第2362話 渚の夢
渚が何処かに電話中のようだ。
☆渚視点☆
「うん。 そやから4月からはしばらくそっちに帰るわ。 いつまでて言われてもわからん。 自分が納得行くまでや。 バレーボールの試合もあるさかい、ちょいちょいおらんようなるけど。 うん、頼むで」
私が電話してたんは実家の父ちゃんや。
4月からしばらくは京都の実家に帰る予定にしとる。
「さて、後はこの話を麻美に伝えて」
◆◇◆◇◆◇
「何で帰るのー?!」
「いや、そやから和菓子作りの修行の為やがな」
「千葉でも出来るー!」
「それはわかっとる。 そやけどな、私が作りたいんは花菱屋の和菓子なんや。 花菱屋で、爺ちゃんと婆ちゃんのとこで修行せな意味あらへん」
「か、帰ってくるのー?」
麻美は半泣きになりながらそう聞いてくる。
私の事を親友、もしかしたらもう半分くらいは家族やと思うてるんかもしれへんな。
ほんでそれは私も同じや。
「当たり前や。 私が帰って来る場所はここや」
「わ、わかったー。 渚を応援するー」
麻美は涙を拭いて頷き、私の話を理解してくれた。
さすがは親友で半分家族やな。
「城崎温泉は楽しみやな」
「うむー。 そうだ渚。 修行を終えて帰って来たら和菓子屋やるのー?」
「んんー……まだわからん。 その時になってみなな。 それに、すぐに始めよ思うてもそうはいかんやろ。 準備やら何やらあるさかいな」
「そっかー」
「とにかくまずは修行や。 花菱屋の和菓子をしっかり受け継いで、納得したら帰って来るで」
「早めにー」
「出来るだけ努力はする」
◆◇◆◇◆◇
麻美の次は世話になっとる藍沢先輩やら、清水先輩らにも話して、その後は皆にもやな。
ちょうど夕飯の時間やし、今井先輩の家に行くか。
「麻美、今井先輩の家行くで」
「りょーかーい」
麻美と共に、夕飯の唐揚げを持って今井家へと向かう。
まあ、お向かいさんなんやけど。
◆◇◆◇◆◇
「んむんむ……なるほど、和菓子職人の修行の為に京都の実家に帰るんだね」
「はい」
「渚ちゃんもやりたい事に向かって動き出すんだね。 応援してるよぅ」
「ありがとうございます」
「となると、麻美がしばらくは一人暮らしになるのね」
「よゆー」
まあ、麻美は家事全般卒なくこなしよるし、いざとなれば向かいに今井先輩や佐々木先輩の家があるし大丈夫やろ。
「月島妹が居なくなって寂しくて泣くんじゃねぇか?」
「そんな事で泣くわけないー!」
「ほう。 さっき私が京都帰る言うた時、半べそかいとったんは何処の誰やったかいな?」
「半べそかいてないー!」
「いんや、かいとった」
「ぶーっ!」
麻美は脹れっ面になりながら唐揚げを頬張る。
可愛いやっちゃな。
「修行って普通どれくらいかかかるもんなんだ?」
今井先輩の素朴な質問が飛び出す。
「わかりません。 うちの爺ちゃん婆ちゃんが合格出して、私が納得いくまでは帰ってきいひんつもりではありますけど、それが1ヶ月なんか半年なんか、それとも1年なんか」
「い、1年帰って来ないのかー?!」
麻美がまた半べそかきながら大声を上げとる。
ほんまに大袈裟なやっちゃな。
「わからへん言うてるやん。 もしかした、1年以上かもしれんし」
「永遠の別れなのかー?!」
「だからたまには帰って来る言うとるやん……それにバレーボールの試合とかでも会うやろ」
「た、たしかにー」
「麻美、本当に一人暮らし大丈夫なのかしら?」
「よゆー」
「半べそかいてたくせに」
「かいてないー!」
「私達も和菓子職人の事はあんまり詳しくないけど、結構大変なの?」
「まあ、多分楽やないとは思います」
「身内の店で修行だし、独立を目指してる以上は厳しく見られるでしょうね」
「ですね。 それぐらいでちょうど良えですわ」
「4月からだよね?」
「はい」
「城崎には来るのぅ?」
「はい、ついて行かせてもらいます」
「うむうむだよ。 一杯楽しもうねぇ」
「まあ、ゴールデンウィークには一旦戻って来ますんで、そない寂しく無いですて」
「だな」
「皆にはまだ話は?」
「明日、『皆の家』に集まった人達には話しよと」
「うん。 皆、応援してくれるよ」
「はい」
◆◇◆◇◆◇
っちゅうわけで翌日、夕方頃に「皆の家」に行った私は、皆にしばらく京都へ行くという報告をした。
「和菓子職人の修行。 良いじゃないですの」
「渚、カッコイイじゃーん」
「い、いや、そないカッコイイですか?」
「やりたい事に向かって前に進もうとする。 カッコイイに決まってんだろ」
神崎先輩や蒼井先輩から、無茶苦茶に持ち上げられてもうて何や恥ずかしいわ。
「アルテミスの練習には参加されないんですか?」
前田さんが首を傾げる。
さすがに練習の為に京都と千葉を行ったり来たりする余裕はあらへんからな。
「自主練って形になる思う」
「ですよね。 それならば、定期的に練習メニューを組んで渚さんに共有しますね」
「お、それは助かるで」
「試合には出られるんですよね?」
「そら当然や。 来シーズンもエースを狙って……」
「あら、大きく出るじゃない渚?」
「きゃはは。 私達が復帰するのにエースを取れると思ってるわけー?」
「私も来シーズンからはアルテミスに合流掏るんですが?」
「ぐぬっ」
藍沢先輩、神崎先輩、マリアから圧力をかけられるてちょっとたじろいでまう私やった。
◆◇◆◇◆◇
「渚が将来的に和菓子屋を開くとして、どれくらいの規模で考えてますの?」
西條先輩がパソコンをカタカタと操作しながら、そんな話を振ってくる。
「まだ具体的な事は何も考えてはいいひんのですけど、爺ちゃん達の店ぐらいの規模は最低でもって感じですかね」
「店頭販売は勿論、ネットを利用した通販サービスまで視野に入れてるんですのね」
「一応ですけど」
「あのレベルの店舗となると、従業員もいくらか必要だよね」
「そうですね。 実際、爺ちゃんの店も何人か従業員雇うてるし」
「まだまだ課題は山積みですわねー」
「あ、いや。 そないすぐに店やるつもりもないんですけど」
「わかってますわよー。 だけどこういうのは早い段階で課題とかを見つけておいて、いざって時にスムーズに事が運ぶよう、事前に準備したりしておくものよ」
「な、なるほど……確かに店をやるっちゅう事は経営車になるいう事ですもんね」
「そうそう。 そう言った勉強もやっておいた方が良いですわよ。 和菓子を作るだけじゃないんだから」
「たしか……」
「おほほ。 困った事があれば、私達西條グループは何でも力を貸して差し上げますわよー」
「うむだよ」
「なはは。 心強いバックがついてるー」
「助かります」
ほんまに心強いバックやで。
自分の力だけてやろうとしても、多分何処かで躓く事になるやろう。
そんな時は、頼れる先輩達の力を借りて必ず実現させたる。
花菱屋千葉支店! それが私の夢や!
渚も自分の将来の為に動き出した。
「亜美だよ! 渚ちゃんもやる気だねぇ」
「麻美がまた半泣きになってるわよ」




