33.草原へ
私たちの旅立ちは、あっさりとしたものだった。元々この森に知り合いはツイントレントと三日月鼠の二人だけだったし、それはマシロも同じだ。
私たちはいつも通り朝に起き、ツイントレントから朝露をもらい、三日月鼠にもそれを教えた。みんなでいつもの木の実で食事をとった後、ツイントレントと三日月鼠に挨拶をして私はマシロのバッグのポケットに入り込んだ。そして、
『うわぁ…!』
今、森を抜け草原に降り立ったのだ。
見渡す限り緑が広がる大草原。空は明るく晴れていて、澄んだ青空がどこまでと広がっている。
「フキルも歩く?」
私が口を開けて辺りを見回していたからか、マシロがくすくすと笑いながら問い掛けてくれた。
私とマシロじゃ歩くスピードが全然違うからずっとは無理だけど、少しくらいなら私も歩きたい。私はバッグのポケットから跳び出し、地面に降りた。
『わわっ…』
草原の草は森のものとは少し違っていて、柔らかく長かった。身体の小さい私はあっという間に埋もれてしまって、前がほとんど見えない。
それでも私は前に進み、草を掻き分けて歩く。
「上からじゃ全然見えないね」
『出会った時は同じくらいの大きさだったのにー…』
背後からマシロが覗きこんでいるのがわかったので、私は後ろを振り向き文句を言う。
昔は自分だって小さかったのに。かわいいのは、今も昔もずっとかわいいけどね。
私はハイジャンプでマシロの頭に跳び乗り、私たちの過ごした森に背を向ける。
『こっちの方がいいかな』
「そうだね、それじゃあ行こっか」
マシロがにっこりと笑い、私もつられて微笑む。マシロとなら、いつだってどんな場所だって、私は嬉しいのだ。
こうして、私たちの旅が始まった。
マシロが足元の草を楽しそうに足で掻き分け進んでいく。
空を飛んでいってもよかったんだけど、初めての森の外なのだ。別に急ぐ旅でも目的地がある訳でもなかったので、地面を歩いていこうとマシロと決めていた。まぁ、結局マシロが歩いてくれてるんだけど。
「そうだ、フキル」
ふいにマシロが立ち止まり、頭の上の私に目を向ける。
『どうしたの?』
「私進化したばっかりだから、どこかで少しレベルを上げておきたいなって思って」
なるほど、そういえばマシロは一昨日に進化してから、ずっとそのままだったはずだ。決して低いステータスではないけど、初めての場所でレベルが低いままなのはあまりよろしくない。
『この辺りに手頃な魔物がいるといいんだけど…』
いきなり強そうな魔物と戦うのは嫌だし、出来れば動物系の魔物も気持ち的には避けたいなぁ…
そんなことを思いながら辺りを見回していると、少し背の高い草むらの向こうに蜻蛉のような虫が三匹飛んでいるのが見えた。
異常に大きいし、あれは魔物だよね?
『マシロ、あの蜻蛉みたいな虫は魔物なの?』
「とんぼ…?」
聞き慣れない単語に対してはてなマークを頭に浮かべ、マシロが私の示す方を向く。
「あ、フライヤーだ」
やっぱり魔物だったんだ。サイズ感、おかしいもんね。
【フライヤー】二対の羽を持つ昆虫型の魔物。群れて行動することが多く、大きな羽音を駆使して戦う。
あー、確かに羽音は大きそう…私、虫のあの羽音苦手なんだよねぇ…
マシロはフライヤーとやらを認識すると、羽を広げ飛び上がり、三体の魔物に向かって急降下する。
「アイスニードル!」
─────ヒュヒュン!
お馴染みの氷の矢がマシロの背後から発生し、フライヤーの一体を貫く。貫かれたフライヤーは草むらへ落下し、塵のように消滅した。
残った二体のフライヤーがブーンと忙しなく羽を鳴らし、マシロへと向き合う。う、嫌な音…耳がキンキンする…
私はマシロの邪魔にならないように、慌ててバッグのポケットへ滑り込んだ。
「いくよ!ライトセーバー!」
マシロが大きく羽を広げると、両羽から光の輪が発生しフライヤーたち目掛けて飛んでいく。フライヤーたちは避けようと上昇したが、光の輪のスピードには敵わずあっさりと両断された。
マシロさん、相変わらず強いね?
マシロって魔法を使う時にちゃんと詠唱してたんだな、そんな呑気なことを考えながら、マシロ無双が始まった。




