第2390話 しばしの別れ
相変わらず宴会中の夕也達。
☆夕也視点☆
4月4日の日曜日の夜。
奈央ちゃんが所有している馬が、何やら大きなレースに勝ったので祝勝会をしている。
まあ、ようするにまた宴会だ。
来週にはもう一頭の活躍馬が大きなレースに出るらしく、中々忙しそうではある。
だが、今はそれよりも渚ちゃんが明日京都へ発つのを送り出してやるのが先決なのでは?
「な、なあ、明日渚ちゃんが京都に帰るんだが?」
「それがどしたのよ?」
「いや、どしたのよって、仲間が遠くに行くんだぞ? それは冷たくないか?」
「別に一生会えなくなるわけじゃあるまいに。 次一帰って来るって言ってるし」
「いや、でもなぁ」
「ええんですよ先輩。 私も湿っぽいのはいややし、これぐらいあっけらかんとしてる方が助かります」
「む、むぅ」
「だはは。 今井君はやっぱり優しい男やなあ、なあ渚」
「そやね。 ちょっと優し過ぎるくらいやとおもう」
「む、むむぅ」
「今井さんはそうやって、色々な女性を拐かしたんですね」
と、姫百合さんからはひどい誤解を受けてしまっている。
「夕ちゃん。 今、それは誤解だとか思ってるね?」
「誤解だからな」
「そんなわけないでしょ……希望ちゃんを始め、渚ちゃんにミアさん、紗希ちゃんも多分そうだよね?」
「きゃは。 どうかしらねー」
「女の敵なんですか?」
「だから違いんだ姫百合さん……いや、大体優しい事の何が悪いんだ?」
「悪い事じゃないけど、あんたの場合は度が過ぎてるのよ」
奈々美にまでそう言われてしまう。
「あー、奈々ちゃんも夕ちゃんの優しさに拐かされた人の一人だねぇ」
「そうね」
「お、俺に味方は居ないのか……」
と、嘆いてみるも、やはり味方は居ないのであった。
◆◇◆◇◆◇
「じゃあ、明日は駅まで見送りに行くぞー!」
「別にそこまでせんでも」
「ゴールデンウィークまで会えないんだぞー!」
「ま、まあそやけど」
「と、思うでしょ?」
「はい?」
「企画発表ー!」
「いぇーいだよ!」
何やら急にハイテンションになる奈央ちゃんと亜美。
企画発表とか言っていたが、一体何だというのだろうか?
「亜美ちゃんっ、お願いですわよー!」
「らじゃだよっ!」
謎のテンションのまま話を続ける2人を、俺達は口をあんぐりとさせながら見つめる。
特に、まだ「皆の家」に滞在中のブルーウイングスの子達は、周りをキョロキョロ見ながら「え? 何ですかこれ?」と、呟く。
「来週の金曜日の夜に、久しぶりに京都へ行きます!」
「き、京都? 何しに行くんだ? わざわざ渚ちゃんの顔を見に行くのか?」
「ノンノン! 違うよムッシュ夕ちゃん」
「何だよムッシュって……」
「ヒントは京都嵐山だよ」
「あ、もしかしてお花見ですか?」
姫百合さんが手を挙げてそう答えると、亜美がビシッと姫百合さんを指す。
「トレビアーン! マドモアゼルゆりりん!」
「何故フランス語なんでしょう?」
純粋に疑問を口にして首を傾げる姫百合さんと、それを無視して話を進める亜美。
謎テンションにはついていけないが、目的はわかったので良しとする。
「花見? 夜から?」
「ううん。 翌日土曜日のお昼だよ。 金曜日は西條グランドホテルで一泊して、翌日お花見、終わったら帰ってくるという予定だよ。 日曜日にはサイジョーゴールド君のレースが中山であるからねぇ」
つまり、日曜日にはこちらに戻ってきておかないといけないらしい。
俺はそうでもないが、仕事組は金曜日の夜に出るとなると忙しくなりそうだな。
「仕事組の方々は、それぞれ迎えの者を向かわせますわ。 参加者は東京駅で合流し、そこから西條グループ専用線を利用して京都へ向かいますわよ」
「出たわね、西條グループ専用新幹線」
「なはは!」
亜美達が城崎旅行に行った時に利用したらしいが、本当に専用の新幹線が専用のレールを走るらしい。
一体どうなっているのだろうか?
「という事だから、今から参加か不参加の決を取るよ」
亜美がタブレットを取り出して、順番に回していく。
名前の記入と参加か不参加を選択するだけで良いらしい。
俺は当然参加なわけだが、他の皆はどうなんだろうか?
特に仕事組とアイドル組だ。
「……という事で、皆参加に決定だねぇ!」
「マジか」
「ブルーウイングスの皆とか大丈夫なのん?」
「はい、大丈夫です」
「来週は特にスケジュール入ってません」
「です」
だそうだ。
姫百合さんも当然の様に参加するとの事なので、アイドルといってもそこそこ時間はあるのかもしれないな。
にしても、全員参加とはな。
「なはは! 渚とすぐに会えるー!」
「だから言うてるやん。 割と頻繁に会えるて」
「なはは!」
麻美ちゃんは特に嬉しそうにしている。
その後も、ゴールデンウィークには会えるだろうし、これぐらいの頻度なら麻美ちゃんも寂しくないだろう。
もしかしたら、亜美と奈央ちゃんは麻美ちゃんの為に、今回の花見を京都でやる事に決めたのかもしれないな。
「では、お花見に関してのお話は終わりですわよ」
「皆、旅行の準備だけはちゃんとしといてねぇ」
「はーい」
まあ、うちは亜美が全部やってくれるだろうから、俺がやる事は無いか。
「赤ちゃんズはどうするの? お花見にも連れて行くの?」
「ええ。 向こうでベビーカーを借りる事が出来るから、それに乗せてお花見に連れて行くわ」
「そのベビーカーは飛んだりしないわよね?」
「おほほほ! 西條グループの技術力ですわよー! 車椅子が浮くんだからベビーカーも浮きますわよー」
「何のための機能だよ……」
とはいえ、浮いてもちょっとした段差を登れるくらいらしいが。
いや、それでも相当凄いのだが……。
「では、今日のところは解散ですわよ! 後は自由行動!」
と、言われても、皆は今日のところはもうここで泊まるつもりのようなので、帰る人はいないようだ。
◆◇◆◇◆◇
翌日、渚ちゃんが京都へと発つので、見送りに来れるメンバーで駅まで見送りに来たわけだが。
「渚ー! 寂しいぞー!」
「いや、せやから週末には会えるやんか……」
「それまで会えないぞー!」
と、麻美ちゃんがとにかく寂しいと半泣きになっている。
よっぽど渚ちゃんの事が好きなんだな。
亜美や奈々美がいつでも家に来て良いと麻美ちゃんを宥めて、何とか落ち着いてくれた。
「ほな、行ってきます」
「おう」
「頑張ってねぇ」
「立派な和菓子職人になりなさいよ」
「はい」
「何か困った事があれば、いつでも連絡なさいな。 力を貸して差し上げますわよー」
「ありがとうございます」
皆から一言ずつもらい、渚ちゃんも涙ぐみながら感謝の言葉を述べて、駅の改札を潜る。
また来週にはすぐに会えるわけだから、そこまで悲しむ事もないだろう。
「渚ちゃん、行っちゃったねぇ」
「うわーん!」
「麻美……」
麻美ちゃんからすれば、大事な親友だからな。
俺達とはまた、寂しさの度合いが違うのだろう。
「明日から洗濯も炊事も掃除も、全部一人でやるのかー!」
……まあ、ただの強がりだろう。
渚は京都へと帰ってしまうのだった。
「希望です。 渚ちゃん帰っちゃったよぅ」
「麻美ちゃん大丈夫かな?」




