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『異世界転移しない女子中学生の私』が『界の賢者』⁉  作者: 藍銅 紅@『前向き令嬢と二度目の恋』2巻 発売中


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第4話 三年二組→第三界 相川裕也


教室の窓側、一番前の席。

日当たり抜群であったかくて眠くなる……には、今日は風が強すぎた。

換気のためにほんの少しだけ開けてある窓は、強風でガタガタとうるさく鳴るし、カーテンもバサバサと揺れる。


鬱陶しいな。


「皆さん! 窓の外を見てください! ほら、桜の花びらが散っていますね! これが『無常観』なのです! ああ、『無情』ではないですよ。『常、ならず』ね!」


四時限目の古文の授業中、永倉先生がすんごい熱意で力説している。


あー、ウザい。


桜吹雪を堪能するよりも、婆ちゃんの作った桜餅が食いてえな……なんて。


春になると、婆ちゃんはいつも桜餅を作る。

塩漬けにした桜が入った、甘いんだかしょっぱいんだか分からない、餡子入りの餅。


……正直に言うと、美味くはない。

だけど、春になると、なんとなーく食いたいな……なんて思ったり。うーん、今日、家に帰ったら、婆ちゃんに頼んで作ってもらうかー。


俺は、そんなことをボケーっと考えていたんだよな。


そうしたら。


どこからともなく「リンゴーン!」って感じの鐘の音が聞こえてきた。


何だこの音。風が強いから、どっか遠くの教会の鐘の音でも、流れてきたのかな……?


だけど違った。


鐘の音がした直後、俺の頭がぐらっと揺れた。目の前も真っ暗になった。


地震? 

それとも貧血とか?


何だろうと思ったときには、もう、俺は三年二組の教室から別の場所に移っていた。


別の場所……、そう、大聖堂とか礼拝堂みたいな場所だ。

正面には祭壇。……祭壇、だよな? それとも聖壇とか言うんだっけ? たくさんのローソクが並べられて、聖杯っていうのかな、でっかいワイングラスみたいなのとか、香炉みたいなのが並んでいる感じなんだけど……。

で、その祭壇っぽいところの真上……、天井からは、すんごい大きい鐘が吊り下げられていた。

ご神体が鐘なのかな……? 

あ、ご神体って言い方だと、宗教違い? 

宗教関係も、西洋建築も、フツーの男子中学生にはわっかんねー……。


……って感じで、でっかい鐘を見上げていたら。


「どうしてアルティエロ様じゃないのよ!」


いきなり、すんごい美少女が、俺に向かって怒鳴ってきた。


銀色のサラサラの髪。

黄金みたいなキラッキラの瞳。

フード付きの真っ白なコートっぽい服……、ローヴとかいうのかな? 上下が一続きになったゆったりとした衣服を着て、左手にはアニメの魔法使いみたいな杖を持っている。年齢は……俺たちと同じくらいか、少し上程度に見えるけど……。


「え、えっと……?」


いきなり美少女に怒鳴りつけられて、俺は戸惑った。


「アルティエロ様を呼び寄せたハズなのに! どうして⁉ アルティエロ様の魔力の痕跡はちゃんとあったのに……」


美少女が、ぶつぶつ言いながら、右手で髪を搔き毟りだした。

銀糸みたいなきれいな髪が、すんごくぐちゃぐちゃになっていく。


あー、えーと?

とりあえず、俺はそのアルなんとか様じゃないよって言ったほうが良いのかな……?


「えーと、あのー、俺は、聖稜中学校の三年一組、出席番号一番、相川裕也という者で……」


言い終えないうちに、美少女が叫んだ。


「ええい! もう一回!」


銀髪金目の美少女が左手の杖を天井……いや、鐘に向けて掲げて。何かの呪文を唱えると、鐘が「リンゴーン!」って、ものすごい大きな音を出した。

俺は思わず耳を押さえる。

あ、あれ? 音の大きさは違うけど、これ、この音、さっき三年二組の教室でも鳴っていなかったか……?


考えているうちに、俺の隣の席の、井上が、いきなり現れた。


「うえええええ⁉ 井上⁉」


思わず、声を上げたら、井上はぼんやりと俺を見た。


「あれ? 相川……?」


俺と井上を、美少女がぎりっと睨む。


「また違うっ! アルティエロ様じゃないいいいいいい!」

「はあ?」


井上がぽかんと答えた。


「嘘でしょう! このあたくしが、上級魔法使いのあたくしがっ! 二度までも間違えるなんて!」


こうしちゃいられないと、また、美少女は呪文を唱えて、鐘が鳴って。


……で、現れたのは上野さん。


「どうして女性⁉」

「は、はいぃ……?」


いきなり現れた上野さんは、おろおろ顔。


「あああああああああもうっ!」


美少女が、呪文を唱えて、鐘が鳴る。

現れたのは遠藤さん。


「どうして⁉ アルティエロ様を、こっちの界に呼び寄せているハズなのに! 感知している魔力痕跡は……正しいのにいいいいい!」


美少女が喚く。

ヒステリーか?

何なんだろう、この美少女。

だけど……、額から流れる汗も気が付かないくらいに、すんごい必死になって呪文を唱え続けている。


唱えて、鐘が鳴って、奥田が現れた。

唱えて、鐘が鳴って、加藤さんが現れた。

唱えて、鐘が鳴って、今度は木下。


ええとーって思っていたら、グレーの髪に黄色の瞳の女性が「落ち着いてくださいませ、イズラ・ド・アイオアディ様」って、諭すように言った。


あー……、俺が気が付かなかっただけで、祭壇? 聖壇? の横には美少女と似た感じの服を着た女性が数人いた。それから壁際には甲冑みたいなのを着た衛兵みたいな人も。


「この『第三界』から『第七界』は遠いのです。ほんのわずかのズレでも……」

「わ、分かっているわよ!」

「今呼び寄せた彼らからも、きちんとアルティエロ・デ・バルベリーニ様の匂いはしております。座標は遠くは……」

「うるさいわ、ランカ! 中級のくせに、上級のあたくしに指図しないで!」

「でしたら、落ち着いてくださいまし。『界』と『界』を結ぶ魔法操作は針の穴を通すより繊細な……」

「あたくしは! 落ち着いているわ! もうっ! 少しずつズラして、呼べるだけ呼べば、いつかはアルティエロ様に辿り着く! ハズよ!」


……かなーりヤケになっていないか、このイズラとかいう美少女。

お付きっぽい人は「……さすがイズラ・ド・アイオアディ様。常識外れの魔力量」とか、感心しているのか馬鹿にしているのか、分かんないような口調で言って。


で、結局。


倉田、紺野、佐倉、清水、鈴木、相馬、田中、内藤、中野、根岸、野原……と、出席番号順にクラスメイト達が現れて、そして……。


「リンゴーン!」って鐘の音と、「キーンコーンカーンコーン」間の抜けた感じの、学校のチャイムと鐘の音が、なんていうのかぶつかったみたいに聞こえて……。


「きゃああああああああ! か、鐘が!」


祭壇の上の鐘に……ビシッと、亀裂が入った。


何なんだ、何なんだろう、これ。

音波とかなのかな……? 

それともイズラとかいう美少女が、魔法を連発して、酷使した結果とか……? 


「鐘が壊れれば、『第七界』からこの『第三界』に、アルティエロ・デ・バルベリーニを呼び寄せることは不可能です!」


ランカとかいう女の人が叫んだ。

イズラとかいう美少女はへたり込んで……、力が尽きたみたいに気絶した。



   ***



ランカと呼ばれたグレーの髪の女性が、壁際に立っていた衛兵みたいな人たちに命じて、美少女イズラとかをどこかに運ばせる。

保健室……、違うか、医務室とかに行くのかな?

それから「すぐに案内を寄越しますので、しばしお待ちください」って、どこかに行ってしまった。


残されたのは、俺たち三年二組の……、俺を含めて十八人。ええと、知らん人間を、こんな祭壇みたいな立派な場所に放置でいいのかよ……。監視カメラ的なのでも設置いるとかか? 魔法で何か監視されてるとか? 


俺はちょっと呆れて、ちょっと警戒して。無言のままでランカとかいう女性たちを見送ったけど……。

クラスのみんなそれどころじゃなかったらしい。


「ここはどこだ」

「なんなんだこれ」


ぎゃあぎゃあ騒いでいる。


誰かが「ラノベでよくある異世界転移とかじゃねえの?」とか言って。


「はあ、なにそれ」

「ラノベ? 転移?」


女子が呆れ顔をしたり。


そんなこんなで、ひとしきり騒いだ後、倒れた美少女イズラとかランカとかいう女性が着ていた服と似たような服を着た男性がやってきた。

恰幅のいいハゲたおっさん……、あ、失礼。ええと、年齢は四十くらい。


「すまないが、隣の建物に移動してもらえるか?」


おっさんが言って。俺たちはみんなでぞろぞろと後について歩く。


隣の建物っていうのは、ええと、国会議事堂みたいな、石造りの重厚な且つでっかいお屋敷だった。


玄関ホールだけでも、俺の住んでいるマンションなんて、すっぽり入っちまうんじゃないかってくらいに天井は高いし、床は広い。


ホールから二階に進む階段や廊下には赤い絨毯が敷いてある。

壁には美術館みたいに絵画とかが飾ってあって、天井にはやっぱりキラキラのシャンデリア。


俺もだけど、クラスのみんなはきょろきょろしながら、おっさんの後について行く。


で、たどり着いたのは、ここは体育館か! ってくらいの広さの部屋。

壁側には暖炉。

暖炉の手前、三メートルくらいのところに、ドーンとでっかい大理石のローテーブルがあって。

そのローテーブルの周りには、俺の部屋のシングルベッドよりも一回りくらい大きいソファ……長椅子っていうのか? が、一、二、三、四つ。あ、四脚っていうのかもしれない? それとも四台? 数え方が分からない。

あと、一人用の椅子が十個くらい点在している。


暖炉とは逆側の壁には……いくつもの絵が飾ってあった。

黒板くらいの大きさの、長方形の額に入れられた、油絵みたいな絵。


「あ、あれ……、この絵って……」


思わず近寄って……というか走り寄って、絵を見てみた。

描かれているのは太陽に水星、金星、地球、火星、木星、土星……。


「太陽系の絵……?」


太陽はでっかく描かれていて、土星にはちゃんと輪がある。火星と土星の間には、小惑星帯みたいなのまであるし……。


首を傾げつつ、絵を見ていたら、暖炉の前で直立不動の姿勢を取っていたおっさんが、いきなり頭を下げだした。


「まず我ら『第三界』とは何の縁もゆかりもない『第七界』の地球の君たちを、いきなり召喚したことを詫びる。我々魔法防衛局の総意ではなく、イズラの先走りではあるのだが、彼女には彼女なりの理由があって……」


学校の先生みたいな年齢の大人から、いきなり詫びるって言われると、なんていうのか、ちょっと感動というか、おっさんを好意的に思ったり。

だって、大人ってさ、俺ら中学生に謝ることなんてほとんどしないから。


だけど俺とは違い、クラスメイト達は一斉におっさんに向かってわめき出す。


「召喚って何ですか!」

「あなたが責任者?」

「これって誘拐ですよね⁉」

「魔法防衛局って何? 魔法とか使えるんですかぁ?」

「『第七界』の地球……?」

「これって異世界転移ですよね! 勇者とかになって魔王を倒すんですよね!」

「家に帰してください……」


ちょっとみんな落ち着けよ。おっさん困ってるぞ。

……仕方がない。


「はーいはいはいはいはいっ! みんなちょっと落ち着けーっ! いったん全員座れー!」


腹から声を出す。


「何だよ相川、邪魔すんな!」

「ええと、木下。落ち着けよ。一斉に喋ったら、おっさん困るだろ。まずはおっさんの話聞こうぜ。文句はそれからでも遅くねえだろ」


木下は「お前が仕切るなよ」とかぶつぶつ言ったけど。まあ、でも大人しく座ってくれた。木下が座ったことで、クラスのみんなも長椅子とかに座りだす。

俺も、空いている一人がけの椅子に座る。


おっさんが、俺に「ありがとう」的な目配せをしてから「コホン」と咳ばらいをした。


「君たちの戸惑いや怒りももっともだ。魔法省魔法防衛局山羊対策課課長補佐として、このタビオ・ロッシ・クローチェがまずお詫びする」


何かすんごい長い肩書を言ったけど……、ええと、魔法に山羊?

なんだそりゃとは思ったけど、ツッコミも入れられないほどにおっさんは真摯に頭をさげてきた。

おっさん……ええと、タビオさん? クローチェさん?

このタイミングで名乗ったってことは……、おっさん呼ばわりに心が傷ついたとかかな。すみません。名前で呼ぶますよ、今度からは。


「詫びと説明をするに前に……。君たちは『界』の概念は有してはいないだろうから、まず『界』に関して話をさせてほしい」

「『界』って……『第三界』とか『第七界』の地球とかさっきおっさん……、ええと、タビオさん……、クローチェさん……が言っていたやつですか?」


俺は右手を上げて聞いてみた。


「タビオ課長補佐と呼んでもらえるとありがたい」と前置きしてから、タビオさん……課長補佐は言った。


「そう。我々が暮らしているこの『世界』。太陽があり、地球がある。そういう『世界』が何千、何万……無数に、同時に、存在する。『界』と『界』同士が触れ合うことは通常はないのだが……」

「あー、並行宇宙とか、パラレルワールドとか、マルチバース? 自分の宇宙以外にも複数の宇宙が存在するとか、そーいう系?」


木下が言って、タビオ課長補佐は頷いた。


「使う単語は異なっても、指し示す内容は同じようなものだと思われる」


なるほどーとか頷いているヤツと、何のことだか分からないって顔をしているクラスメイトが半々くらい。


俺も詳しいことはよくわからないけど……、ニュアンスとしては、俺たちが住んでいる地球とは、別の地球に召喚されたってこと? 


まとめて言えば、ラノベでよくある異世界召喚……でいいのかな?

マジな空想科学小説的パラレルワールドな世界なのかもしれないけど。


ガチなファンタジー勢ではないので、俺にはそういうあたりはよく分からない。あー、同じクラスの緑川とかなら、そのあたり詳しいかな……。

だけど、緑川は召喚されてはいなかった。


ええと、とにかく、魔法で、俺たちは、こっちの地球に召喚された……とでも思っておこう。

詳しく説明されたら余計に混乱しそうだし。ざっくりとした理解できればいいや。


「『界』は数えきれないほど無数にある。人間が住んでいる『界』、いない『界』。様々だが。人類が発生しており、尚且つ我ら『第三界』の地球の人間と、なんらかの交流があるのが『第四界』『第五界』『第六界』の三つの界だ」


ここが『第三』で『第四界』『第五界』『第六界』……って、あれ?


タビオ課長補佐の話の途中だけど、俺は右手を上げて質問した。


「すみません。『第一』と『第二』ってないんですか? それと、俺たちのことは『第七界』の地球の君たちって呼びましたよね」


重々しく頷くタビオ課長補佐。


「『第一』と『第二』は既に超巨大生物……山羊型の魔物に、食われた後だ」

「へ?」


魔物?

山羊?

食われた?


「そのことを我々『第三界』に伝えてくれたのが、『第一界』の魔法使いアルティエロ・デ・バルベリーニだ。彼は今どうやら『第七界』にいるようで。それで、イズラがアルティエロを『第七界』から召喚しようとして……、どういうわけか、君らを呼び寄せてしまったのだ……」



次回は過去話。

アルティエロ視点でお送りします。

投稿は週末あたりを予定しております。

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