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第1194話 何をしに

宏太の所へやって来た姫百合凛。 

 ☆宏太視点☆


 名古屋支店で働いている俺の所へ、何とゆりりんが押しかけて来た。 どうやら名古屋転勤の話を連絡しなかった事に腹を立てているようだ。 奈々美の言う通りちゃんと連絡ぐらいはしておくべきだったかもな。

 にしてもこの状況は何だ? 同僚の前田さんとゆりりんが何やら重たい空気なんだが。 こ、ここは俺が和ませなければ。


「いやー! ひつまぶしうめー!」

「佐々木君はいつも通りだねー」

「うめー物はうめーからな」

「佐々木さんと……えっと」

「姫百合でも凛でも、ゆりりんでも良いですよ」

「姫百合さんは友人ってことで?」

「友人です。 彼女さんとも友達ですよ」

「彼女さんっていうと、バレーボール日本代表の藍沢奈々美選手?」

「おや、佐々木君話したんだ?」

「まあ、歓迎会の時その場にいた皆には」

「なるほどなるほど」

「ところでよ。 ゆりりんは店の場所をどうやって?」

「西條さんに聞いたらすぐに教えてくれたよ」

「西條めぇ……」

「な、何だか佐々木さんと話してると凄い人物の名前が出てきよるがね……」

「バレーボール日本代表の面々とは大体交流があるぞ。 ゆりりんと知り合ったのも西條繋がりだ」

「そうそう」

「とんでもない人と同僚になったもんやが……」

「俺自身は普通の人間だがなぁ」

「前田さんはやけに佐々木君に懐いてるね? もしかしてぇ?」

「いやいや、違います。 動物に好かれる佐々木さんを尊敬してるというか。 そういうんじゃないんで」

「そかそか。 佐々木君モテるからなぁ。 藍沢さんにはその辺の身辺調査も頼まれておりまして」

「あいつめ……」

「そんなことより……んんー……うん。 前田さんちょっとメガネ良い?」

「え?」


 ゆりりんが急に立ち上がって前田さんのメガネを外してしまう。


「え? え?」

「うむ。 やっぱり! 前田さんメガネよりコンタクトにした方が可愛い!」

「え?」

「たしかに。 だいぶ印象変わるなぁ」

「髪型も地味なおさげとかじゃなくて、思い切ってボブくらいまで短くすると垢抜けると思うなぁ」

「えっと」


 何故か急に前田さんをプロデュースし始めたゆりりん。 まさかまた……。


「うちの事務所で芸能界デビューしてみませんか?!」

「えぇっ?!」

「やっぱり……」


 奈々美や亜美ちゃんもしつこく口説いてだからな、この人。 初対面の人間をいきなりスカウトする事ないだろうに。 大体そういうのはアイドルの仕事じゃなくてスカウトの仕事だろうよ。


「えっと、さすがに芸能界は私には無理ですかねー……動物が好きだから今の仕事は続けていきたいと思ってるし」

「むぅ。 そっかぁ。 また空振りか……仕方ない」


 と、珍しくすんなり引き下がるゆりりん。 しかし……。


「明日ってお店定休日でしょ?」

「え? は、はい」

「だから何だ?」

「良い所へ連れて行ってしんぜよう。 前田さんを地味な女性から輝く女性にイメチェンしてあげる!」

「えぇっ?!」

「はぁ……」


 ゆりりんって本当にちょっと変わってるよなぁ。 結構猪突猛進というか考えるより先に動くみたいな。


「どう? 興味ない?」

「ちょっとは……」

「よし決まり!」


 なんちゅうかまたわけわからん流れになったなぁ。 2人は何と連絡先まで交換している。 良いのかよ、そんなホイホイ人に教えてしまっても。


「じゃあ明日は朝から名古屋駅集合ね」

「はい。 お願いします」

「え? 俺も行くのか? 関係なくないか?」

「男性から見た感想もいるでしょう?」

「お願いやがね」

「はぁ……」


 拒否権は無いらしい。



 ◆◇◆◇◆◇



 社宅への帰路。 当然同じ社宅住む前田さんとは帰り道も一緒だ。


「姫百合さんって、何だか変わってるね」

「そうなんだよなぁ。 あれが日本のトップアイドルとは思えんよなぁ」

「びっくりしたがね」

「俺もいきなり来るとは思わなかったわ……」


 ていうか何をしに来たんだ? わざわざ西條に店の場所まで聞き出して……。 連絡しなかった事への文句なら電話やメールでも良かろうに。


「佐々木さん。 本当に友人?」

「は?」

「どうも姫百合さんそんな風には見えんかったがね。 ありゃー佐々木さんに惚れてると思うけど」


 何と鋭い?! 今日ちょっと話したぐらいでそんなことわかるもんなのか?


「いやまあ実はな……」


 てなわけでその辺の話を前田さんにする。 前田さんは「やっぱり」と頷き「ありゃー監視に来たに違いないね」と言った。


「監視?」

「名古屋で変な女に捕まってないかの監視やがね」

「ははは。 まさか。 ゆりりんとは決着がついてるんだ」

「関係無い無い。 未練があると見た」

「まさかぁ……」

「まあ推測ですが」

「ふむ」


 奈々美なら何か聞いてるかもしれんから後で電話で訊いてみるか。



 ◆◇◆◇◆◇



「えっ? 姫百合さん、もうそっちに行ったの?」


 奈々美と通話して、早速ゆりりんが名古屋まで来た事を話した。 この発言から、ゆりりんが名古屋へ行くという話は聞いていた事がわかる。


「何しに来たか知らないか?」

「監視」

「や、やっぱり監視なのか……」

「そうよ。 名古屋の変な女に捕まってないかを監視しに行ったのよ」


 前田さんの推測的中ー!


「つまりゆりりんはまだ俺を?」

「ん? それは知らないわよ。 ちなみ姫百合さんに監視を頼んだのは私だから」

「は?」


 奈々美が頼んだ? 俺が名古屋で変な女に捕まってないかの監視を?


「いや。 ゆりりんが近い内に名古屋で仕事があるから名古屋へ行くって言うし、じゃあついでにお願いって感じで」

「し、仕事で来てるのかあの子……」

「らしいわね。 まさかこんなに早いとは思わなかったけど」

「はあ……なんか疲れた」

「ふふ。 ゆりりんからの監視報告、楽しみにしてるわ」

「ふん。 何も後ろめたい事なんざ無いがな」

「だと良いけど。 あ、そうそう。 来月の真ん中ぐらいに私もそっち行くからよろしく」

「おう。 具体的な日が決まったら教えてくれ」

「了解よ。 それじゃおやすみ」

「おう」


 通話を終えて布団に転がり、奈々美の言葉を思い出す。


「ふん。 心配性な奴め。 ゆりりんを使って監視する程のもんかぁ? あいつ俺の事好きすぎだろ」


 

 ◆◇◆◇◆◇



 翌日。 朝早くから名古屋駅へやって来た俺と前田さん。 ゆりりんは相変わらず変装して待ち合わせ場所に待っているが、近くに車が止まっているのが見える。 あれは多分マネージャーさんの車だな。


「おっす」

「おはようございます」

「お、来たね? おはよう前田さんと佐々木君」

「ゆりりん、奈々美から聞いたぞ。 仕事で名古屋に来てるんだろ?」

「うん、そうよ? 名古屋でアルバムのジャケット撮影」

「え? 仕事で来たんですか?」

「そうそう。 佐々木君に会いに来たのはついで。 彼女さんに監視して来いって言われたし」

「そうなんですか……」

「で、今からお仕事なわけです。 ジャケット撮影の」

「え?」

「は?」

「ささ、車に乗ってー」

「え? え?」


 何かよくわからないまま車に乗せられる前田さんと俺であった。

わけがわからないままついて行く。


「希望です。 姫百合さん行動力が凄いよぅ」

「他人をどんどん巻き込んでいくよ……」

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