第2314話 久しぶりに緑風へ
買い出しを終えた夕也と奈々美。
☆夕也視点☆
夕飯の材料を買い出しに来ている俺は、家の前で同じく買い出しに出てきた奈々美と遭遇。
目的が同じという理由で、一緒に行動をしているわけだが、肉屋で必要な物を買い終えた時点で買い出しは終了し、別れる事になる。
「よし、買い出しも終わったし帰るか!」
グイッ……
「グェッ?!」
帰ろうとする俺を片手で引っ張って引き寄せる奈々美。
なんつー馬鹿力だよこいつ。
亜美がゴリラって言うのもわかるぜ。
「ちょっと待ちなさいって」
「何でだよ……もう用事は済んだんだから帰るだけだろうがよ」
「ツレないわねぇ。 せっかく2人きりなんだし、もうちょっとデート感覚楽しみましょうよ」
「デート感覚?! ただの買い出しだろう?」
「腕組みながら買い出しなんて半分デート感覚でしょ」
「バカ言ってないでさっさと帰るぞ。 洗濯物干さなきゃならないんだからよ」
グイッ……
「グェッ?!」
「私から逃げられるとお思いで?」
前に進もうと必死になって足掻いているが、さっきから1ミリも前に進まない。
片手で軽く引っ張ってるだけに見えるんだが……。
「お前、重いな!」
「ぶち転がすわよ?!」
「ひぇっ?!」
まるで般若か阿修羅みたいな形相の奈々美を見て、さすがの俺もビビるのだった。
「んで? 何だよ」
「久しぶりに緑風行かない?」
「はあ、しゃあないな」
緑風はこの街にある喫茶店だ。
駅前にも喫茶店はあるのだが、あえて俺達は駅から少し離れた場所にあるそこに行く事が多い。
というのも、学生時代には月学から近い場所にある緑風に通い易かったからだ。
バイトもしていた事があるし、もはや俺達のホームカフェなのである。
カランカラン……
「いらっしゃいませー。 おんや? 今井君に藍沢さんじゃないの」
「名塚先輩ご無沙汰です」
「お久ー。 もうちょっと顔見せてよね」
名塚先輩は俺達がバイトしていた時の先輩だ。
バイトリーダー的な存在だが、実は人妻さんなのだ。
年齢も俺達より一つ上だ。
「おお、本当に今井先輩と奈々美先輩だ」
「三浦さんも久しぶりね」
「お久しぶりです!」
三浦さんも俺達がバイトしていた時の同僚だ。
バイト歴自体は彼女の方が先輩なのだが、学年では俺と奈々美の方が先輩である。
「新しいバイト増えたな」
チラッと見た感じ、3人ぐらいは増員されているようだ。
どの子も月学生という事のようだ。
「やっぱり人数いると楽よね。 今井君と藍沢さんもいつでも戻ってきなよ」
「あー、まあ確かにアリね。 私、バレーしかしてないし」
「俺もバスケしかしてないが、家事やらないとだしな」
俺も奈々美も本業はプロアスリート。
その気になれば緑風のバイトにカムバックする事も可能ではあるのだが、俺達も家事に育児にとやる事はある。
「そうそう! パフェの人がこの前赤ん坊連れて来てたっけ」
「美夕ちゃん! 可愛かったです」
亜美の奴、美夕を連れて来てるのか。
「藍沢さんとこも産まれたんでしょ? 連れて来なよ」
「ま、また今度ね」
「約束ですよ?」
「わ、わかったわよ」
奈々美も珍しく、名塚先輩と三浦さんのテンションにたじろぐのであった。
「ところで、2人は浮気中?」
「違います……」
「買い出し終わりの一休憩に来ただけね」
「おー、そかそか。 注文何にする?」
「ホットコーヒー」
「私はホットコーヒーとパンケーキ」
「承りー」
名塚先輩軽いなあ。
あれで人妻なんだよな……。
「今日は亜美は来てないの?」
「来てないですね。 買い出しの時によく来るみたいです」
「なら今日は来ないな」
「浮気がバレる心配はないわけね」
「だから違うっつーの。 お前が俺を連れ回してるだけだろ」
「まあね」
たまたま買い出しのタイミングが同じになっただけだが、奈々美の奴は何でこんなに俺と戯れてるんだろうか?
「宏太に何か不満でもあるのか?」
「へ?」
「いや。 俺に戯れてる理由が知りたいだけだが」
「あー。 別に何も不満は無いわよ。 夫婦仲も円満だし心配ご無用」
「ふむ。 それは良いんだが、それなら何で俺とこんな事してんだ?」
「好きだからに決まってるでしょ」
「……」
「わあ……やっぱり浮気なんですね……」
「違う」
「ふふふ。 ま、買い出しのタイミングが被っただけなのは間違いないわよ」
「でも、お2人はバイトしてた頃から凄い仲良しでしたよね?」
「そうかー?」
「私と名塚先輩からはそう見えてましたけど」
というか三浦さんは仕事に戻らなくて良いのだろうか……と、思ったが客が俺と奈々美だけだから良いのか。
俺達もバイトしてた時はこんな感じだったしな。
「私達は昔から仲良しよ? ね、夕也?」
「そうかー? グェッ?!」
「仲良し、よね?」
「は、はい」
「あははは! 本当仲良しじゃないとそのノリ出来ませんよね」
まあ、三浦さんの言う通りではあるんだが。
俺はどう見ても尻に敷かれているだけな気がするんだよな。
「私はパフェの人の事を詳しくは知らないからかもしれないけど、今井先輩と藍沢先輩の方がお似合いに見えるんですよね」
「あら、そう思う?」
「はい」
「夕也、入れ替え婚でもする?」
「するか!?」
「あはは」
何を考えてんだこいつは。
「お待たせしました。 ホット2つとパンケーキ1つお持ちしました」
「名塚先輩名塚先輩! この2人やっぱりデキでます」
「でしょー? 仲良過ぎだし」
「話聞いてたか?! 俺と奈々美はただの幼馴染だっての」
「いやいや。 ただの幼馴染はここまでは仲良くないってば」
「ですです」
「実際、2人の間にも色々あったんじゃないのー?」
「名塚先輩鋭いわね!」
「何も無いっての」
「キスなんて序の口よね」
「おお。 キスはあるんだ」
「何かドキドキしますね!」
女性陣は俺の声なんか聞こえちゃいないらしい。
あっちだけで勝手に盛り上がってやがる。
「ずずっ……」
さっさとコーヒー飲んで黙って帰るか。
洗濯物干さなきゃならないからな。
「高校時代に保健室でえっちもした事あるわよ」
「ぶふっ!!」
「きゃーっ!」
「す、凄いですね!」
何て暴露してんだこいつ?!
そんな事、人に話すような事かよ。
「夕也、汚いわね」
「お前の所為だろう……ずずっ……はあ。 俺はもう帰るぞ。 金は置いとく」
「え、ちょっと待ってよ」
「付き合ってられん。 帰って洗濯の続きしないとならんのだ。 じゃあな」
とりあえずコーヒーを飲み干して、お代だけテーブルに置き立ち上がる。
「そんな怒らないでよね。 悪かったわよ」
「私達も少々ノリ過ぎてしまい申し訳ない」
「すいません」
「別に怒ってはいないけど。 本当に洗濯物が残ってるんだ」
「じゃあもうちょっと待って。 すぐに全部食べるから」
と、慌ててパンケーキを食べ始める奈々美。
何をそんなに慌ててんだか。
「はあ……待っててやるからゆっくり食べろ」
「おお……優しい」
「やっぱり2人はデキてるんだ……」
「違うって!」
俺と奈々美の関係って、そんなに誤解されるような風に見えるんだろうか?
久しぶりに緑風で過ごした夕也達であった。
「紗希よ。 たまに行くけど、あの店員さん達いつもいない?」
「常連の私が言うけど、ほぼ絶対いるよ」




