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第1195話 イメチェン

姫百合凛の仕事場へ向かう宏太。

 ☆宏太視点☆


 名古屋へは仕事でやって来たらしいゆりりん。 何故かその現場について来させられている俺と同僚の前田さん。


「あの。 昨日、私をイメチェンさせるとか何とか言っとったけど、どういうことね?」

「さっきも言ったけど、今日はジャケット撮影のお仕事があるの。 撮影前にはスタイリストさんやメイクさんにヘアメイクだとか衣装だとかお化粧だとかしてもらうんだけど、私がお願いして前田さんにもしてもらいます」

「えぇ?! そんな、私なんかがプロのスタイリストさんやメイクさんになんて」

「見た感じ素材は良いから、ちょっとプロに任せたら凄く変わると思う」

「ふむ。 たしかに。 昨日一瞬しか見なかったが、眼鏡取っただけでかなり変わったからな」

「佐々木さんまで何を……」

「良いじゃないか? 綺麗になれるなら喜ばしい事だろ」

「そうそう。 そういえば話変わるけど、前田さん標準語とかもよく出るよね? 地元の人では無い感じ?」

「あ、やっぱりわかります? 実は父が東京の人で、小さな頃は東京で過ごしていたんで」

「じゃあたまに出る名古屋弁は?」

「ちょっと無理した似非名古屋弁やがね」

「なるほどな」


 何となく、周りの名古屋弁とは違うとは思っていたがそういう事か。



 ◆◇◆◇◆◇



 俺達を乗せた車は、今回ジャケット撮影が行われる現場へとやって来た。 何やら植物園のようだがまだ開園前だぞ。


「今日は開園前に入れてもらえる事になってるの」

「ト、トップアイドルすげー」

「はぇー」

「私が凄いわけじゃないと思うけどね」


 とか言っているが、もうここ数年間程日本のトップアイドルに君臨しているのはさすがに凄いのではなかろうか?


「あっちでメイクとか衣装に着替えたりするから、前田さんはついて来て」

「え、あ、はい」

「佐々木君は適当に何かして待っててね」

「えぇ……」


 開園前の植物のの入り口放置され「適当に何かして待っててね」と言われてしまったが、何も出来る事は無いのだが。 やっぱり俺は来なくて良かったんじゃないだろうか?


「……生物ならまだしも植物の事はよくわからんしな」


 亜美ちゃんがいれば色々と説明とかしてくれるんだろうが、今ここに亜美ちゃんはいない。


「というか誰もいないんだがな」


 ところで芸能人のメイクとかってどれくらい時間がかかるもんなんだ? 奈々美なんかも気合い入れる時はかなり時間をかけているらしかったが……。


「まさか小一時間とか言わんよなぁ」



 ◆◇◆◇◆◇



 そのまさかだった。 もう待っているのも疲れて来た頃、ようやくゆりりんが姿を現した。 その姿は先程までとは違って、光り輝くような美しさと、普段とは違う大人っぽさが漂っている。 メイクや衣装1つでこんなに変わるものなのか……。


「どう佐々木君?」

「いや、綺麗だなぁ。 すげーな、プロのスタイリストやメイクさんって」

「本当それね。 自分でやってもこんな風にならないもの」

「そうなのか」

「それよりもう1人の方の変わり様の方が驚くよ、きっと」


 もう1人……そうだ、前田さんもプロにメイクしてもらっていたんだったな。 普段の前田さんといえば、地味な黒縁メガネにおさげ髪。 服装も地味めな物を好んでいるっぽくてとにかく地味という印象だ。 まあ、話をしてみると性格は明るくて、見た目ほど暗い人間ではない事がわかる。


「前田さん、どうぞ」

「ほ、本当に出て行かなきゃダメ?」

「せっかく綺麗になったんだし、他の人にも見せないと勿体無いよ」

「うぅ……」


 呻き声を上げながら恥ずかしそうに顔を隠して出てくる前田さん。 顔は見えないが、服はいつもと違う綺麗なワンピースを着ている。 髪型もおさげではなく長い髪をウェーブさせて全て下ろしている。 それだけでかなり印象が違うものだ。


「ほらほら、顔顔」

「うぅ……」


 やはり呻き声を上げながら、顔を覆い隠していた手をゆっくりと退けていく。 


「おお……すげー、まるで別人だぜ」

「でしょー」


 プロにメイクしてもらった前田さんは、普段見せる地味な印象とは180°反転し、煌びやかな印象を与えている。 何よりやはり、メガネからコンタクトにした事が大きいのかもしれないな。 これで街中を歩きまわれば、男もホイホイ寄って来るだろう。


「ーっ!」

「いやいや、綺麗だぞ前田さん。 店の皆が見たらびっくりするって」

「そ、そうかねー?」

「うんうん。 佐々木君の驚きよう見ればわかるでしょ? やっぱりメガネは無い方が良さそうだね」

「だなぁ。 これからはコンタクトに変えてみたらどうだ?」

「検討してみるがね……」


 やはり恥ずかしいのか、視線を外し、ウェーブした髪を人差し指でクルクルとさせながらそう言う前田さん。 この恥じらい、奈々美にも見習ってほしいもんだ。


「姫百合さーん! 撮影準備出来ましたー!」

「はーい! じゃあこれからジャケット撮影のお仕事してきます! 見学しててね!」

「あいよ」

「は、はい……」


 まあ、日本のトップアイドルのアルバムのジャケット撮影シーンなんて滅多に見られるもんじゃないからな。 貴重な体験だしありがたく見学させていただくとしよう。


 ゆりりんはカメラマンの細かい要求に対応しながら、何枚かも写真を撮っていた。 ジャケットだけではなく、同梱されるミニ写真集用の写真撮影も行っているらしい。 たまに休憩を挟みながら、写真撮影は植物園の開園ギリギリまで続くのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



「んんー、疲れたー」

「おう、お疲れ」


 撮影を終えて戻って来たゆりりんの労を労う。 ゆりりんは「色々要求が多くて大変」と、ちょっと愚痴っていた。


「あれ? 前田さんどうしたんですか?」


 ゆりりんの写真撮影が始まったぐらいからずっとボーッとしている前田さん。 気になったゆりりんが、前田さんに声をかける。


「あ、いえ?! その、さっきまで普通に話してた姫百合さんと、お仕事に入った瞬間からの姫百合さんがまるで別人みたいに見えて……あー、プロってこういう人の事を言うんだって思っとったがね」

「あはは。 スイッチのオンオフしていかないと疲れちゃうから」

「そういうオンオフがしっかり出来るとこがプロだって言ってるんだろ?」

「なるほど!」


 オフにスイッチが入ると途端にこれだ。 先程まで醸し出されていたオーラは何処へやら。 まるでその辺にいる女子大生だ。


「でも、今みたいな方が接しやすくて良いと思います」

「違いねぇ」

「あははは。 ありがとう。 じゃあ2人とも部屋まで送って行くね」

「頼む」

「あ、あの。 私は今日はずっとこの格好なんでしょうか?」

「うん? そうですよ? あ、その服も上げます!」

「えぇ……」


 衣装とか勝手に上げて大丈夫なんだろうか? ともあれ、ゆりりんによる前田さんプロデュースはこれで幕を閉じた。


 数日後、メガネを止めてコンタクトにし、髪もバッサリと切って仕事に現れた前田さん。 当然仕事仲間からは驚きの声が出たが、非常に評判は良かった。

同僚の前田ねイメチェン完了?


「奈々美よ。 イメチェンして凄く変わる子いるわよね」

「遥ちゃんとかねー」

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