臓破りの坂なんてのがあったもんね」
「阪神にも最終直線に坂はあるみたいだけど?」
「中山程じゃないにして、結構な坂があるね」
とはいえ、レディーは中山の坂も経験してるし、今日と同条件である前哨戦のチューリップ賞にも快勝している。
問題は無いだろうとの事。
「そろそろ出走馬が本馬場に入ってくるよ」
亜美ちゃんが言うと、すぐに出走馬達が馬場に入って来ては、返し馬というものを始める。
もう少しでレースが始まるわね。
レディーはここまで戦績を評価されて、1.5倍の圧倒的な一番人気に推されている。
騎手の方もプレッシャーを感じる事だろう。
◆◇◆◇◆◇
レース発走時刻となり、競馬場内にはGⅠレースのファンファーレが鳴り響く。
レディーは落ち着いた様子でゲートに収まり、他の馬達も順に入っていく。
緊張の一瞬……競馬においてスタートは重要なものなのだとか。
出遅れれば位置取りは難しくなり、理想のポジションにつく為に、余計なスタミナを消費してしまうからだそうだ。
「さあ。 今年もやってまいりましたクラシックシーズン。 まず最初を飾るのは牝馬限定戦、桜花賞です。 仁川の桜が満開になり、まだうら若き乙女達を出迎えます。 一番人気は3枠5番サイジョーレディー。 最終オッズ1.5倍を背負っております。 体勢完了……」
ガシャン!
「スタートしました! 各場綺麗な出だしとなりました」
出遅れた馬は居ないようね。
レディーも綺麗なスタートを切って、いつもの定位置に落ち着く。
一見問題無く映るのだけど、亜美ちゃんは双眼鏡を覗きながら、「うわわ」と漏らした。
「どうしたの?」
「よく見て。 レディーの周り」
「レディーの周り?」
双眼鏡を覗き、レディーの周囲をよく見てみると。
「1、2、3、4、5……な、何よあれ……」
レディーの周りには、前後左右を囲むように馬群が形成されていた。
「あれでは思い通りのレースが出来ないじゃない!」
「調教師さんが言ってたね……マークがキツくなるかもしれないって」
「こういう事だったのね……」
まだまだ競馬に疎い私達は、圧倒的を支持を集めた実力馬がレースにおいて立たされる状況を読み切れていなかった。
「こうなるとわかっていれば、前に出す指示を出せたのに」
「仕方ないよ。 道が空く事を祈ろう」
「ですわね」
レースの方は8番の馬が悠々と先頭を走り、その後ろから2頭……1番と9番がついて行く。
そして、そこから離れた3番手集団に、馬群に囲まれたレディーがいる。
「さあ、人気のサイジョーレディーはまだ中団! 馬群に囲まれています! 先頭は8番、ミステリアスブルーのまま3コーナーに差し掛かります! 阪神の最終コーナーはゆっくり曲がらないと、大きく外に膨らんでしまうぞ!」
と、ここでレディーの外を走っていた4番の馬が外に膨らんで、馬体1つ分のスペースが生まれる。
レディーの騎手は、その一瞬出来た隙間を見逃さずにレディーの身体をねじ込む。
「馬群から抜けたよ!」
「よし! いけー!」
ここでレディーの騎手の手が動き、レディーはそれをゴーサインだと受けて一気に加速する。
「ここでサイジョーレディーが動いた! 外からゆっくり前に上がっていきます! さあ、最終コーナーを回って最後の直線に向きました! 先頭まだミステリアスブルー粘る! 外からパープルハーミット! コーラルストーンは苦しいか! そして4番手外から一気にサイジョーレディーやって来た! 残り150! 外からレディー! ミステリアスブルーを捉えた! 交わした交わした! あっと言う間に先頭に踊り出た!」
直線半ば、坂で止まる馬もいる中サイジョーレディーは凄い勢いで先頭に立ち、更にグングンと差を広げていく。
「3馬身! 4馬身! 強い! 強い強い! サイジョーレディー! これは文句無し! 最強桜女王誕生ー! まずは最初の冠を戴きましたサイジョーレディー!」
「やりましたわよー!」
「ヒヤッとしたけど、終わってみれば楽勝だったねぇ!」
サイジョーレディーは今、コースの上を一頭だけ悠々と走って見せている。
ウイニングランというやつね。
「ささ、表彰式と口取りだよ」
「ええ、行きましょう」
勝ち馬の馬主という事で、これからウイナーズサークルで表彰式と口取りが行われるわ。
そこで、来週のゴールドのレースの話と、レディーの今後の話をしなくては。
◆◇◆◇◆◇
「ブルル!」
「レディー、お疲れ様ですわ! よくあのマークの中を諦めずに走ったわね」
「ブル!」
レースに勝って帰ってきたレディーの鼻面を優しく撫でて労う。
調教師さんの話では、見た感じ疲れも無さそうだしケガなども無さそうとの事。
それを聞いて一安心ね。
来週、中山で行われるゴールドのレースについて軽く話し合い、レディーの次走についても話し合う。
「レディーは次はやはり二冠目のオークスでしょうか」
「ええ、順調そうならそれでお願いしますわ」
「わかりました。 では来月のレースに向けて調整していきます」
と、これはあっさりと決まってしまいましたわね。
亜美ちゃんに、レースの日のスケジュールは空けてもらっておいたわ。
次は東京競馬場との事なので、移動は今日よりは楽になるわね。
表彰式と口取りを終えた私達は、今日はこちらに滞在するというレディー達とは別れて千葉へと戻る事に。
◆◇◆◇◆◇
「来週はゴールド君だねぇ」
「ええ。 またもやカイザークラウンと対戦ですわね」
「だねぇ」
サイジョーゴールドにはカイザークラウンという、如何にもな名前のライバルがいる。
勝ったり負けたりをしている相手なので油断は出来ないわ。
「次も勝って、どちらが上かはっきりさせてやりますわよー」
「うんうん。 ゴールド君も調整は順調みたいだし、期待出来ると思うよ」
「当然! 目指すは両方とも三冠馬ですわよー!」
「あ、あはは。 ここまで順調だと、本当にありそうだねぇ」
サイジョーレディーに関しては今のところ向かうところ敵無しと言った感じなので、安心して見ていられる。
ゴールドの方は、やはりライバルが強敵なだけにどうなるかはわからないという怖さがあるわ。
最初の一冠で躓くわけにはいかないわよー!
◆◇◆◇◆◇
千葉の「皆の家」へ戻って来た私達は、既に祝勝会の準備が完了している事に口をあんぐりとさせつつも、連日の宴会騒ぎに興じるのであった。
桜の女王となったサイジョーレディーの快進撃は続く。
「亜美だよ! レディーちゃんやったねぇ!」
「桜の女王とか美しいですわねー!」




