第1189話 宏太ロス?
宏太が名古屋へ発つ時間が迫って来た。
☆奈々美視点☆
今日は宏太が名古屋へ発つ日。 朝8時には起きていた宏太は早めの朝食を食べている。
「荷物は大丈夫なの? 忘れ物しないようにね?」
「藍沢さん、それはもうおかんなんよ」
「ある意味保護者みたいなもんよ」
「あはは、そりゃたしかにそうだねぇ」
「はあ……心配しなくても大丈夫だっつーの」
まあこの間私と一緒にチェックしたし大丈夫だろうけど。
「しかし夕也よ。 俺がいない間は奈々美のサンドバッグ代役頼むぞ」
「断る。 その大役は残念ながらお前にしか務まらないんだ」
「あら、そんな事はないわよ? 夕也でも十分に代わりは果たせるわ」
「た、助けてけれ亜美! 奈々美にやられちまう」
「あはは。 奈々ちゃん、死なない程度にしてあげてね」
「何で許可してんだよ?!」
「任せなさい」
「なはは! 夕也兄ぃに逃げ道無しー」
「お、俺も名古屋に出張が」
「学生のくせに何が出張なんだよ。 大人しく奈々美のサンドバッグ代理してろ」
何か私がいつもサンドバッグを叩いてないと生きていけないみたいになってない? 別にそんな事ないんだけど。 ストレスの発散ならカラオケとか他にもあるし。
「でも今井君サンドバッグは何か脆そうよね? 佐々木君は頑丈で長持ち」
「ふん。 伊達に殴られ続けてないからな」
「何や悲しい自慢やな」
「藍沢先輩の彼氏さんって本当に彼氏さんなんですか?」
さすがに疑問に思ったのか、マリアが首を傾げて訊いてきた。 それに宏太は頷き「残念な事にそうなんだ。 何でこうなったのか」と返す。 何か嫌々付き合ってるみたいに聞こえるわね。
「はいはい。 それよりそろそろ準備した方が良いよ宏ちゃん」
「む、もうそんな時間か」
時計は朝9時半を指している。 宏太は荷物の最終チェックをしていつでも出られる状態だ。
◆◇◆◇◆◇
10時過ぎ。 私達は駅前まで宏太を見送りにやってきた。 さすがにこの人数での見送りは目立つわね。 ただ私達はこの町内では超が付く有名人だから、大して不審がるような人もおらず、むしろ「今日も皆で宴会?」とか訊かれる始末。
「マジで皆して見送りに来たのか……なんつーか、廣瀬まですまんな。 あまり付き合いも長くないのに」
「いえ、そんな。 お仕事頑張って来て下さい」
「くぅーっ……聞いたかお前ら。 こういうのが欲しいんだ俺は」
「はいはい」
「なははー! 体には気を付けるんだぞ宏太兄ぃー! 名古屋土産を持ち帰るまで生きろー!」
「土産の方が大事なのか?!」
「うむー」
「まあまあ。 あ、私はういろうで良いよ」
「亜美ちゃんは味方だと思ってたんだがなー」
「きゃはは。 浮気はバレないようにすんのよ?」
「おう」
「宏太?」
「ひぃっ」
まあ宏太に靡く女性なんてそうそういないわよね。
「佐々木君や。 ウチも今度遊びに行くさかい、良さげな釣り場見つけといてや」
「おう! 良いな! 任しとけ」
弥生は弥生で名古屋に遊びに行くつもりでいるみたい。 わざわざ一緒に釣りしに行く気なのかしら?
「ナゴヤ、ウチもいってみたいナー」
「わたしもでス」
アメリカから来たキャミィとミアはとにかく何処にでも行きたいのだろう。 現在奈央が計画を立てている、夏の富士登山をめちゃくちゃ楽しみにしているらしい。
まあそれに関しては私達も楽しみよ。 近々皆で登山用の装備を買いに出かけたり、軽く登山に慣れるために山を登るつもりらしい。
「じゃあ行ってくらぁ」
「おー佐々木! 元気でなー! 帰ってきたらまた美味い物食べまくろーな」
「おう! 蒼井も元気でな!」
「宏太くん、本当に身体には気を付けるんだよぅ」
「サンキューな希望」
「何が困った事があったら私に相談なさい。 力になりますわよ」
「おお、西條に頼れば何でも解決だな。 心強いぜ」
「宏太、名古屋でバカやらないでくださいね」
「どういう見送り方だよ……」
「先輩、オリンピックの応援絶対来たってや?」
「西條が強制参加って言ってたしな」
と、皆で宏太に一言言葉を送っていく。 宏太も一通り返した後で、手を振って駅の改札へと向かって行くのだった。
「何だかんだ少し寂しくなりますわね」
「そうね」
「何かこうちょっと手持ち無沙汰になった時にイジる相手が居なくなってしまったわね」
「ま、ウチらはそこまで関係あらへんけど」
「普段は一緒じゃないものねー」
と、東京組は宏太不在の影響はそこまでないらしい。 まあそれもそうよね。 連休明けには東京へ戻るんだし。
「行っちゃったねぇ……」
「はぅ」
逆にかなりのダメージを負ったのは、宏太との付き合いが長い亜美と希望。 特に亜美の方は少し涙ぐんでいる。
「夏になれば帰ってくるんだ。 そんなめちゃくちゃに落ち込んでどうするんだよ」
「そうよー。 佐々木君に笑われるわよん」
「そだねぇ……」
◆◇◆◇◆◇
寂しがってもいられないって事で、私達は今日もバレーボールの練習にやって来た。 やって来たんだけど……。
「何だか身が入らないわね」
「うん」
「はぅ」
「何や何やー? もう佐々木君ロスなんかいな。 何やかんや言うても、やっばり愛されとるんやな」
「そういう事みたいですわね」
私達の大半は空気が抜けて萎んだ風船のようになっていた。 早く慣れないといけないとは思いつつも、全く練習に身が入らないという事で今日は早めに練習を切り上げた。
「皆の家」に戻って来ると、夕也と春人は珍しくバスケコートで身体を動かしていた。 2人もじっとしていられなかったらしいわ。
「あの2人にもそれなりのダメージあるみたいやな。 こんなんで3ヶ月大丈夫なんか?」
「今だけだよー……すぐに慣れるー……」
と、あのやかましい麻美ですら普段のトーンではない。 宏太の癖にどれだけ私達に影響を与えるのよまったく。
「佐々木先輩、あんな扱いされてたのに凄いですね。 本当に好かれる人だったという事です」
「そうそう。 まあ彼はいるとムードメーカーになるしね」
と、マリアや宮下さんは宏太を評する。
「あれで思慮深いとこもあるし、あんさんらが言うほどバカっちゅうわけでもあらへんしな。 好かれる要素満載や。 黙ってたらイケメンやし、ありゃ浮気相手にゃ困らんで」
「弥生ー? 何か言ったかしら?」
「そ、そんな青筋立てて血管浮き上がらせながら怒らんでもええやん……大丈夫やろあの男は」
「ソウヤソウヤ」
「でス」
「仕事で行くんだし、きっとそんな余裕は無いはずだよ。 安心だね奈々ちゃん」
「そうよね」
まあ、多少心配してはいるが、いくら何でも3ヶ月の出張中に私以外の女を作ったりはしないでしょう。
「なはは。 宏太兄ぃはしっかり者だから、その辺は安心出来るねー。 お姉ちゃんは毎日電話するんでしょ?」
「まあ、一応そのつもりよ」
今日も向こうについて荷解きが済んだらちょっとだけ話す予定よ。 皆が元気が無い事は内緒にしておかないとね。 無駄に心配かけたくないし。
いなくなってわかることもある。
「奈央ですわよ。 こうなんというかやる気が出ませんーね。 佐々木君をイジりたい」
「おもちゃを取り上げられた子供みたいになってるよ」




