第2272話 超余裕で勝つ
コートに戻ってきた渚。
すっきりした顔をしているようだ。
☆渚視点☆
一旦ベンチに戻されて前田さんから少しお叱りを受けた私は、自分のプレースタイルをようやく思い出す事が出来たで。
私が目指すべき人は神崎先輩でも宮下先輩でもあらへん。
藍沢先輩なんや。
「戻ってきたわね。 お早いお帰りで。 自分のプレースタイルは思い出せたかしら?」
戻ってくるや、隣りに立つ佐伯先輩が声を掛けてきはった。
この人は最初から、私のプレーが迷子になってるのに気付いたはったんやな。
伊達に高校時代に千葉四天王と呼ばれてへんわ。
「はい。 もう大丈夫です」
よっしゃ。 今の私が藍沢先輩にどんだけ近付けるかはわからんけど、やれるだけやったろうやないか。
「じゃあサーブいきます
「天堂さんナイサー!」
スコアは2-3。
天堂さんのサーブで試合再開や。
パァンッ!
天堂さんのサーブは鋭いドライブサーブや。
ええサーブやねんけど新田さんはあっさり拾うてきよる。
そこからミアさんに繋がり、同時高速連携を繰り出してくる。
「ぬー! 月島先輩のバックアタックー!」
「正解や! けど止められるもんなら止めてみぃ!」
麻美に先読みされても構わずに全力なお姉ちゃん。 藍沢先輩の他にも、私が目指すべき選手が目の前におるやん。
「おらぁっ!」
マリエルさんと佐伯先輩のブロックを、構わずに打ち抜くお姉ちゃんのスパイク。
先読みで動いとった麻美は、そのスパイクを真正面で受ける為に構える。
「なははっ!」
パァンッ!
「ぬへーっ!」
真正面で捉えたはずの麻美やけど、威力に負けてボールがどっか変な方に飛んでいく。
レシーブがだいぶ上手くなったとはいえ、世界トップレベルのパワースパイクには中々対応出来へんみたいやな。
ピッ!
「よっしゃ! 麻美っち攻略や!」
「ただのゴリ押しじゃん……私みたいに華麗なテクニックで攻略してみなよ」
「やかましいわ! ウチは美智香程器用ちゃうわ!」
そやそや。
あれが私の目指すプレースタイル。
あれが私の目指すエースなんや。
「負けてられへんな……」
「燃えてはりますな。 次、渚はんにトス上げますえ」
「お願いします」
クリムフェニックスはローテーションしてミアさんのサーブや。
ミアさんは今回どんなサーブを打ってきよるか……。
「助走距離は……普通やな」
っちゅう事は、ネオドライブ系やないって事か。
むっ? あれはアンダーサーブの構え?
「なははー。 アンダーサーブという事は亜美姉のアレかー」
清水先輩のアレ……天井サーブか!
清水先輩の隠し技「天井サーブ」。
アンダーサーブで思い切り高く打ち上げ、照明の眩しさに加えて落下加速の乗ったボールが、コートのラインにピンポイントで落ちる。
パァンッ!
ほんまにやりよった。
私達は一斉にボールの行方を目で追うも、天井の照明が眩し過ぎて目が眩みボールを見失う。
「な、何ちゅうサーブや」
いつもは清水先輩が対戦相手に使うのを見てるだけやったけど、実際に食らうとこないにも厄介なんか……。
「見えへん……」
「ちょいさー!」
そんな中、麻美はボールが見えるかのように移動を開始した。
み、見えるんやったら麻美に任せよか。
「ここだー!」
パァンッ!
麻美が叫んだ瞬間に、インパクト音が辺りに響く。
どうやら麻美はほんまにボールが見えてたみたいやな。
「ナイスやよ、麻美はん」
「やるぅ」
「凄過ぎます!」
「サスガアサミ!」
「何で見えとるねん!」
ようわからんけど攻撃チャンスや。
眞鍋さんは私にトスを上げる言うてはったし、気合い入れていくで!
「渚はん!」
「はい!」
「エースの維持見せてみなさい!」
佐伯先輩からも声援をもらい、力一杯腕を振り抜く。
パァンッ!
ブロッカーの白鳥さんと、キャミィさんのブロックを貫通し、クリムフェニックスコートに着弾。
ピッ!
「おお! 渚らしいスパイク出たー!」
「それで良いのよそれでー!」
パチンッ!
佐伯先輩から背中を叩かれた。
「い、痛いです」
「あ、強く叩き過ぎたか」
「エース渚はんの覚醒やな」
「いや、まだまだですわ。 目指す背中はまだ遠くや」
「藍沢姉みたいなゴリラは一匹で十分だけど……」
さ、佐伯さんも案外言わはる人やな……。
ゴリラはまだしも匹て言わはったで。
完全に人として見てへんやん。
「エースもやる気になったみたいやし、ここから一気にいかせてもらいましょか」
「なはは! 勝つぞー!」
何やまた一段とメンバーの士気が高まったで。
流れはまだアルテミスにありそうやし、このまま勝ちを狙っていけるな。
「おーおー。 やる気になっとんな」
「私達にそんなあっさり勝てると思うのかね?」
私らが勢いに乗ってんのを見たお姉ちゃんと宮下さんが、腕組みしながら話しかけてきた。
「まさか。 あっさり勝つとか思ってないわよ?」
「そうどすえ」
さすがの佐伯先輩も眞鍋さんも、クリムフェニックスをナメてはいいひんみたいやな。 流れはこっちにあっても油断はしてはらへん。
「何せ、超余裕で勝つつもりだから!」
「どすえー!」
私はずっこけそうになるのを何とか堪えた。
この人ら、クリムフェニックスを完全にナメたはるわ。
「なはは! ちょーよゆー!」
「ヨユーです」
はあ。 まあ、そやけどそれぐらいの気持ちでいかなあかんわな。
「お姉ちゃん。 悪いけど超余裕で勝たせてもらうで」
「だはは! やってみ!」
ローテーションしてサーブは麻美。
「なはは! 超余裕サーブ!」
パァンッ! 何や意味わからん名前のサーブやけど何との事はあらへん。
「いつもと同じやんか」
適当に叫んだだけかいな。
「拾いまス」
そのサーブを拾いに行くんはミアさんや。
あれも誰かの模倣プレーなんやろか?
「なはは! 新田さんの真似かー!」
らしい。
「ミアはんに拾わせたいう事は、アレは無いっちゅわけどすな」
「なはは! 超余裕で計算通りー!」
「ほんまかいな……」
とりあえず浜波さんからのトスはキャミィさんへ上がる。
マリエルさんと佐伯さんが跳びつくが……。
「ふきとベヤー!」
パァンッ!
「ワオ?!」
「ゴリラは一匹で良いってば!」
二人のブロックをパワーで貫く一撃を見せるキャミィさん。 カバーも間に合わずに決められる。
「ワハハ! チョーヨユーヤ」
「や、やるわね」
「だはは! ウチらに超余裕で勝とうなんて100年早いで!」
「うわはは! 100年後死んでるじゃんー!」
「ワハハ!」
「なはは!」
な、何がおもろいねん……。
麻美の奴は一緒になって笑うてるし……。
そやけど、さすがに超余裕で勝てるような相手やないなあ。
「ま、超余裕で勝つけど」
さ、佐伯先輩まだ言うてはるし……。
2セット目はまだ序盤の4-4……。
どこらへんが超余裕なんや?
超余裕で勝つつもりのアルテミスメンバーであった。
「遥だ。 いや、さすがにクリムフェニックスに超余裕で勝つのは無理があるだろ……」
「油断してるとやられちゃうよ」




