第2267話 厄介なオールラウンダー
流れをどっちが掴むか。 1セット目中盤戦開始。
☆弥生視点☆
今、千葉西條アルテミスとの試合中や。 1セット目中盤に入ったところでスコアは8-8。 アルテミスのスタメンに、亜美ちゃん、藍沢姉、紗希、蒼井さん、西條さんの姿はあらへん。 皆、今シーズンは育休やそうや。 それやのに同点スコアってのは、ホンマに驚きやで。 特に麻美っちや。 MBの麻美っちは、ブロックと攻撃はかなりのレベルではあるものの、レシーブはあまり上手くないっちゅうんがウチの評価やったんやけど、今日の麻美っちは随分レシーブが上手くなっとる。 試合前、しきりに「亜美姉の代わりになる」みたいなこと言うとったし、恐らくは相当練習してきたんやろなあ。 努力家なやっちゃ。
「やっぱり強いわね、アルテミス」
「やなあ。 月ノ木のレジェンド世代程の怖さはあらへんけど、全体的に高い水準でまとまっとる。 雪村さんがおるんもかなり厄介や。 おっと、サーブ来るで」
サーバーは佐伯和香や。 さっきのサーブでアンダーサーブを打ってきよったけど、あれはミアに拾わせる為にワザとそうしよったみたいやな。 ミアがトスを上げられる状況を作ると、高速連携を警戒せなあかんからな。 ミアを狙えってのは多分前田さんの指示やろ。
それをあんな風に無理矢理実行してきよるとは、佐伯和香の奴中々に曲者やな。
パァンッ!
「今回もアンダーでミア狙いか」
しかも佐伯和香のアンダーサーブは癖があり、下から打ち上げるというよりは斜め横ぐらいから叩く感じの変わった打ち方やな。 野球で言うアンダースローとサイドスローの間ぐらいの角度から打ち出してきよる。 そのおかげで、アンダーサーブの山なり軌道と違って、少し低い位置でネットを越えてくる。 よりミアに拾わせやすい感じに細工しとるんやろう。 器用なやっちゃ。
「はわわ」
今回もきっちりミアにボールを拾わせる事に成功しとるわ。 浜中さんがセットアップしてウチらは通常のテンポで攻撃に入る。 こればかりはしゃーない。 佐伯和香が技アリや。
「そやけど」
浜中さんからウチにトスが上がり、ウチはそれに合わせてスパイクに飛びつく。 ブロックはマリエルと天堂さんの二枚。 ぶち抜いたる!
「高速連携なぞせんでも、ウチは決めるで!」
腕を振り抜き、マリエルと天堂さんのブロックの真ん中、カンチャンをぶち抜く。
「何やと?!」
そんなコース、誰もおらへんはずやろ?! 何であんさんはそんなとこ守っとるんよ?!
「麻美っち!?」
パァンッ!
ウチのサーブを麻美っちが真っ正面でレシーブ。 有り得へんやろ……。 そこはマリエルと天堂さんのブロックでカバーしとるコースやで……? 普通そこは捨ててクロスのカバーに入るやろ……?
「ナイスどすえ麻美はん」
「なはは!」
考えるんは後や、この後はアルテミスの攻撃が来よるしそれに集中や!
「こっちは高速連携いきますえ!」
アルテミスは眞鍋先輩起点の同時高速連携が打てる。 これを止めへんかったらさすがにヤバいで。 流れが向こうに傾いてまう。 ここはウチもしっかりブロックに飛ばなあかんか。
「ヤヨイさん、こっちでス」
「おう」
何や知らんけどミアがウチを呼んで移動を開始。 眞鍋先輩が誰にトスするかわかるんか?
「と、見せかけてこっちでス!」
「のわっ!?」
急に方向転換するミアに引っ張られて転けそうになる。 やけどわかったで。 この無茶苦茶な行動……麻美っちの模倣やな。 確かに、ブロッカーで誰を模倣したらええか考えたら、オリヴィアか麻美っちがええやろ。 特に、相手が同時高速連携で来るんやったら麻美っちになるんがベストや。
「せーの! ちょいサーでス!」
「ち、ちぇいさー!」
ミアと同時にブロックに跳ぶ。 前にいるんは天堂さんか。 ボールが天堂さんに運ばれてくるのが見えるで。 やっぱりミア……いや、麻美っちの嗅覚を模倣するのはかなり強いな。
パァンッ!
「よっしゃ! ナイスブロックやミア!」
これは完璧にシャットアウトや。 これで流れはこっちの……。
「な、何っ?!」
「ちょいさー!」
ブロックで叩き落としたボールに麻美っちが飛びつく。 あれに反応しよったんか? MBやのに何ちゅうやっちゃ。 亜美ちゃんの代わり、しっかりやりよるやんけ……!
「麻美はん、ナイスファイトや! 次決めてやアタッカー陣!」
「はい!」
ちっ! 麻美っちの好プレーの連続でアルテミスメンバーの士気が上がっとる! 決められたら完全に流れを持ってかれるで!
「ミア、止めるで!」
「はイ!」
アルテミスはまた同時高速連携の動きを見せとる。 こっちはミアの麻美っち模倣で何とか対抗するしかあらへんな。
「麻美さんでス!」
「何でや?! さっきダイビングレシーブしとったのに何でもう走ってんねんアレは?!」
麻美っち、無茶苦茶やな! そやけどおもろい! おもろいで!
「ちょいサーでス!」
「ちぇいさーや!」
「どっちもちがーう! ちょいさー!」
パァンッ!
麻美っちのスパイクに反応してミアが腕を振るが、麻美っちがスパイクを打った方向は全く逆。
ピッ!
「なはは! 私に私の模倣が通じると思うてかー! 鼻の使い方なら模倣品には負けないぞー!」
「はわわ……凄いでス、アサミさん」
「なはは! 亜美姉の代わりー!」
「とんでもないでホンマ……」
「麻美っち! 今日の麻美っちマジ亜美っち並!」
「なはは!」
「だから対戦相手を持ち上げるのやめーや」
「うわはは!」
あかんわこいつは……。 にしても麻美っちのあの守備の硬さはなんや? ブロックの後ろで構えて待っとったり、シャットアウトした思うたボールに反応してダイビングレシーブしたり……。
「麻美はん、ようアレ拾いましたなあ」
「匂ったー」
そ、そやったか。 麻美っちの嗅覚は何もブロックの時に限った能力やなかった。 レシーブの時にもその能力は発揮されとるんや……。 ウチがブロックのカンチャンを狙うのも、ミアがシャットアウトブロック狙うんも、全部あの鼻で察知してたっちゅうわけかいな。
「亜美ちゃんとはまた違ったタイプの、厄介なオールラウンダーやなぁ」
「亜美姉の代わりだぞー!」
さて、あの厄介な選手をどないして攻略したもんかいな……? そもそも麻美っちの嗅覚を惑わす方法やなんて、そんなもんあるんか……いな……?
そこまで考えて、何かが頭にちらついた。
「匂いが入り乱れてわからないー!」
確か、過去にそないな事を言うてたな……確か、去年のワールドカップバレーの時や……何やったかいな。
「サーブ来るわよ弥生っち」
「おっとすまん……」
考えるんは後や。 とりあえずアルテミスのサーブを切らんと話にならへんで。
スコアはまだ9-8。 流れをさえ掴めれば十分セットは取れる展開や。 このまま流れがあっちに持ってかれへんようにせんとな。
麻美が活躍し、流れを引き寄せるのはアルテミスか?
「奈央ですわよ。 何だか凄いですわね麻美」
「大活躍だよ」




