第2274話 燃える相手
流れを取りきれないクリムフェニックス。
弥生に原因が?
☆弥生視点☆
アルテミスとの試合は、思いの外苦戦しとるで。
2セット目ま8-10でまたまたリードされとる。
ここに来て、渚のプレーに躍動感も出てきよったし、麻美っちは「嗅覚撹乱作戦」に対する反応が早くなってきとる。
何より、佐伯和香が思いの外強敵や。
確かにやりよると思うてたけど、まさかここまでやとはな。
あの亜美ちゃん、藍沢さん、紗希に続いてOHの千葉四天王と呼ばれてたんは伊達やないってわけやな。
「高校時代に対戦してみたかったもんやで……」
さて……相手の強さに感心しとる場合やないな。
この嫌な流れを何とか変えな、このままずるずるいってまうで。
「どうしたもんかいな」
「どうしたもこうしたも、頑張るしかないっしょ」
「ワハハ」
「でス」
「そやけど、ウチら今んとこ割と全力でやってこの結果やで」
「それだけアルテミスが強いって事ですね……」
「冗談やないでホンマ……」
アルテミスが強いんは最初からわかっとる。
そやけど今年のアルテミスには亜美ちゃんも、藍沢さんも、西條さんに紗希、蒼井さんかておらへんのやで。
ベストメンバーとは言われへんアルテミスに、試合の流れを持っていかれっぱなしやなんて、誰が想像した?
「弥生っちは全力でやってるって言うけどさ、私から見たらまだ7割程度にしか見えないわよ?」
「はあ? 何言うてんのや? ゾーンの事まで加味したらそうやろうけど、プロリーグではゾーンは使わへんってのが亜美ちゃんとの約束や。 ゾーン使わへん状態やったら全力に近いで」
「ワハハ」
「ゾーンの事は言ってないっでば。 それ抜きにしても私から見たら7割に見えるって言ってるの」
「な、何やて?」
美智香の癖に何や偉そうやな。
ウチが全力や言うたら全力なんや。
「亜美っちとやってる時の弥生っちは、もっと強いと思うけど?」
そう言うと美智香は自分のスターティングポジションへ戻って行きよった。
「亜美ちゃんとやっとる時……やて?」
「シュウチュウしいヤ」
「あ、ああ」
とりあえず試合に集中するか。
サーブはアルテミスの天堂さんやな。
あの子も中々やりよるで。
プロ二年目やけど、かなりの成長株や。
パァンッ!
「千沙!」
「はい!」
天堂さんのサーブは千沙の正面。
このぐらいのサーブやったら千沙なら楽勝で拾いよるで。
パァンッ!
「ナイス千沙っちー」
レシーブが上がったら、ウチ、ミア、浜中さんはトスを上げるつもりでセットポジションに向かう。
この時点では三人共本気でトスを上げるつもりでおる。
僅かな隙でも見せようもんなら、麻美っちの嗅覚は嗅ぎ取ってきよるからな。
誰がトスを上げるか確定するのは浜中さんのハンドサインが出た時や。
今回は……ミアやな。
セットアッパーが決まったら、他二人は自分の役目に戻る。 ウチはもちろんバックアタッカーや。
今回、ミアは同時高速連携のサインを出しとらへんから、普通のトスやな。
「ヤヨイさん! お願いしまス!」
ミアからトスが上がる。
キャミィが囮になってブロック一枚釣っとるけど、そんなキャミィに釣られずにウチにブロックを合わせて来よるブロッカーが1人。
「なはは! 私は出し抜けないぞー!」
「さすがやな!」
麻美っちだけは匂いでウチの時間差バックを読んでたみたいやな。
そやけど一枚ブロックではウチは簡単に止まらんで!
「おらぁっ!」
「こっちにちょいさー!」
パァンッ!
ウチのスパイクコースまでお得意の匂い察知で読み切ってきよるか!?
「千沙! カバーや!」
「たぁっ!」
ウチのスパイクが止められたのを見てすぐに跳びつく千沙やけど、あと少しで届かず。
ピッ!
「ナイス麻美!」
「藍沢妹、値千金のシャットアウトね!」
「なはは!」
あ、麻美っちめ……。
前からアレのブロックは苦手やけど、あない簡単に止められるやなんて。
「なは! なはは! 我天才也ー!」
「そらまあ、間違いあらへんけどやな」
麻美っちは間違いなく天才側の人間や。
バレーボールに対してだけやなくて、色々な分野においてそれは発揮されとる。
「さあ、どんどん離していくわよ」
8-11になりまた点差が広がってもうた。
「弥生っちー?」
「すまん」
「まあ、私も麻美っちのブロックは苦手だからわかるけどさ。 今のは決めてよね」
「そやな。 ブロック一枚は決めたいとこや」
「やっぱまだ全力出せてないわねー」
さっきも言われたけど、ウチは全力でやっとるつもりなんやけどな……。
「亜美っち達が居なくてイマイチ燃えないのはわかるけどね」
「も、燃えてないってか……」
た、確かに、亜美ちゃんはウチの最大のライバルやし対戦してる時は燃えるし、普段以上の力は出せてる気がするけどやな……。
「亜美っちが対戦相手に居る時は120%出てるわよ」
「ウチ今7割に見えるんやっけ?」
「うむ」
そないに違うんか……。
「そやかて、亜美ちゃんおらへんのはどうしようもないやん」
「だったら、亜美っちの代わりを見つけなよ」
「亜美ちゃんの代わりてか……」
そういえば試合開始前に、麻美っちが頻りに言うとったな……。
「亜美姉の代わりだぞー!」
ええやろう。 麻美っちやったら十分代わりになるやろう。
「麻美っち!」
「ほへ?」
「今からウチはあんさんを、亜美ちゃんやと思うて全力で勝負したる」
「なはは! 亜美姉の代わりだぞー!」
「覚悟しときや麻美っち。 こっからは今までのウチとはちゃうで」
「私も負けないぞー!」
バチバチ……
「わ、私を差し置いて麻美と勝負やて……? お姉ちゃん、私をナメとるんか!?」
「渚の事も認めとるよ。 そやけど、亜美ちゃんの代わりになれるんは麻美っちの方や。 すまんな」
「っ! お姉ちゃんぶっ倒す!」
「弥生っち。 渚っちまで燃えさせてどうすんのさ……」
「だはは! 相手は強い方が燃えるやろ!」
「はあ……責任取ってよねー、もう……」
さて、試合の方は引き続き天堂さんサーブや。
パァンッ!
「拾いますよ!」
「任せたわよ千沙っちー!」
パァンッ!
ここは当然安定や。
んで、今まではここで麻美っちの嗅覚を惑わす為に、ウチもトスを上げるつもりで動くんやけど、麻美っちももうだいぶこれに慣れてきたみたいやし、やるだけ無駄やろ。
「ウチは攻撃に全力出させてもらうで」
浜中さんがセットアップ。
「月島さん!」
もう一度ウチのバックアタックを使ってきよる。
よっしゃ!
「麻美っち! 来いや!」
「なはは! 勝負ー!」
麻美っちとのリベンジマッチや。
そこに渚もついて来よってブロック二枚。
「これがウチの全力や!!」
パァンッ!
「ぬわー!」
麻美っちのブロックをパワーで打ち抜いてアルテミスコートに叩き落とす。
ピッ!
「ふぅ……どや!」
「む、むぅ! さすがは月島先輩ー!」
ようやく燃えてきたし、ここから反撃開始や!
麻美を亜美の代わりと見定めて全力を出す弥生。
「希望です。 ああなると月島さんは強いんだよぅ」
「そうなんだよ。 皆頑張れー!」




