第2312話 引退後の事
珍しく何やら勉強中の遥。
☆遥視点☆
1月10日の火曜日だぜ。
毎朝のトレーニングを終えた私は、理学療法士を目指す為の勉強を始める。
「遥ちゃん、おはようだよ」
「あーい」
「亜美ちゃん、おはよう」
「うん? あ、理学療法士の勉強?」
「おう。 2月末に試験があるからな」
「そうなんだね。 そういえば遥ちゃん、受験資格ってあるの? 青山体育大学だよね?」
「ふふふ。 何と、あそこにはリハビリテーションの専攻もあってな。 私も太一さんもしっかりそこで知識を学んで卒業してるのさ」
「体育大学なのにリハビリテーションなんてあったんだね」
「変わってるよな? 普通医学大学とかだもんな」
「うん」
まあ、亜美ちゃんが気にしたのも頷けるわな。
理学療法士の試験は、いきなりは受けられないのだ。
指定の大学などで必要な知識を身に付けて、卒業しなければいけないのだ。
私も太一さんもそれは知っていたし、だからこそ試験を受ける事にしたのだ。
「頑張ってね」
「ああ、頑張るさ。 さすがの亜美ちゃんでも理学療法士の勉強は人に教えられないもんな」
「え? 教えられるよ?」
「教えられるのかい?!」
いくら亜美ちゃんでも、そこまで専門的な知識は持ってないと思っていたんだけどな……。
「何でそんな事まで教えられるのよ……あんた一体何なわけ?」
話を黙って聞いていた奈々美も呆れたような顔で訊いている。
「気になる事は何でも知りたいが故だよ」
「ああ、司法試験も自信あるんだものね……六法全書も全部頭に入ってるんだものね……」
「何でそんなにテンション下がってるの?」
「別に……幼馴染ながらとんでもない化け物だと思って」
「だなあ。 勉強してる私より知識持ってそうだ」
「あはは。 まあ、私は受験資格無いけど教える事は出来るかもしれないから、何か訊きたい事あれば言ってね」
「ああ、頼むよ」
やっぱり亜美ちゃん先生は偉大だなあ。
「週末にはママさん組旅行で勉強出来ないからな。 今の内にやっとかねーと」
「遥ちゃん、勉強熱心だね。 学校の勉強はあんまりだったのに」
「うっ……まあ、好きな事とそうでない事の違いだな!」
「うんうん。 好きな事は頑張れるよねぇ」
「希望も幼稚園の先生になるのに頑張ってたわよね?」
「うん。 私達も色々とお手伝いしたからね」
「そうね」
亜美ちゃんは別に好きな事じゃなくても頑張ってるような気はするけどな……。
強いて言うなら、「知らない事を知る」のが好きな事なんだろうか。
「でも、資格かあ。 持ってると色々便利そうではあるよね」
「弥生を見てると全然そんな風には思えないわよ」
「あ、そだね」
「ははは……」
私も太一さんも、将来的には小さなリハビリ専門の施設を作るという目標が出来た為、この資格は絶対に必要なんだ。
頑張って受からないとな。
◆◇◆◇◆◇
☆奈々美視点☆
目の前で頑張って勉強している遥を眺めつつ、バレーボールを引退した後の自分について考えている。
私は結局バレーボール以外に何がしたいのかしら?
大阪の黛姉妹は今やタレントとしてもそれなりに活躍してるし、希望は幼稚園の先生、紗希はデザイナー、亜美は奈央の秘書を頑張っている。
遥も理学療法士なんて大それたものを目指し始めたし。
「何か、私だけ置いてかれてる気分だわ」
「ん? どしたの奈々ちゃん?」
「いえ。 私は将来どうしたいのかと思って」
「なるほどね。 別に何かしなきゃいけないわけじゃないでしょ? 専業主婦だって良いじゃない」
「まあ、そう言われたらそうなんだけどね」
でも、皆が何かやりたい事を見つけているのに、自分だけ何も無いっていうのが嫌なのよね。
「奈々ちゃん歌が上手いし歌手になれば良いよ」
「姫百合さんみたいな事言わないでよ。 私は別に歌手になりたいわけじゃないのよ」
「あははは。 知ってるよ」
「まったく……」
「じゃあそのゴリラパワーを活かした職を探すか?」
「遥、覚悟は出来てるわね?」
「うげ……」
「はあ……まあ、別に専業主婦でも良いけどね」
「うんうん。 難しく考えない方が良いよ」
「そうだぜ。 その内に何か見つかるかもしれないしな」
「遥の言う事もわかるわ。 まだ見つかってないだけかもね」
とりあえず前向きに生きていきましょ。
「読モとか、ああいうのは良いかもねぇ。 奈々ちゃん何を着ても似合うし」
「なるほど……モデルか。 悪くないかも」
早速良さげな候補が飛び出したわね。
頭の片隅にでも入れときましょ。
◆◇◆◇◆◇
夕方になり、今日の所は皆解散。
とはいえ、私達と麻美の家は今井家で一緒に夕食だけど。
何かこれが当たり前になってるのよね。
亜美は「賑やかで楽しい」と、実に嬉しそうにしているわ。
「そうだわ。 夕也、あんたはバスケ辞めた後の事どれくらい考えてんのよ?」
「何だ薮から棒に」
「考えてんのかって聞いてんのよ」
「まだ何も考えてないが」
「うわわ。 ダメダメだよ。 近い将来の事なのに」
亜美、私の時と言ってることが変わってるんだけど。
多分、自分の旦那だから自分にも関係ある事だし、ちょっと厳しい評価してんのね。
「んなこと言われてもな……で、それがどうかしたか?」
「いや、仲間探しよ」
「仲間探しだ?」
「奈々ちゃんもバレーボール辞めた後の事をどうするか悩んでるみたいなんだよ」
「何だ、悩んでんのか?」
話を黙って聞いていた宏太が入ってくる。
あんまりそういう話は興味無いのかと思ってたけど、旦那として一応は気にするのかしら?
「悩んでるって程じゃないのよ。 何も無きゃ無いで専業主婦でも良いとは思ってんだけど、周りの皆がやりたい事見つけて頑張ってるのを見るとね」
「ああ、まあわからんでも無いですね」
と、渚も話に入ってきたわ。
この子は何か考えてんのかしら?
「渚はー?」
「私か? 実は和菓子屋を継ごうかと思うてんのや」
「継ぐって花菱屋を?」
「そや」
渚の祖父母がやっている和菓子屋の花菱屋。
一度お邪魔してからは、あの店の和菓子を通販で取り寄せるくらいにはお世話になっているわ。
「京都に帰るのー?!」
と、麻美が半泣きになりながら訊いている。
「ふっ。 千葉に支店を作るんや。 まあ、修行の為にしばらくは京都に帰らなあかんけどやな」
「な、なるほどー」
「渚も考えてるのね。 てっきり仲間かと思ってたわ」
「すんません……まあ、考え出したんも最近なんですけど」
「ちゃんとやりたい事見つけただけ偉いよぅ」
「だねぇ」
やっぱり私も何かしら見つけたいわね。
今のところモデルが一番候補だけど、まだまだ何かあるかもしれないし。
「夕也、勝負よ」
「勝負するような事かよ……」
と、呆れられてしまったわ。
まあ、確かに競うような事じゃないわね。
「夕ちゃんは早く何が探すんだよ? さもないと専業主夫になってもらうよ」
「お、おう」
旦那には厳しいわね。
さて、私には何があるのかしらね?
奈々美も先の事を考え始めたようだ。
「奈々美よ。 私は何がしたいのかしら」
「焦らない焦らないだよ」




