第1193話 名古屋に襲来
名古屋で働く宏太は、今日も動物の世話に精を出していた。
☆宏太視点☆
名古屋で働き始めて1週間。 まだ地理関係は怪しいが、ある程度生活には慣れて来たぜ。
今日も今日とて動物達と戯れる仕事だ。
「おーし元気だなぁお前は」
現在はケージに入っている動物達の健康チェックや中の清掃をしている。
「おしおし、お前は愛嬌振り撒くのが上手いなぁ。 すぐに売れていきそうだ」
癖というわけではないが、こうやって動物達に言葉をかけたりしながら世話をしている。
「佐々木さんは凄いがねー。 天職って感じ」
「ははは。 まあなぁ。 好きでやってる仕事だから」
名古屋でもそれなりに評価されているだろうとは思っている。 ただ相変わらず方言は理解しきれていない。 動物の感情の起伏の方がまだわかりやすいぞ。
「いりゃあせー」
「いらっしゃいませ」
作業をしているとお客さんがやって来たのでしっかり声出ししていく。 しかし変わった風貌の客だな。 帽子を深く被りサングラスをかけた姿。 まるで有名人が変装でもしてるみたいな。
「すいません。 ドッグフード売り場って何処でしょうか? 店内広過ぎてわからなくて」
「あ、こっちです」
ちょうど作業も一段落したのでお客さんの案内を請け負う。
「にしても広いですね」
「ペット専門の総合施設ですから。 色々な施設も入ってる関係で広いんっすよ」
「ふむふむ」
とりあえずお客さんをドッグフード売り場まで案内。 一応ここまで来たのでオススメの商品を提案する為にお客さんの飼っている犬種や年齢を訊いてみる事に。
「どんな子なんですか? 年齢とか種類とか」
「4歳のチワワですよ」
「ふむ。 4歳の小型犬ならこいつがオススメっすねー。 それぐらいの子に必要な栄養も豊富だし味も3種から選べますよ。 価格もリーズナブル」
「ふふ……なるほどなるほど。 これはこれは良い仕事振りだ」
「はい?」
「まだ気付かないんだ。 私の変装技術もかなりのものですな」
と、お客さんがサングラスを少し下に下げて目を晒す。
「なっ……ゆ、ゆりりんっ……何で名古屋に……」
「住所がわからないなら働いてる場所を突き止めるまでってね」
「いやいやいやいや……サングラス戻せ。 バレたら大騒ぎだ」
「だね。 あ、そのドッグフード買うね」
「チワワは本当に飼ってるのか……」
「うん。 大学入ってからすぐに」
「ふぅん……」
「今日はお仕事何時まで?」
「何でだ?」
「せっかくだから夕飯ぐらい一緒しようかと」
「何言ってんだか……」
「ええー……じゃあ仕事終わったら連絡ください。 それまでその辺のネカフェで時間潰してますー」
「はぁ……言い出したら聞かないからなぁ……わかったわかった」
「よろしく。 じゃあまた後で」
と、何故か押しかけて来たゆりりんに半ば強引に夕食に誘われてしまうのだった。
「佐々木さん、さっきのお客さん知り合い?」
俺とゆりりんのやりとりを見ていたらしい前田さんがすぐに近付いて来て話しかけてくる。
「まあ、知り合いだ」
「名古屋に知り合い?」
「わざわざ突撃して来たらしい……」
「あ、もしかして例の暴力彼女さん?」
「いや、別人」
「んー。 まあ詮索はやめとく」
「そうしてくれ」
下手な事言えないからなぁ……。
◆◇◆◇◆◇
「お疲れっしたー」
本日もお勤めを終え、店を後にする。 さて、約束すっぽかすと何しでかすかわからんからなぁ、あのトップアイドル様は……。
「住所教えなかっただけでまさか職場を突き止めて来るとは思わなかったぜ……」
仕方なくゆりりんに連絡する為にスマホを取り出す。 通話をかけようと画面をタップする直前。
「佐々木さんお疲れやがねー。 さっと帰りましょー」
背後から前田さんが声をかけてきた。 タイミング良いなぁこの人。
「実はちょっと約束があってなぁ。 夕食は外で食う事になってるんだ。 先に帰っててくれ」
「約束? あー昼間に来てたサングラスの人? 彼女さんじゃないって言ってたけど?」
「友人だよ。 色々と忙しい人なんだが何しに来たんだか……」
「友人さんなら私も紹介してもらっても……」
「それは出来んっ。 すまぬ!」
「びっくりしたが……」
「あー……大きな声出してすまん……」
「いやいや。 でもあの人一体……」
ふぅむ……。 かなり怪しんでるなぁ前田さん。 まあ今日を隠し通せれば一安心だろうが。
「悪い。 そろそろ連絡して待ち合わせ場所に移動せねば」
「あ、わかりました。 じゃあごぶれい!」
「おう」
前田さんと別れて早速スマホでゆりりんに連絡を入れる。 今からネカフェを出てレストランの前で待ち合わせする事になった。
「……何処だその店。 わからん! ま、前田さんー! カムバーック!」
◆◇◆◇◆◇
「お店の場所がわからんって面白いがねー」
「すまぬ……まだあまり土地勘が無くてな」
結局は前田さんに案内してもらう事にした。 運が悪いと待ち合わせ相手がゆりりんだとバレてしまいかねないが、道案内がいないとそもそも道がわからないので仕方ない。
「この角曲がったとこ」
「おお、サンキュー! もう大丈夫だ。 か、帰ってくれても良いぞ」
「ここまで来たから私もレストランで食べるがね」
「……」
さ、さすがにこれを邪険にして帰すとこれからの関係に差し支えがあるか……。 頼む、何事も無く済んでくれ。
と、願いつつレストラン前に到着。 入り口前にはペットショップに来た時と同じように変装した姿のゆりりんが立っていた。
「あ、佐々木君。 あれ? そちらの方は?」
「あ、ああ、同僚の前田さんだ。 道がわからなかったから案内してもらったんだが……」
「初めまして、佐々木さんの同僚の前田佳奈と言う者です」
何故標準語? 何かちょっと怖いし。
「前田佳奈さんね」
「佐々木さん、こちらの方は? ご友人との事だけど?」
「こちらはだな……」
ど、どうする? 何か適当な偽名でも……。
「ふぅ。 自己紹介するのにこの格好じゃあ失礼か」
「へ?」
そんな事を言いながら、ゆりりんは被っていた帽子を取り、掛けていたサングラスも外してしまい、その素顔を前田さんに晒してしまう。 俺は咄嗟に前田さんの顔を見る。 すると、すぐに誰だかを察したのか、驚きの表情に変化した。
「え、えぇ」
「佐々木君の友人の姫百合凛です。 一応歌手をやってます。 よろしくお願いします」
「ひ、ひ、姫っ?!」
「しーっ!」
今にも叫び出しそうになる前田さんの口を抑えて黙らせる事に成功。 ゆりりんも名乗った後はすぐに帽子とサングラスを直して変装していた。
「そういう事だから、こんな格好のままで失礼しますね」
「は、はい……さ、佐々木さんの交友関係……どうなっとるん?」
「こうなっとるんだがや」
「あはは! 佐々木君が名古屋弁って似合わないよ。 さ、入って夕食にしましょ。 前田さんも一緒に」
何かわからんが、ゆりりんは正体を明かしても全く気にした様子もなくいつも通りであった。 俺の杞憂だったのか。
「肝が冷えるぜ……」
突然やってきた姫百合凛。
「亜美だよ。 うわわ?! 行動早いっ!」
「本当に考えなしね……」




