28.双子の木
私は巣穴の上の住人(というか巣穴の壁や屋根)、ツイントレントのステータスを鑑定して激しく後悔していた。ステータスもスキルも出鱈目に高すぎる。いくら私のステータスが思っていたよりも高かったとはいえ、足元にも及ばなかった。
無自覚だったとはいえ、なんて魔物の下に巣穴を作ったのか。この世界に来たばかりの頃の私を全力で止めたい。
私は恐るおそる、ツイントレントたちを確認する。
彼らに表情などはなく、一見、本当にただの木に見える。何を考えているのかなんてわからないし、そもそも私には魔物に見えない。
しかし、これは彼らの擬態スキルによるもので、普通は正体など暴けないそうだ。それなのに何故、マシロは彼らがツイントレントだとわかったのか。
すばり、話しかけられたそうだ。それでこの双子の木がツイントレントだとわかったらしいんだけど…
『あれ?マシロはフェザー種としか会話が出来なかったんじゃ…?』
散歩をしていた時のマシロの話によると、この世界には言語は人間が話す一種類のみのようだ。人間は言語を使い、お互いに意思の疎通を行う。国や種族が違っても、たった一種類の言語を共通言語として扱っているそうだ。
では魔物や動物は、どのように意思疎通を行うのか。
魔物と動物は、そもそも音声で会話をしない。動物などは話す器官が身体に備わっていないのだから当然だ。魔物同士は、言葉がなくとも念話のようなもので意思疎通が行えるらしい。ただしそれはあくまで同種族間の場合で、他種族間で意思疎通を行う場合は念話のようなスキルが必要になる。
そして残念ながら、動物には同種族間でも意思疎通を行う術はないそうだ。ジェスチャーのみで相手の意思を汲み取り、ジェスチャーのみで自分の意思を伝える。他者と確実な意思疎通を行うには、自分か相手のスキル頼りになってしまうのだ。
人間と魔物でも、念話系のスキルがなければ意思疎通は困難となる。人間の言葉は魔物と動物には理解出来ないし、魔物は同種族以外に意思を伝える術をスキル以外に持たない。動物は完全に相手頼りになる。
それ故、念話系のスキルは持っているだけで重宝されるそうだ。人間でも魔物でも動物でも、誰でも通訳出来るんだもんね。ちょっとマシロが羨ましい…ってあれ?私…リラさんの言葉、ちゃんと理解出来てたよね?むしろ日本語に聞こえてたんだけど…
新たな疑問が生まれてしまったけど、要するに他種族同士のマシロとツイントレントでは意思疎通ははかれないのだ。今はマシロの念話があるけど、アドバイスされていたのは進化前の話。ツイントレントは念話のスキルを持っていないみたいだし、いったいどうやって…?
「ツイントレントさんたちは長生きで物知りだから、どんな魔物でもお話し出来るんだよ」
そういえば、ツイントレントの称号に博識とあった気がする。長い時を過ごすことで、様々な知識や経験を得たのだろう。ステータスもすごいことになってるし、マシロと会話が出来ていたのは納得だった。
『なるほどねぇ…』
私は、この世界のことを何も知らなかったんだと改めて実感する。誰にも何も教えてもらえなかったので当然といえば当然なのだが、マシロがいなければどうなっていたことか。
マシロに感謝しつつ、ツイントレントに目をやった。
「ツイントレントさんたちがね、いつもありがとうだって」
『???』
え、なんで?
私はツイントレントたちに何かをした覚えは何一つない。今日までツイントレントの存在を知らなかったのに、過去の私は彼らに何をしたというのか。
マシロはにこにことしながら、嬉しそうにツイントレントたちの言葉を代弁する。
「ツイントレントさんたちはこの森では強すぎて、他の魔物も動物も、誰も寄ってこなかったんだって。だからねずみさんが足元に巣穴を作った時、驚いたけど嬉しかったみたい」
通りでうちの巣穴の周り、魔物も動物も誰も寄ってこない。そりゃ平和な訳である。
私たちがいるこの森はツイントレントの森と呼ばれているそうで、この森に住む者は擬態であるかもしれない双子の木には近寄らない。森の主であるツイントレントには、誰もが恐れをなして近付いてこなかったそうだ。
長い時を孤独に過ごしていた中、そこに何も知らないハムスターがとことことやって来て、自分たちの足元に巣穴を作った。ハムスターの落とす木の実や殻は双子の木の養分となり、ハムスターは双子の木に付いている蔦や水滴を払ったりと無自覚に双子の木の世話をする。ハムスターはやがて小鳥を拾い、二匹は仲良く自分たちの周りで成長した。そして小鳥の可能性に気付き、アドバイスをして今に至る、ということだそうである。
…無自覚って幸せだなぁ。
思い返してみれば、マシロが初めて進化した時、巣穴の天井が高くなっていたことがあった。恐らく、ツイントレントたちが気を使ってくれたんだと思う。今朝は私が木の実を出していないのにマシロがツイントレントの実を渡してくれたし、知らない間に随分と助けてもらっていたらしい。
私は遠い目をしながら、マシロの話を聞いていた。そしてマシロは、本日二回目のとんでも発言をする。
「これからの私たちに、自分たちの祝福と加護は役に立つだろうって!」
????の祝福と加護って、ツイントレントたちか…!
私は更に頭をかかえ、マシロは嬉しそうにツイントレントたちの意思を伝えてくれた。
私はとりあえずツイントレントたちに感謝を伝えてもらい、感謝を込めて大量の木の実を贈ったのだった。
知らない間に、とんでもない魔物に気に入られたものである。




