32.森の仲間
旅立ちを決めてから、私たちの行動は早かった。
「ツイントレントさーん!」
まずは、ツイントレントへの報告。私たちがこの森で一番お世話になった相手だし、私たちのことを一番気に掛けてくれた相手だ。旅立ちの報告をしない訳にはいかない。
通訳をしてくれたマシロによれば、ツイントレントは寂しがってはいたものの、私たちの旅立ちを祝福してくれたようだ。動けない自分たちの代わりに、この世界を見ておいでとのこと。マシロの祝福も、加護に変化させてくれたらしい。
急にツイントレントが家族のように思えて、私まで寂しくなったのは内緒だ。
「…ツイントレントさん、またひとりぼっちになっちゃうのかな?」
私もマシロも、ひとりぼっちの寂しさを知っている。ツイントレントも、双子とはいえ長い間ずっとひとりぼっちだったのだ。私たちが旅立てば、また寂しい想いをさせしまうことになる。
誰だって、ひとりぼっちは寂しい。仲間外れにされたマシロだって、一人旅をしていたリラさんだって、強い魔物のツイントレントだって…人間も魔物も動物も、寂しい気持ちに種族は関係ないのだ。
『大丈夫だよ』
でも、大丈夫。私たちが旅立っても、ツイントレントがひとりぼっちにならない方法がある。
「えっ?」
驚くマシロを差し置いて、私はふふふんと(無い)胸を張ってマシロにひょいっと跳び乗った。
「………」
森で静かに対峙する双子の木と茶色の鼠。それを見守る私とマシロ。
「…チュー」
茶色の鼠、もとい三日月鼠は困ったように私たちを見る。私は三日月鼠に大量の木の実を持たせ、ぱしぱしと(背中まで届かないので)腰を叩く。
『頑張って!』
私とマシロは、三日月鼠をツイントレントの所まで連れて来ていた。
この森に長く住んでいるツイントレントなら三日月鼠の言葉もわかるし、私たちが使っていた巣穴なら三日月鼠も入ることが出来る。三日月鼠がツイントレントと一緒に住むことが出来れば、この森の他の魔物たちにもツイントレントが恐ろしい魔物ではないと伝わるはずだ。そうすればツイントレントはひとりぼっちではなくなるし、ツイントレントの庇護に入れば森の魔物たちも安心して暮らすことが出来るのだ。
「チュ?」
三日月鼠は恐るおそるツイントレントの根元に辿り着くと、幹の上の方に目を向け首を傾げた。ふんふんと頷いているので、どうやら会話が成り立ったらしい。
『なんて言ってるの?』
「…ツイントレントさんがポイズンラットさんに、今日は天気が良いですねって」
『コミュ障か』
もっと他に話すことあったよね?博識の称号を活かして、もっと会話に花を咲かせ…ん?
『え、ポイズンラット?』
「…フキル、危機感無さすぎだよ」
呆れたようにマシロが溜め息をつく。三日月鼠が魔物なのは知っていたけど、鑑定はしたことがなかったからどんな魔物なのかは知らなかった。えっと、ポイズンラットは…
【ポイズンラット】ベビーラットが毒の属性を得て進化した姿。爪や牙には毒があり、最悪の場合は死に至ることもある。単体では恐れられることはないが、集団では大型の魔物でさえも倒してしまうので危険。
『………』
「…フキルが抱きしめられてた時、ひやひやしたんだからね」
マシロがあの時と同じようなジト目で私を見る。申し訳ない…見た目はただの可愛い鼠なのに、そんな物騒な種族だったとは…もうちょっと色々危機感持とう、私。
しばらくすると、三日月鼠が木の実を地面に置いてキャッキャと騒ぎ始めた。ツイントレントは相変わらずどうなっているのかはわからないけど、三日月鼠の様子を見るに会話は盛り上がっているようだ。
三日月鼠には私たちの巣穴を譲ると伝えているし、ツイントレントも住んでくれるなら歓迎すると言ってくれていたらしい。三人(三体?)の関係も良好そうだし、私たちも安心して旅立つことが出来る。
「お友だちになれてよかったね」
微笑ましい三人の関係を眺め、マシロがにこにこと笑う。私までなんだか嬉しくなって、自然と笑みが溢れる。
人間も魔物も動物も、仲良くなるのに種族は関係ないのだ。
『今夜はパーティーかな』
まぁ、木の実しかないんだけどね。
私は大量の木の実を出して、マシロと一緒に木の実の仕分けを始めた。
この日の夜はみんなで食事をとり、マシロを通してたくさんお喋りをした。マシロも大人数でお喋り出来るのが嬉しかったみたいで、忙しいながらも始終にこにこしていた。
三日月鼠があまりにも喜んで木の実をたくさん食べるので、私はこっそり木の実をツイントレントの後ろに埋めておいた。いつの日か芽が出るだろうし、ツイントレントなら植物操作のスキルで成長させてくれると思う。そうすれば三人の食事にも出来るし、他の魔物や動物たちもここに立ち寄ってくれるようになるかもしれない。
私とマシロが過ごした森。私とマシロのように、魔物も動物も関係なく、仲良く過ごしてくれるといいな。




