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第1198話 奈々美VS前田さん

名古屋へやって来た奈々美と奈央だが?

 ☆奈々美視点☆


 名古屋へとやって来た私と奈央は、早速宏太が寝泊まりしているという社宅へやって来た。 しかし宏太の部屋からは何故か女性の声が聞こえてきた。 話によると同僚の女性という事みたいだけど、それにしても部屋に入れる? これは色々と話を聞く必要があるわ。



 というわけで、名古屋にも当然のようにあるらしい西條グループの登山装備専門店へ向かう車中。

 宏太の同僚の女性、前田さんも無理矢理同行してもらい、話を聞く事にした。


「……」


 私の隣に座る前田さんは、先程から下を向いて黙りこくっている。 前田さんを挟んで反対側には奈央が座っており、宏太は助手席に座ってもらっている。


「奈々美。 威圧感が凄過ぎて彼女が萎縮してますわよ?」

「え? そうなの?」

「あ、いえ……はい。 私、今から何をされるのでしょう?」

「別に取って食おうってわけじゃないですから、そんなに怖がらないで」

「は、はあ」


 といったところで話を聞かせてもらいますか。


「宏太。 彼女とはどういう間柄なわけ?」

「いや、だから同僚だって言ったろ」

「あんた、名古屋に来て2週間ちょっとよね? よくまあそんな短期間で部屋に連れ込める異性の同僚作れたわね」

「あのなぁ……ちょっと冷静になれよなぁ」

「私は冷静なつもりだけど?」

「同じ社宅に住んでんだから、部屋の行き来ぐらいはするわいな」

「するもんなの?」

「え? あ、はい。 佐々木さん以外の男性の部屋にもたまに行きますが……」


 前田さんはそう答える。 別に嘘を言っているような様子はないわね。 ということは、男の部屋なら何処へでも行くって事かしら?


「奈々美。 貴女失礼な事考えたりしてないですわよね?」

「……すいません、してしまいました」

「え? え?」


 いまいちわかっていないらしい前田さんは、頭にはてなマークを浮かべていそうな顔をしている。

 よし、切り口を変えてみましょう。


「この間、姫百合さんが来たと思うけど、その時も一緒にいたのは前田さんですよね?」

「はい。 何故か成り行きで同行する事になりましたけど、楽しかったです」


 成り行きで? よくわかんないわね。


「ゆりりんと待ち合わせしてたんだが、俺がその場所を知らなくてな。 近くにいた前田さんに案内をお願いしたんだ。 ゆりりんが前田さんの事を妙に気に入ってなぁ。 次の日の仕事の現場にまで同行させてよぉ」

「な、何だかよくわかんないわね」

「私もよくわかりませんでしたが『素材が良いのに勿体無い! イメチェンだ!』とか何とか張り切ってらっしゃって……まあ私も綺麗になれたし良かったなと」

「んん?」

「あ、これ。 以前までの私の写真です」


 と、スマホの画面を見せてくる前田さん。 そこにはおさげ髪のメガネの女性が写っていた。 本でも持っていれば文学少女みたいだわ。 何よりも見た目が……。


「地味ね……」

「奈々美。 初対面の方にそれは失礼ですわよ」

「あ、すいません」

「いえ。 地味だったのは本当だし」


 しかし今の前田さんはというと、髪を短く切り揃え、メガネを外しコンタクトに変え、服装も少し大人っぽくして綺麗になっている。 なるほど。 たしかに素材は良いみたいだわ。 姫百合さんがプロデュースしたわけね……。


「って、それはどうでも良いのよ」

「忙しい奴だな」

「姫百合さんが言ってたわ。 宏太に懐いてる女性が居るって。 貴女でしょ?」

「懐いてるというか、尊敬ですかね?」

「尊敬? 佐々木君の何処を尊敬してますの? 言っちゃ悪いけど、佐々木君に尊敬出来るポイントなんて何処にも存在しませんわよ?」

「西條、何気に酷いな」

「そんなこと無いですよ? お店では動物達皆に声をかけたりしながら世話をしていて、動物達からも信頼されてるし」


 動物から信頼? よくわからないわね。


「要するに、佐々木君をペットシッターとして尊敬してるって事ですの?」

「はい! あれだけ動物達と親身になって向き合えるペットシッターは他に知りません。 私の目指すペットシッターです」

「何か恥ずかしいな」


 前田さんの目を見ると、そこにはたしかに恋愛的な感情を見て取る事は出来ない。 純粋に、本当に宏太を同じペットシッターとして尊敬してやまないという目だ。


「はあ……最後に良いかしら?」

「はい?」

「さっき宏太の部屋に居たのは何故?」

「それはですね、試験に向けて色々聞いていたんです」

「試験?」

「俺が色々な資格試験の勉強してたの知ってるだろ?」

「愛玩動物飼養管理士とかトリマーの資格試験ですわね」


 あぁ、そういえば私達が受験勉強してる横でやってたわね。


「その資格試験の事で色々と聞いていただけなんです。 たまたま佐々木さんがお手洗いに立っているタイミングでお二人が来たから、私が応対したって感じです」


 ふむ。 見た感じ嘘を吐いてるようなとこも無いし、前田さんの事は信用しましょう。 今のところ害は無さそうだわ。 今のところはだけど。


「ごめんなさい。 ちょっと勘違いして」

「いえいえ! そりゃー彼氏が知らない女を部屋に連れ込んでたら誰でも勘違いするがね」

「何が冷静だよ。 バカめ」

「あんたは後で覚えときなさいよ」

「ひぃっ」

「佐々木さんが言ってたのは本当なんですね」


 と、クスクスと笑いながら言う前田さん。


「一体こいつから何を聞いたの?」

「とんでもない暴力女だと」

「宏太ー? 同僚になんて事を吹聴してんのかしらねー?」

「ま、前田さん!? それは黙っててくれないと困るなぁ!?」

「口止めはされてなかったがね」

「賑やかですわねー……」



 ◆◇◆◇◆◇



 その後は名古屋へ来た目的である、宏太の登山装備の購入を済ませ、休憩の為に近くの喫茶店に入った。 奈央から宏太へ、登山までにやっておいてほしい事を説明している間、私は前田さんと雑談している。


「にしても、藍沢さんでらべっぴんやがね」

「で、でら?」

「めちゃくちゃ綺麗って意味です」

「あ、ありがと。 前田さんも綺麗よ?」

「姫百合さんのおかげやがね……。 姫百合さんに会わなかったら、今も地味な女やったが……」

「何であんな地味な見た目にしてたの?」

「学生の頃から、あまり目立つのが好きじゃなかったっていうのが理由ですかねー」


 と、前田さんはそう言う。 しかし話してみてもわかるけど、別に根暗な陰キャという印象は受けない。 どちらかというと明るい方な気もする。


「実は私、双子の姉がいるんです」

「んあ? 初耳だなそれ」


 宏太が反応する。 どうやらいつの間にか奈央からの話は終わっていたらしい。


「初めて話したからね。 その姉が、何をやっても人並み以上で凄い目立つ人で」


 何かどっかで聞いたような話ね。


「何処にでもいるもんですわねー」

「まあ。 そんな風に目立つ姉がいる所為で、私も色々比較されてきまして。 それが嫌で私は目立たないように地味な人間になって、姉とは違うただの凡人だと周りに見せるようになったんです」

「今は?」

「今は私も実家を出て一人なんですが、中々癖が抜けなくて。 でも、姫百合さんのおかげで前向きになれました。 ちょっと自信持てたがね」

「そう。 まあ、知り合いに凄いのが居ると色々大変よね。 わかるわ」

「藍沢さんも凄い人やがね。 オリンピック頑張ってください」

「ありがとう」


 何だかんだ前田さんは良い人だという事がわかって良かったわ。 宏太が名古屋に居る間は、宏太のことよろしく頼んで、私と奈央は名古屋を後にした。


「一時はどうなるかと思いましたわ」

「さすがに初対面の人に手は出さないわよ……」


奈々美も前田さんを信用する事に。


「亜美だよ。 奈々ちゃん、さすがに心配し過ぎだよ」

「は、反省してるわ」

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