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『異世界転移しない女子中学生の私』が『エグい賢者』⁉  作者: 藍銅 紅@『お姉様はずるい』コミカライズ連載中


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第8話 第一界→他の界 アルティエロ④


ランカさんは涼しい顔で、オレとイズラは汗をかきながら、朝食を食べて。

食べ終わって。

ヴィオ姉さんとジルベルトの分の食事を部屋に運んだあと、ランカさんとイズラに魔法省の建物の中を案内してもらった。

ヴィオ姉さんとジルベルトも誘ったんだけど……、ヴィオ姉さんは部屋から出たくないって、毛布を被ってしまった。


「あんなもんを見ちゃったから、怖いんだよ」


ヴィオ姉さんが怖がる気持ちもよくわかる。オレだって、そうだ。


「時間が経つにつれて、あの山羊モドキを見ちゃったときのこと……、思い出して、怖さがどんどん増していっているみたいでさ」

「うん……」

「アルとボクがいれば。それから、座標さえわかれば。ボクはいつだってヴィオランテを連れて別の『界』に逃げられるから大丈夫って言っても……」


オレたち三人だけなら、それと、座標さえわかれば。多分、どこまでも逃げられる。

『第三界』の次は『第四界』へ。

『第四界』の次は『第五界』へ。

『第五界』の次は『第六界』へ。

……でも、オレたちだけが逃げるのか? 

他の『界』の人たちは? 

正直に言えば、オレだって、確かに怖い。

山羊モドキを思い出せば……体が震える。逃げたい。


でも。


よかった! 無事ね! もう大丈夫!

キラキラの、銀の髪と金の瞳。

イズラの笑顔。


「……オレは、オレたちだけが生きて、あの山羊モドキから逃れられればいいなんては思えない……かも」


大丈夫!

キラキラのイズラ。

多分、オレは、あのとき、あのタイミングで助けてもらって……、きっと救われた。

救われたなんて大袈裟な言い方かもしれないけど。


あの時、イズラに言ってもらえた「大丈夫!」が怖がる気持ちを……減らしてくれている。


「ボクは……ヴィオランテさえ無事でいてくれればいいよ。できればアルもね」

「ジルベルト……」

「他の人なんて、どうでもいいとは言わないけど……。見知らぬ他人まで助ける余裕はない。力もない」


見知らぬ他人。


ああ、そうか。ジルベルトにとっては『第三界』の人たちは、見知らぬ他人。

どうなっても無関係とまではいわないけど……優先順位は低い。

ジルベルトが守りたいのはヴィオ姉さんだけ。付随して、弟のオレもって感じかな。


オレは……イズラに会った。

タビオ氏に会った。

ランカさんに会った。

『第三界』で、知り合ったばかりの三人。

だけど、イズラにはオレは多分気持ちを、かなり救ってもらった。

タビオ氏は、オレの話を聞いて動いてくれた。

ランカさんにも、きっとこれからいろいろ世話になるのだろう。


彼らは、オレにとってはもう無関係な他人なんかじゃない。


「オレは……ヴィオ姉さんだけじゃなくて、オレを助けてくれて、大丈夫だって言ってくれた『第三界』のみんなも守りたい」

「そっか……」


オレとジルベルトのどっちが正しくて、どっちが間違っているかなんて話じゃない。

選んだモノの違い。

それだけ。


「ボクはヴィオランテを守りつつ、ある程度は『第三界』の魔法使いに協力をする。代わりに他の『界』の座標を教えてもらって、可能な限り早くヴィオランテを連れて逃げるよ」

「オレは、山羊モドキを倒したい。だから……ゴメンな」


今はまだ一緒に居ても。

いつかきっと、ヴィオ姉さんともジルベルトとも別れることになるだろう。


「ゴメンじゃないよ」


ジルベルトがうっすらと笑う。

オレは、ジルベルトに頭を下げる。


「でもやっぱりゴメン……。それから……ヴィオ姉さんを……頼みます」



   ***



「あー……。山羊モドキをなんとかするって決意したところで、今は何にもすることはないんだけどね」


呟きながら、ごろりと芝生に横になる。

ここはオレが最初に倒れていた場所。

『第一界』の魔法使いたちの訓練場みたいなところで……。『第一界』でオレたちが肉を焼いて食べていた広い空き地にちょっと似ている。

『第一界』のほうは、肉の油が落ちても大丈夫な土の地面だったけど、ここはキレイに芝生が敷かれている。遊具のない公園みたいだ。

寝転がると、芝生がちょっとチクチクする。ほのかな草の匂い。青い空。

……気持ちがいい。

ヴィオ姉さんも部屋なんかで閉じこもっていないで、こうやって空を眺めたらいいのに……なんて、やめよう。怖いって泣いているのを無理やりに引きずり出したって良いことはない。ジルベルトが付いているからきっと大丈夫。


横になって、真面目に訓練をしているイズラを見る。


「う、うううう……」

「はい、イズラ・ド・アイオアディ様。お腹の底にあるあたたかい力を意識して、それをぐっと外に放出……」

「う、ううううう……!」


苦悶の表情で、荒い息を吐くイズラ。

えーと、基礎訓練……かな? うまくいっていないようにしか見えないけど。


「あ、ああああああっ! もうっ! 分かんないわよっ! 魔力なんて!」


イズラは半泣きだ。


「先日、離宮を半壊させたのですから、膨大なお力をお持ちのはずなのですが。……」

「う、うるさいわランカ! 意識してやったんじゃないわよっ! 咄嗟にっ! ぐわっと! やっちゃっただけよ!」

「その『ぐわっと!』を意識して出していただければよいのですが……」

「怖いじゃないっ! また屋敷を壊すかと思うとっ!」

「いざという時は結界を張ります。ご安心を」

「無理っ!」


……えーと、察するに、イズラは何かがあって、魔力を暴発させたのかな?

聞いてもいいのかな?

聞いてみよう。

オレは寝ころんでいた姿勢から、起き上がる。


「あの、聞いてもいい?」

「何でございましょう、アルティエロ・デ・バルベリーニ様」


またランカさんのフルネーム呼び。ま、いいか。


「離宮を半壊って、イズラ、魔力暴走でも起こしたのか?」

「暴走といいますか……。恋愛上のいざこざを起こされた第三王子のとある騒動に巻き込まれそうになった王太子殿下を咄嗟に庇われたときに、イズラ・ド・アイオアディ様が魔力を発現させ、結果、離宮は半壊……」

「わーあ……」

「それで、イズラ・ド・アイオアディ様が膨大な魔力量の持ち主と分かり、我ら魔法省がお身柄をお預かりして魔法の訓練を……」

「あー、細かい諸事情はともかく、大筋は理解した」


イズラは恥じたみたいに背を丸めて小さくなってしまった。


「ランカさん、オレがイズラの魔法訓練してみてもいい?」

「アルティエロ・デ・バルベリーニ様がですか?」

「うん。『第一界』流っていうか、オレの師匠流訓練方法。試してもいい?」

「『第一界』の『界渡り』でいらっしゃるアニェーゼ・テレーザ・オリハ様ですね。ぜひとも、お願いしたいです」


ランカさんの許可も取ったことだし。

イズラも縋る目でオレを見ているし。

よし、ささやかなお礼……でもないけど、イズラの訓練、手助けをさせてもらおう!


「イズラ。オレと向かい合わせになって立ってくれる?」

「は、はいっ!」


イズラが立ち上がって、オレの前に立つ。うーん、小さい。っていうか、背が低い。オレの胸あたりまでの身長しかない。


「向かい合って、手と手を合わせて……」

「こ、こうですか?」


オレの左の掌に、イズラの右手の掌を合わせる。

オレの右に掌には、イズラの左手を……って、手、手もちっさい! しかもなんかぷくぷくしている気が……って、女の子の手に触ってドキドキしてんじゃないからな! これは訓練! 

魔力の循環基礎訓練!


「そう。で、イズラの右の掌に意識を向けてくれる?」

「右……」

「魔力、ふんわり出すよ?」


オレの左手の掌から、ビー玉みたいな小さくて丸い魔力をふわっと出す。

「ふんわ……って、きゃあっ!」


小さく叫んで、手を放そうとしてので、咄嗟にきゅっと握る。


「ゴメンねー。そのまま手を離さないでねー」

「はははははははいいっ! 何ですかこれ!」

「んー、オレの魔力の塊。掌に転がすからね」


オレとイズラ合せた掌の間で、ころころとボール状にした魔力を転がしてみる。


「わ、わわわわわ……」

「掌の真ん中から親指の付け根に転がすねー」

「わ、わああああああ……」

「今度は親指から小指のほうに転がすねー」

「は、はははははいいいいいいい……」


ころころころころ。転がして掌を十周する頃にはイズラの腕から力も抜けてきた。慣れたかな?


「じゃあ、イズラ。このボール状の魔力、イズラの掌の中に押し入れるね」

「え⁉」


頭で考えさせるよりも、体感。

感覚でおぼえさせる。

グイって、魔力を押す。


「わっ!」

「押し返して!」


反射的に、イズラがオレの魔力をグイって押し返した。

お、いきなりできた!


できなかったら、魔力じゃなくて、手を押し引きしようと思ったけど。

うん、イズラ、かなりセンスありそう。


「もう一回押すよ!」

「はいぃっ!」


同じことを繰り返す。

魔力を押して返して、また押して返して。


「もうちょっと奥まで。今度は手首まで魔力を押すから、オレの手首まで押し返して」

「はいっ!」


ぐいーって、手の中に魔力を通す。イズラも、オレの手首まで魔力を押し返す。


「上手上手! 今度は肘まで!」


グイいいいーって、魔力をイズラの肘まで通す。イズラのオレの肘まで魔力を押し返してきた。


「すごい! できた! じゃあ、掌、手首、肘、肩を通って、今度はイズラの左腕、肩から肘、掌に戻って……」


言っている途中から、既にイズラは魔力をぐるーっと流し出した。


「で、できました……」

「そのまま、集中して、もう一周」

「はいっ!」


二週、三週と繰り返して。


「今度はその魔力を、肩からイズラの胸を通ってお腹へ」

「はい」

「足を通って、つま先まで」

「はい」


オレの指示通りに、イズラは自分の体の中に魔力を通す。


「つま先からまたお腹に戻って肩まで。肩までたどり着いたらオレの掌に魔力を戻して」

「わかりました」


オレの掌にぼわっとしたあったかい魔力が戻る。


「深呼吸。息を吸って吐いて……、魔力を小さくする」

「はい……」


すう、はあ……と呼吸を繰り返すたびに、魔力のボールを小さくして……。


「終わり。すごいな、イズラ。一回目でできるとは」

「え、ええええっと、アルティエロ様の教えかたが上手い……」


ランカさん真顔で頷いているけど。


「んー、これまでの訓練の成果もあると思うよ?」


赤ん坊が歩けるようになるのと同じ。寝返りができるようになって、お座りをして、つかまり立ちをしたりはいはいをしたりして、伝い歩きをして……。で、ある日突然、歩けるみたいになる。でも本当は突然できたんじゃなくて、それまでの蓄積の結果ってだけ、なんだよなー。

……師匠から受け売りだけど。


「でも、すごくわかりました。魔力の、動かし方……」

「よかった」

「もう一回、やってみてもいいですか?」

「いいよ」


改めて、手と手を合わせて、同じように魔力を循環させた。


あっという間にイズラは魔力の動かし方を覚えて……。


そして、数日後には、簡単な通信魔法さえもマスターしてしまった。イズラ、天才かよ!


そうしてあっという間に、通信魔法までつかえるようになった。


オレは朝起きたら通信魔法でイズラに「おはよー」と連絡をする。

イズラも「おはようございます、アルティエロ様。今朝は天気もいいですから、食堂でサンドイッチを買って、外で一緒に朝食を食べませんか」って返事を返してくれる……。

わずか十日程度で、ここまでできるようになるなんて……。


いくら何でも進歩が、早すぎる、気がする……って、あ。


「オレのせい……かも……」


無意識のうちに。オレが、イズラの魔力を……『増幅』していたのかも……しれない。


そのことに気が付いたのは、第一段階の調査を終えたタビオ氏たちが『第三界』に帰ってきた後。


そう、タビオ氏たちがあの山羊モドキを調べに『界』を渡っていく前には、イズラは膨大な魔力はあっても使えていなかった。

それが帰ってきたら……、魔力コントロールはできているし、魔直循環は滑らかだし、通信魔法は使えるし、元から大きかった魔力量が更に増大しているんだから……、驚いたのだろう。


「基礎訓練だけしておくようにっていただろう! どうして通信魔法まで、バリバリに使えるようになってんだ!」

「……すみません、オレの、せい、です……」


そうして、オレが『増幅』の魔力が使えることを、タビオ氏に知られたのだった……。

 



次回は村上さんに戻ります。

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