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第2775話 諦めない

流れがクリムフェニックスに傾いた。

 ☆渚視点☆


 クリムフェニックスとの試合は大きな分岐点を迎えたで。

 ここに来てお姉ちゃんが、麻美を清水先輩の代わりの選手と認めて、全力でぶつかってきよった。

 スコアは9-11でまだリードしとるけど、お姉ちゃんが何ややる気MAXになった所為で流れがあっちに傾くかもしれん。

 ここが踏ん張り所やな。


「むむぅ。 月島先輩が強くなったー」

「そうドスな。 燃えられる相手がおる時の弥生はんは通常より2割増しで強いですえ」

「冗談じゃないわよ本当に。 さっきまででも十分強いのに、まだ上がるって何よ」


 佐伯先輩は「ほんと、化け物しかいない!」とか何やキレとるし。

 佐伯先輩は自分の事を「一般人代表」とか言うたはるけど、一般人よりは化け物よりやと思うわ。


「サーブ来るよぅ。 ミアさんのサーブ頑張って拾うよぅ!」

「ですね」


 ここで流れを一気に持ってかれるわけにはいかへん。

 何より、妹でエースの私を差し置いて麻美を認めたお姉ちゃんにムカッ腹が立ってしゃあない。

 ミアさんは他人のプレーを模倣出来る器用さと力がある。

 そのプレーの幅は無限や。

 サーブかて何をしてくるや読めへん。

 さっきは清水先輩の天井サーブを打ってきよったしなぁ。


「いきまス!」


 見た目は普通のドライブサーブっぽいか?

 その程度のサーブなら雪村先輩は普通に拾いはるで。


「はっ!」


 パァンッ!


「!?」


 は、速い!?

 このサーブは藍沢先輩の超速パワーサーブや!


「はぅんっ!」


 パァンッ!


 雪村先輩はそれでも何とかレシーブする。


「おお?」

「雪村はんのレシーブがBパスになるやなんてな……」


 よほどの事でも無い限り雪村先輩のレシーブが乱される事はあらへんのに、今回は少し乱れてるで……。

 それでもBパスに収まる辺りはさすがと言わざるを得へん。

 普通の(リベロ)やったらまずレシーブ出来へんかったやろう。


「流れは渡さしまへんえ!」


 眞鍋さんは迷わずに同時高速連携のサインを出しはった。

 ここで決めへんと、ほんまに流れをクリムフェニックスに持っていかれる。

 私に来い!


「佐伯はん!」


 ここはエースの私やなくて、佐伯先輩にトスが行く。

 ブロックがおらへんし妥当やな。

 さすが眞鍋さん、よう見えとる。


「はっ!」


 パァンッ!


「拾いまス!」

「なっ?!」


 パァンッ!


 ミアさん、あれは今日の麻美の模倣か?!

 もう出来るようになりよったんか。


「やばいやばい!」

「ここ決められたらいよいよやばいー!」


 流れを完全に持っていかれかねへん。

 何とか止めたいとこやで。


「ミアはんがトス出来はらへんから、連携はあらへんよ!」

「止めるよぅ!」

「おー!」


 クリムフェニックスは誰で来よる?


「月島さん!」

「おう! 決めたるわ! 来いや麻美っち!」

「今度こそ止めるー!」

「お姉ちゃんか! ここを決めさせるわけにはいかへん!」


 さっきのリベンジや!


「おらぁっ!」

「ちょいさー!」


 パァンッ!


 ピッ!


「ぬわわー!」

「くっ、止まらへん!」


「ふぅ。 これがウチの実力っちゅうわけや。 この試合、もうあんさんらはウチを止めるのは無理やで。 だはは!」

「む、むぅ……」

「ば、ばけもんめ……」



 ◆◇◆◇◆◇



 遂に流れを完全に奪われた後は、元々の力の差も相まってあっという間に点差を広げられていき、気付いたら25-17で2セット目を取られてうた。

 セット間のインターバル、ベンチに座る私達はかなりの疲労を感じとる。


「やっぱり強いー……」

「さすがに清水さんのライバルですね。 弥生さんが本気になったら手に負えないです」


 前田さんもデータを見ながら、今のお姉ちゃんを止める術が見当たらないと頭を悩ませてはる。


「そうは言っても、止めなきゃ勝てないわ」

「そうどすな」

「でも、実際のところあれに対抗出来てるのは雪村先輩だけですよ?」

「うっ」

「はぅ」


 雪村先輩がずっとコートにいはったら何とかなるんやけどなぁ。

 (リベロ)である以上、前衛におっても何も出来へんし。


「前田さん、どうする?」

「お手上げです」

「なはは……」

「はぅ……」


 あの前田さんがこないに早く「お手上げ」て言うっちゅう事は、データ上ほんまに打つ手があらへんって事かもしれへんな。


「何とかして、また流れをこっち手繰り寄せれば?」

「今のクリムフェニックス相手にそれが出来る確率は……あっても1%以下かと」

「0やありまへんやん」

「そうね」

「まあ、0とは言いませんが極めてそれに近いですよ」

「諦めない理由としては十分でしょ。 勝つにしろ負けるにしろ、出来る事を全力でやるだけよ」

「よう言いはりましたな、和香はん」


 この人達はまだこの試合を諦めてへん。 

 プロリーグは高校時代のインターハイみたいに、1回負けたら終わりの大会やない。 1、2回負けたかて、リーグ優勝の目はあるっちゅうのに。


「わかりました! 私もここで出来る限りのデータ処理をして勝ち筋を探します。 出来るだけ時間を稼いでください!」


 そんな佐伯先輩と眞鍋さんの言葉に、前田さんも前向きに応える。

 こうなったら私も負けてられへん。

 チームの大黒柱であるエースが一番最初に折れるわけにはいかへんのや。

 この試合中に、藍沢先輩やお姉ちゃんに可能な限り追いついたる!


「おお、渚から匂いがー!」

「な、何がや?! 臭いんか?!」

「プンプン匂うー!」


 な、何か嫌やな……帰る前にちゃんとシャワー浴びて帰らな……。


「じゃあ3セット目、精一杯足掻いてやりますか!」

「おう!」


 さっきのセット、完璧に力負けして落としたっちゅうのにチーム内の士気はむしろ上がっとるように感じる。

 皆、勝ちを諦めてへん証拠やな。



 ◆◇◆◇◆◇



 コートに戻ってポジションにつき、試合再開の合図を待つ。


「何や何や。 あれだけの差を見せられたいうのに、むしろ燃えたぎらせて帰ってきよったで」

「諦め悪いわねー……」

「うっさい! 私は負けるのは慣れてるけど、負けたいわけじゃないわよ」

「そうどすな」

「さよか。 ほな、このセットは完膚なきまでに叩き潰して……おん?」

「なはは。 プンプン匂うー」

「お姉ちゃん。 あんまり私をナメんといてや」

「渚……何やえらい貫禄が出てきたやん。 エースとしてまた一皮剥けそうやな」

「勝つのは私達アルテミスや」

「抜かせ。 気合いだけでウチらに勝てる思うたら大間違いやよ。 亜美ちゃんとか藍沢さん連れて来てから言いや」

「むっ」

「ぬっ」


 お姉ちゃんの言葉に、私と麻美が同時に反応する。


「おるで!」

「いるぞー!」

「おん?」

「私が藍沢先輩の代わりにエースを託された月島渚や!」

「私が亜美姉の代わりにオールラウンダーを任された藍沢麻美だぞー!」


 ゴオォォ……


「はあ……弥生っちはすぐそうやって相手に火を点けるんだから……」

「だはは! おもろなってきたやん。 これでまたわからんようになるで、この試合」


 今日、私はお姉ちゃんを越えたる!


もう一度流れを掴む為に反撃開始!


「亜美だよ。 渚ちゃんも麻美ちゃんも燃えてるねぇ! 期待大だよ!」

「負けたら承知しないわよ!」

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