第2269話 嗅覚を狂わせろ
依然流れはアルテミスに。
☆弥生視点☆
アルテミスとの試合は1セット目終盤に突入や。
16-15で迎えるはアルテミスサーブやけど、このワンプレーが終わったらウチらクリムフェニックスがタイムアウトを取るのが、今シーズンからの暗黙のルールになっとる。
今、試合の流れはアルテミスの方に傾いとるように感じる。
それでも点差が離れてへんのは、チームの力がウチらクリムフェニックスの方が上やからやろう。
つまり、ウチらが流れさえ掴めれば試合は一気ウチらペースになるっちゅうわけや。
ピッ!
「ワハハ。 ブレイクされてもうたナ」
「しゃーない。 今の流れは完全にあっちや」
「タイムアウトね」
30秒しかあらへんし、サクッと戻って軽く水分補給しながら作戦会議やな。
まあ、30秒で出来る作戦会議なんてあらへんけど。
「ふぅ……」
「とにかく流れを変えなあかんな」
「でス」
「今の流れを作ってるのって、やっぱり麻美っちよね?」
「間違いあらへん」
序盤、中盤と常にプレーに絡みつつ、好プレーをみせてチームの士気を高めとるんは間違いなく麻美っちや。 アレを何とかしてウチらに流れを引き寄せられたら、このセットは十分逆転して取れるやろう。
問題は、絶好調の麻美っちをどないして何とかするかやなぁ。
そういえば、さっき何か思い出しかけたな……。
「匂いが混濁して何たらかんたら……」
「それ、麻美っちがフランスと試合した時に言ってたやつじゃん」
と、美智香がそう言う。
こいつ、そないな事はしっかり覚えとるんやな。
「フランスとの試合やったか」
「うむ」
「確か、三人ぐらいが同時にトスを上げようとする匂いがして、読みが遅れるとかって言ってましたよ」
「同時にトスを上げようとするか……それ、ちょいとやってみたろか?」
30秒のタイムアウトが終わるところで、ウチらは頷き合ってコートに戻る。
ウチらの中でまともにトスを上げられるんは、ウチとミア、それと本職の浜中さんや。 この三人でトスを上げる雰囲気を漂わせて麻美っちを撹乱する。
さて、サーブはアルテミス側の天堂さんや。
まあ、後衛に千沙っちがおるさかい、ここは問題あらへんやろ。
パァンッ!
「オーライ!」
「任せたで」
ウチと浜中さんとキャミィでゆっくりとセットポジションに向かう。
すると、ネットの向こうの麻美っちがしかめっ面をしながらこちらを見とる。
効いとるみたいやな。
ボールはしっかりAパスで帰ってきた。
さて、ここは本職浜中さんに任せてウチはこのまま浜中さんの背後に回ってクイックスパイクに入るで。
麻美っちはここでようやく先読みが終わり、ウチについてくる。
せやけど!
「遅い!」
パァンッ!
「ぬわー! 間に合わないー」
ピッ!
作戦成功やな。
上手く麻美っちの鼻を狂わす事が出来て、ブロックの反応を遅らせたで。
これで17ー16や。
「どないや麻美っち?」
「むむーっ。 こりはフランスチームがやってた作戦ー!」
「だはは! 反応遅れるやろ?」
「やりますなー!」
どうやら麻美っちにはこの作戦で良さそうやな。
これで何とか流れをこっちにも持ってきたいとこや。
「で、これからウチのサーブなわけやな。 そろそろ高速ナックルサーブかジャイロサーブで揺さぶりたいとこなんやけど……」
ウチがサーブのタイミングでは、雪村さんがまだコートにおりはるんよな。
雪村さんにはあんまり効かへんからなあ。
そやけど言うてる場合やないし、いっちょやったるか。
「いくで! 取れるもんなら取ってみぃ!」
ここは球速のある高速ナックルサーブを選択。
目の良い雪村さんはジャイロサーブぐらいの球速やったら、普通に変化見切ってきよるさかいな。
「はぅっと」
パァンッ!
まあ、高速ナックルサーブでもあっさり拾われるんやけどな!
世界一のLは伊達やないでホンマに。
「ここブレイクして、流れをこっちに持ってくるで!」
「はイ!」
「ワハハ!」
アルテミス側の攻撃は同時高速連携や。
眞鍋先輩もかなり精度が上がってきたんか、頻度が上がってきとるな。
「ミア、ブロック頼むで」
ここは今シーズンMBに転身しとるミアにかかっとる。
麻美っちの模倣かて出来るさかい、期待は出来……。
「はわわわ……」
「ど、どないした?!」
ブロックに行こうとするミアやけど、何やら戸惑っとるように見える。
その一瞬の迷いが、ブロックにとっては命取りや。
「ちょ、ちょいさーでス!」
「お返しよ!」
パァンッ!
ピッ!
ブロック反応が遅れたミアの上からストレートに決められる。
「お、お返してまさか」
「そっちが私の嗅覚を乱すなら、こっちも同じ事をやり返すまでー!」
「も、盲点やった」
ミアが麻美っちの模倣でくるのを読んで、ウチらと同じ作戦を実行してきよった。
「なはは! 私の事は私が一番わかっているのだー! ミアさんが模倣しても私が攻略してやるー」
「な、なるほどな」
そらそうやわな。
自分の事は自分がよう知っとるもんや。
「また流れ持ってこれへんかったか」
「麻美っち、めちゃくちゃ手強いわねー」
「わかってた事や。 こっからは麻美っちは後衛に下がって雪村さんがコートアウトやし、ここで流れを変えるで」
「ガッテンショウチノスケ!」
承知の介が誰かは知らんけど、とりあえずは集中や。
ウチと千沙が後衛にいるこの唯一のローテ、しっかりあっちの攻撃を防いでいくで。
「はは。 これはウチも亜美ちゃんの代わりみたいなもんやな」
役割的にはアルテミスの亜美ちゃんや今の麻美っちと被るで。
麻美っちのサーブはあまり強力やない。
サーブ拾うのはわけないけど、問題なんはこっちの攻撃に移った後や。
今まで後衛に下がった麻美っちは大して脅威やなかったけど、今日の麻美っちは話が別や。
後衛に下がってもレシーブで試合を盛り立てとる。
しかも嗅覚を使ってブロッカーのサポートまでやっとる。
あれはもう亜美ちゃんの代わりってより、何かまた別物みたいな働きしとるよ。
「イクゾー! ちょいさー!」
反対側のコートに立っとるのに、ここまで聞こえてとるし。
パァンッ!
麻美っちのサーブに即座に反応する千沙。
ここは千沙に任せて撹乱作戦の準備しよか。
「拾います!」
「うわはは! 任せたー!」
「はい!」
パァンッ!
千沙がサーブレシーブしたのを確認し、ウチ、マリエル、浜中さんの三人はまたトスに向かい麻美っちの鼻を撹乱する。
「ぬおー! やめてほしいー! 鼻がおかしくなるー!」
どうやら鼻がおかしくなるくらいには効くらしい。
よっしゃ、このまま決めたろうやないか!
ここでトスを上げるのはミアや。
「ヤヨイさん!」
「おー!」
「月島先輩が打ってくるー!」
「わかってるって!」
「トメマス!」
さっきより反応早くなっとるか?
そやけどまだ遅いで!
「おらぁ!」
パァンッ!
ピッ!
「よっしゃ! 何とか決めたで!」
麻美っちの鼻を撹乱する事で先読みを遅らせてスパイクを決める。
これで何とかなってくれよ。
麻美の嗅覚を狂わせる事に成功したが、ミアにカウンターが返ってくるのだった。
「紗希よ。 何か凄い戦略戦になってるわね」
「うん。 頭脳戦だよ」




