↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤンデレ化阻止のために継娘へ愛を注いだら、公爵家が浄化されて冷血公爵まで無自覚に攻略していました  作者: 宮野夏樹
1章 悪妻、愛を注いで公爵家を浄化する

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/19

第8話 おかんスイッチON!  悪徳メイドの登場


「では、少しお話をしましょうか」


 アルテミアは、にこりと微笑んだ。アルテミアの笑顔は、まるで春の陽だまりのように柔らかい。だが、その瞳の奥には一切の温度がなかった。


 怒鳴り声もあげず、眉間に皺すら寄せていない。むしろどこか楽しそうですらある。だからこそ、メイド長のマルタは不気味さにわずかに眉をひそめた。


「……お話、ですか?」

「ええ、ルッカちゃんのことについてです。衣服はボロボロ、食事は質素、使用人の手も回っていない。……公爵家の令嬢に対する扱いとして、ずいぶんと乱暴ではありませんか?」

「まあ」


 マルタは口元に手を添え、薄笑いを浮かべた。


「幼いお子様ですから。多少の粗末さは仕方のないことでございます。先程も申し上げたとおり、前妻様のお子は……どうしても“扱いづらい”のですよ。まぁ、公爵家の内情もご存じない新参の奥様が、長年仕えてきた私どものやり方に口を挟まれるのは───」

「『内情』?」


 アルテミアは首を傾げ、にっこりと笑みを深めた。


「公爵家の予算を、貴女が管理しているという意味ですか?  執事のベルトランさんではなく?」

「……え?」


 マルタの表情が一瞬で凍りつく。


「私、数字を見るのが好きなんです。前世───あ、実家で貧乏男爵家の帳簿を預かっていたものですから。人は嘘をつきますけれど、数字は嘘をつきませんものね。数字は嘘をつかないって、前世の決算資料で学んだのよ!!」


 アルテミアはゆっくりと立ち上がり、一歩踏み出した。


「令嬢に必要な衣服も食事も用意されていない。なのに、公爵家の『令嬢養育費』の支出は減っていない。……なら、その消えたお金はどこに流れているのかしら?」

「っ……!  何をおっしゃっているのか───」

「簡単な確認ですよ。公爵家の予算がどこへ消えているのか。そして……『躾』と称して食事を抜き、暗い部屋に閉じ込めていたのは誰なのか」


 『暗い部屋』という言葉が出た瞬間、後ろでルッカの身体がびくりと跳ね、青ざめた。ルッカは、反射的に自分の腕を抱きしめた。寒さではなく、記憶のせいで震えているようだった。


 アルテミアはその反応を絶対に見逃さない。


(───ビンゴ。横領だけじゃない、虐待までやってたわね。いえ、横領のために虐待をした………ってところかしら?)


 胸の奥で煮えたぎる激怒。けれど、アルテミアは決して怒鳴らない。感情的になればルッカが怖がるからだ。


 だからこそ、完璧な笑みを崩さないまま、声音だけを氷のように冷たく落とした。


「マルタさん。私、自分の大切なものを傷つけられるのが、ものすごく嫌いなんです」

「…………!」

「この子を傷つけた人間を、私は絶対に許しません」


 圧巻の威圧感に、マルタが思わず一歩後退したその時───。


「奥様」


 低い重厚な声が響いた。


 廊下の角から現れたのは、モノクルの奥に鋭い光を宿した執事、ベルトランだった。


「ベルトランさん」

「お騒がせしております。……奥様、私から『公爵家の裏帳簿』と『これまでの不正』について、すべてご報告させていただきます」

「なっ……ベルトラン様!?」


 マルタの顔面から血の気が完全に引いた。


 執事はマルタを一瞥もせず、深々とアルテミアに頭を下げた。長年胸を痛めながらも踏み込めなかった悪徳使用人の排斥───その決定打を、この新しき奥様が作ってくれたのだ。


(……ようやく、この屋敷に光が差した)


 アルテミアはルッカの小さな手をぎゅっと握り直し、最高の笑顔を弾けさせた。


「それではベルトランさん。公爵邸の大掃除(害虫駆除)、始めましょうか!」


 廊下の奥で、メイドたちが一層ざわめく気配がした。嵐の前触れのように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。