第1191話 歓迎会
こちらは名古屋の宏太。 今日は歓迎会があるらしい。
☆宏太視点☆
ゴールデンウィークが明け、俺は仕事の関係で住み慣れた千葉の町から見知らぬ名古屋へとやって来た。 3ヶ月間のヘルプではあるが、俺の歓迎会をわざわざ開いてくれるらしい。
そして今日は店の定休日。 歓迎会の日だ。 昼の間には社宅の周りを軽く散歩しながら辺りを開拓。 特に色々と生活に必要な物が買える店は網羅しておかねばならない。 それに飯屋だ飯屋。 自炊も多少はやるが疲れている日はやはり楽したいからな。
「にしても方言がわからん。 いりゃあせってなんだよ」
店に入ると店員さんに「いりゃあせ」と言われるから多分「いらっしゃいませ」って意味なんだろう。
「だがやだがや」
やたら語尾に「だがや」が付いている。 多分「〜です」みたいな感じなんだろう。
「簡単なものは分かるが方言の複合で捲し立てられるとな。 ちょこっとそこのテーブルいごかしてってなんだよ」
3ヶ月間で会話が成立するようになるんだろうか?
「あ、佐々木さん」
「んあ? 前田さん?」
「こんにちは。 今日は歓迎会やがねー」
「ですなー。 ありがたいことだがや」
「くすっ。 無理に方言使わんでもええがね」
「うむ」
前田さんは俺がヘルプに来た店舗で働いている女の子だ。 どうやら今年入った新人らしい。 俺と同じで高校卒業して就職したらしい。
「前田さんまだ未成年だから酒飲めないだろ」
「飲めんねー」
「歓迎会来るのか?」
「行くに決まっとりゃーが」
「さ、さよか」
前田さんは眼鏡を掛けて髪もおさげにした地味な見た目をしてはいるが、中々コミュニケーション能力は高いようだ。 第一印象は地味で暗そうな人だったんだが、話してみるとそうでもない事がわかる。
「じゃあまたばんげ。 今日はよーけ楽しもうね。 じゃあごぶれい」
「なんかよく分からんがじゃあまた」
前田さんは笑いながらスーパーの中に入って行った。
「ご無礼ってなんだよ。 武士かよ」
やっぱり方言ってよくわからん。 月島のアレはまだわかりやすい方だった可能性があるな。 未だに分からん言葉もあるが。
「ふむ。 おっと、散策散策」
今日の内にある程度美味そうな店を探しておかねばならない。
◆◇◆◇◆◇
さて夕方になりそろそろ今日の歓迎会へ向かうとするか。 カラオケだって言ってたな。 まあ、そんなに好きってわけじゃないが。
「えーと……ここを曲がって。 お、あったあった」
今日の歓迎会が行われる予定のカラオケボックスに到着。
「SAIJYO……ここもあのちびっ子お嬢様のグループの店舗なのか。 名古屋に来てもあいつの存在はそこら中に感じるなぁ」
西條と一緒にいたらVIPルームとかに通されたりするんだろうなぁと思いつつ入店。 入り口に集まっている歓迎会メンバーと合流。 結構な人数いるなぁ。 11人か。 こんなに入る部屋あるのか?
「SAIJYOグループの者だがや。 VIP1部屋」
「ん?」
「かしこまりました」
えぇ……グループ繋がりでそういうことまで出来んのかよ。 西條いなくても何でもありだな。
代表の人について行きVIP部屋へと入っていく。 さすが西條グループの店舗だ。 やたらと広い部屋だなぁ。 これなら11人ぐらいは入るな。
「佐々木君、この部屋どえりゃー広くてびっくりしたがや?」
「あー、いや……実は西條グループの娘さんとは友人なんで、こういうの慣れてるんで」
「さ、西條のお嬢様と?! どひゃー……こっちがびっくりしたがや」
「ははは……」
まあそうだろうなぁ。 他の人から見たらあんなちびっ子でも雲の上の人だからなぁ。
「佐々木君凄い人と友達なんやがねー」
「まあな」
俺が凄いわけじゃないが、偉そうに踏ん反り返るのだった。
歓迎会が始まりカラオケが盛り上がる。 何だかんだ酒なんかも入り結構楽しんでいる。
「佐々木さん、歌上手いがねー?」
「そうかー? 俺の彼女とかめちゃくちゃ上手いぞ?」
「おお?! 佐々木君は彼女持ちかー」
「えーショックー」
「私狙ってたんやがねー。 前田さんもでしょー?」
「い、いや私は……」
「どんな子? 写真とかある?」
「あーはい」
スマホの待ち受けを出して皆に見せる。 すると皆が身を乗り出してスマホを覗き込んだ。
「でらべっぴんさんやが!」
「うひゃー、ええおなごやがねー」
「え、この人ってバレーボールの藍沢奈々美選手?」
やはりというか有名人らしいな。 ワールドカップで優勝した直後ぐらいはめちゃくちゃテレビや雑誌に取り上げられてたからなぁ。
「え? 藍沢奈々美選手が彼女さん? そういえば西條のお嬢様も日本代表か。 繋がりがあるってことかー」
「幼馴染なんすよ、こいつ」
「なんか凄い」
と、皆は俺の事より奈々美についての質問ばかりしてくる。 俺の事はそっちのけだ。
「どんな人?」
「気が強くて腕力も強くて暴力的な奴です。 俺もかなり叩かれてましてね。 手加減知らないんっすよ」
「え? 何で付き合ってるんね?」
「それなんだよなぁ? なんで付き合ってんだろうなぁ」
「何それおもしろー!」
「彼女の事好きなん?」
「まあそりゃ付き合ってるんで一応」
「結婚とかは?」
と、やはりそういう話になってくるよなぁ。
「まだ考えてはいない……ですかね」
「ふうむ。 まだかー」
あいつはまだ大学生だからなぁ。 夕也の奴は亜美ちゃんにプロポーズしたらしいが、俺はまだそのつもりはないし、奈々美もそれで納得している。
「色々あるってことか」
「まあ……」
◆◇◆◇◆◇
明日は普通に仕事があるという事で二次会には発展せずにそのまま解散。 社宅組のメンバーである俺と前田さん、真田さんで帰り道を歩いて行く。
「真田さん飲み過ぎやがねー」
「ひっく」
真田さんは俺達より5つ年上の男性だ。 どうやらかなり酔っているらしく、千鳥足になっている。 肩を貸して歩いてはいるが、真っ直ぐ歩いてくれないので大変だ。
「真田さんっていつもこうなのか?」
「以前私の歓迎会の時もこんな感じやったがね……」
「そうなのか」
真田さんと飲む時は気を付けないとなぁ。 千葉の仲間達も面倒臭い酔い方する奴らばかりだったが、こっちも大概な。
何とか真田さんを社宅の部屋に連れて帰り、布団を敷いて寝かせる。
「明日の仕事大丈夫なのかこれ?」
「わからんね」
「はあ……まあ良いか。 んじゃ部屋戻るわ。 まだダンボール片付いてねーし。 また明日」
「はい」
前田さんに手を振り部屋に戻るのだった。
◆◇◆◇◆◇
「ふぅん。 大変だったわね」
「まったくだぜ」
ダンボールを片付けながら奈々美と通話を繋いでいる。 毎日電話しろとうるさいからな。
「で、どうなの? 上手くやってけそう?」
「まあ、皆良い人だから上手くはやっていけそうだぜ。 心配無用だ」
「そう? なら良いけど。 来月そっち行くまでには部屋片付けておきなさいよ」
「わかってら。 つかいちいち来るな」
「もう決めてるし。 嫌がっても無駄よ」
と、奈々美は意地でも名古屋に遊びに来るつもりらしい。 今は平和で良いんだがなー。
名古屋弁に頭を悩ませながらも人間関係は良好。
「遥だ。 方言とかってたまに外国語に聞こえるよな」
「だかねだかねだよ」




