21.小さな私に出来ること
私は急いでふらつくマシロの足元に寄り、身体を支えた。マシロの血がべっとりと付くが、そんなことはどうでもいい。
マシロはこんな状態でも私を守ろうとしてくれている。それなのに、私が何もしない訳にはいかない。戦力にはなれないけど、支えくらいにはなれる。
マシロのおかげで少し冷静さを取り戻すことが出来た私は、三体に向き合った。
「ナンナノ?ナンデアンタナンカガ氷魔法ヲ?」
銀の鳥、サフィーが苛ついた様子で前に出る。三体の中では比較的小柄で、口調からするとメスのようだ。
マシロはベビーフェザーの時から氷魔法を使っていたけど、他のベビーフェザーは違ったのだろうか。
そういえば、この三体の魔物はそれぞれ羽と同じ色の祝福の称号を持っていた。あの色の祝福が魔法の属性にも関わっているのだろう。銀の祝福を受けていないマシロが氷魔法を覚えているはずがないし、そもそもミニフェザーで属性魔法を覚えることはなさそうだ。
「シカモマダミニダロウ?ミニノクセニマホウナンテ、メザワリダナ」
ギイがノイズ混じりの声で悪態をつく。他の二体と比べると聞き取りにくく、恐らくこれが念話のスキルによるものだと思う。こいつだけスキルLvが低かったはずだ。
【念話】音を介さず、思念で意思を伝達する。自分の意思を伝えるだけでなく、相手の意思を受け取ることも出来る。
やっぱり…だからこいつらの会話が私にもわかるんだ。相手の意思を受け取ることも出来るとあるから、私たちの意思も伝えられる…?
「オイ、ソコノ小サナ鼠。何ヲコソコソト考エテイル」
赤の鳥、ヒイロが私を睨み付ける。その鋭い目付きに怯みそうになるけど、後には引けない。身体中がガクガクと震えているのがわかる。でも、マシロのためにも逃げ出す訳にはいかなかった。
どうやら念話のスキルは、意識せずにこちらの意思が伝わってしまうようだ。完全には伝わっていないようだけど、こちらの意思が勝手に伝わってしまうのは困る。
『この森になんの用なの?』
勝手に伝わるくらいなら、こちらから伝える。震える身体を押さえつけ、私は三体に問いかけた。
「ア?イマノハソノネズミカ?」
マシロの更に倍はあろうかという身体で、ギイが乗り出してくる。自然と、私とマシロは後退っていた。少しでも距離をとらないとまずい、全身の感覚がそう告げている。
「ネズミノクセニ、オレタチノネンワガワカルノカ?」
ギイが私たちを見下したように眺める。魔物たちの間でも、私のような動物が意思を理解しているのは珍しいらしい。これでも私、元人間ですから。
「ゴチャゴチャ五月蝿イワネ。トットト殺シテ食ベルワヨ」
サフィーが冷めた目付きで氷の矢を発生させる。マシロの羽を貫いたのは、やっぱりこいつの氷魔法だった。自然と怒りが込み上げる。
「鼠ゴトキガ、我々ニ怒ッテイルノカ?身ノ程知ラズナ」
完全に馬鹿にされている。それもそのはず、あちらはDランク以上の魔物が三体、私はただのF-の小動物だ。勝敗は誰もがわかっている。
たとえマシロが万全な状態でも、マシロではこの三体には敵わない。
それならば、私がとる行動は一つだけだった。
『あんたたちのせいでマシロが大怪我したのよ!許せる訳ないでしょうっ?!』
なるべく大きな声で、三体に話しかける。そうだ、こっちを向け。
私はこっそり背後にルコの実を出現させ、マシロから離れる。
「ピュイッ?!」
支えを失ったマシロが、がくりと地面に伏せる。
やっぱり無理してたんだね。ごめんね、マシロ。
「下等生物ガ、私タチニ逆ラウツモリ?」
─────ヒュンヒュンッ!
サフィーの放った氷の矢が私に浴びせられる。私は小さな身体を活かし、なんとか避けきることに成功した。
「ナニヤッテンダヨッ!マヌケ!」
続けざまに、ギイがもの凄いスピードで私に突進してくる。避けれるはずもないので、私はギイに向き合った。
─────ドンッ
ギイと私では体格にかなり差がある。ギイは半ば地面に激突する感じで突進し、自身もダメージを受けたようだ。
一方私はというと、当たりはしたものの衝撃無効のおかげでダメージを受けてはいなかった。勿論吹き飛ばされはしたけど、これも想定の範囲内だ。地面にぶつかっても岩にぶつかっても、衝撃無効を持っている私にダメージは通らない。
「ナンナンダヨ、テメェ…」
ギイとサフィーが私を睨み付け、じりじりと私に歩み寄る。きっと普段の私なら怯えきって動けなかったんだろうけど、今はもう大丈夫。もっともっと、私に集中しろ。
覚悟は、既に出来ている。
私は三体にばれないように、マシロの口元にもルコの実を出現させる。
お願い、良い子だから食べて。
「鼠ヲ狩ルノニ、何ヲ手コズッテイル」
ヒイロが私の前に立つ。三体の中ではこいつが一番大きく、ランクもステータスもスキルも上だった。他の二体は祝福だったけど、こいつだけは加護だったはずだ。きっと祝福よりも加護の方がレアな称号だったのだろう。そんなこと、今更どうでもいいんだけど。
マシロの方にちらりと目を向けると、ルコの実を食べて回復したマシロが立ち上がっていた。鑑定してみると、HPが半分以上に回復したようだ。あれならきっと、もう飛べるはず。
「ピ…」
マシロがこちらに来ようとしたので、私はそっと首を振った。
来ちゃ駄目だよ、マシロ。
私は目の前のヒイロを見据え、精一杯睨み付けた。
「ナンダ、ソノ目ハ」
ヒイロの背後で、大きな火球が生成される。恐らく、これは避けきれない。私の周り一面、燃やし尽くす気だ。
あぁ、マシロの成長をこの目で見れないのはすごく残念だけど、ちゃんと逃げるんだよ。立派な魔物になってね。
「死ネ」
火球が一回り大きくなり、私に降り注ぐ。
私は全身が焼けつくように熱くなるのを感じた。
ごめんね、マシロ。何度もなんども私を助けてくれて、守ってくれて、ありがとう。
この世界であなたに会えて、本当に良かった。




