第2273話 ターニングポイント
美夕をあやしながら試合を観戦する亜美。
☆亜美視点☆
ネット中継でアルテミスとクリムフェニックスの試合を観戦中の私達。
「うえーん!」
「おう、よちよち。 美夕はよく泣く子だねぇ」
子供を腕に抱いてあやしながらの観戦である。
試合の方は相変わらず流れをアルテミスがキープしたまま進行し、2セット目は途中で渚ちゃんサーブがサービスエースになり、7-9まで進んでいるよ。
試合が進むにつれて、渚ちゃんの攻撃に躍動感が出てきた。
今シーズン、エースに抜擢された渚ちゃんだったけど、どうも今まではプレーが固くなっていたというか、何か模索しながらプレーしているように見えたけど、この試合中に何か吹っ切れたみたいだねぇ。
「渚らしい攻撃になってきましたわね」
「きゃはは。 あれじゃ奈々美みたいね」
「実際、私に近いプレーヤーだったもの」
「だねぇ。 高校時代は奈々ちゃんの弟子だったもんね」
「ゴリラはもういらないわよ……」
「誰がゴリラよ」
ゴリラかどうかはさておき、これで渚ちゃんももう一皮剥けそうではある。
これからの成長に期待だね。
◆◇◆◇◆◇
☆佐伯視点☆
つくづく思うけど、月ノ木学園の卒業生は皆おかしいのよ。
皆、どんなスペックしてんのよ。
私の同世代だった清水さん世代は言わずもがな、一個下の月島妹に藍沢妹もかなりヤバイ。
更にその下の廣瀬さんも天才的なセンスの持ち主なのよね。
来年にはあの子もアルテミスに加入するって話だし、負けてられんわ。
さて、試合の方は2セット目7-9でリードして眞鍋さんのサーブになってるわ。
両チーム、ローテーションは最初の形になったとこ。 つまりこっちには雪村さん、あっちには新田さんがいる状態よ。
「眞鍋さんナイサー!」
月島妹のサーブでサービスエースが取れたのはかなり美味しいわね。
流れはまだこっちにあるし、何とか逃げ切りたいとこではあるわ。
パァンッ!
眞鍋さんのサーブはフローター。
少しでも相手のミスを狙っているみたいだけど、新田さんは簡単にはミスしないわ。
「オーライです」
パァンッ!
「あれもおかしいわよね……」
というか、私の周り皆おかしいわ!
新田さんがレシーブを上げた場合、クリムフェニックスはミアさんをSとして使ってくる事もある。
今回は違うみたいだけど……。
「うおー……鼻がおかしくなるー」
藍沢妹はさっきから「鼻が鼻が」と、意味わからない事を言ってるわ。
話によると、相手のやろうとしてる事を「嗅覚」とかいうので察知するらしいわ。
本当に謎だわ。
結果トスを上げにきたのは月島弥生。
藍沢妹はようやく「こっちかー!」とか言ってブロックへ向かう。 月島妹はそれを見て無いも言わずにブロックについて行くわ。
何だかんだ言って信頼してるみたいよ。
「反応早なっとるやんっ!」
「なはは! 私は試合中に進化するー!」
月島弥生がトスを上げた先はキャミィさん。
バックアタックね。
「アサミ! ナギサ! けしとべヤー!」
何か物騒な事言いながらスパイクして来るわね。
スパイクで人が消し飛ぶわけないでしょ。
パァンッ!
藍沢妹は直前にソフトブロックに切り替えて、ボールを上方に弾くようにして対応した。
そういうとこはしっかりしてるわよね、あの子。
ブロックに当たったボールは大きな弧を描きながら、遥か遠くへ飛んで行く。
雪村さんも追いかけるのはやめたみたいだわ。
ピッ!
「ワハハ!」
「むぅ。 スパイクの威力を殺しきれなかったー」
ブロックへ行く反応が少しは早くなったみたいだけど、それでも少し遅れていたみたいね。
ブロックの高さが足りなくて、スパイクの勢いを殺せなかったみたいよ。
「8-9よ! まだリードしてるけど、油断しない事!」
とりあえず声出しはしていかないと。
一般人の私が出来る事なんてこんくらいだわ。
「なはは! どこかでブレイクしないとー!」
「早めに引き離さんと、流れ変わったら危ないで」
「む、むしろよくここまで流れを維持してきましたね……」
「それもそろそろ怪しいと思いますえ」
「なはは。やっぱりわかりますかー」
「はぅ」
1セット目は序盤から藍沢妹が好プレーを見せて流れを作っていたけど、このセットはその藍沢妹があまり仕事を出来ていないわ。
何だかんだ言って抑えられ始めている。
このままいくと、流れを奪われるのは時間の問題だわ。
「じわじわと追い詰められる感じは嫌ね」
クリムフェニックス側はローテーションを挟み、サーバーは月島弥生に変わる。
あれのサーブに関しては、雪村さんがこちら側の対抗策。
高速ナックルサーブとかジャイロサーブだとか、もちろん普通のパワーサーブもかなり厄介。
「いくで! おらっ!」
パァンッ!
今回はどのサーブか知らないけど、横からはインパクトの瞬間には反応してステップを踏んで移動する音が聞こえてきた。
雪村さん、あの一瞬でサーブコースを読んだのかしら?
「はぅっ!」
パァンッ!
おーおー。 簡単そうに拾うじゃない雪村さん。
「ナイスー!」
「さすがとしか言えまへんわ」
雪村さんのレシーブ成功を確認して、攻撃の動作に移るわ。
今回はサインありだし、高速連携ね。
アタッカー全員で同時に助走に入り、同時に踏み切る。
「天堂はん!」
「はい!」
パァンッ!
ブロック一枚の天堂さんにトスが合わせられる。
「ここです!」
パァンッ!
そのスパイクに新田さんが跳びついてレシーブを上げる。
「ひ、拾われた!?」
「すいません! コース甘かったです!」
「謝るのは後! 守るわよ!」
「おー!」
これを決められたら流れが向こうに傾きかねないわ。 このセットのターニングポイントになるプレーよ。 逆にこのプレーを取れたら、もう一度勢いに乗れるわ。
さすがにレシーブが乱れてCパスになってるわ。
浜波さんがセットアップするもハイセットになりそうよ。
「むむっ」
さすがの藍沢妹も、これはすぐにトス先を察知したみたいね。
でもまだ動かないのは、それを浜中さんに悟らせない為ね。
そして、浜中さんがボールに触った瞬間に動き出す藍沢妹と月島妹。
良いコンビよね。
今度は月島弥生にトスが上がる。
「なはは! ちょいさー!」
「お姉ちゃん勝負や!」
「おう! 食らえや!」
パァンッ!
月島弥生のスパイクに藍沢妹がワンタッチを取ると、スパイクの勢いが弱まった。
「拾うよぅ!」
それをすかさずに拾いに行く雪村さん。
「反応早っ!」
パァンッ!
「おお。 ええレシーブ返ってきはったわ」
雪村さんのレシーブはきっちりAパスになっている。 サイボーグなんじゃないかしら?
「ほな次は! 和香はん!」
「よし! 決める!」
私に上がったトスに跳びつく。
ブロック一枚。 ストレートが空いてるけど新田さんが詰めてるから無し。
クロスは月島弥生がカバー。
「じゃあここ!」
パァンッ!
守備の薄いインナークロスに打ち込む。
ピッ!
「よっし!」
「ほぇー! あんなコースにも打てるんかいな!」
月島弥生もこれには驚い様子。
私の事、ちょっとナメてるみたいね……。
「千葉四天王と呼ばれた実力。 見せてあげるわ」
「楽しみやな。千葉の四番目はん」
バチバチ……
絶対にギャフンと言わせてやるわよ、月島弥生!
流れを奪われないように踏ん張るアルテミスメンバーであった。
「亜美だよ。 頑張って皆ー! 流れはまだアルテミスだよ!」
「和香さんも中々やるわね」




