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『異世界転移しない女子中学生の私』が『界の賢者』⁉  作者: 藍銅 紅@『前向き令嬢と二度目の恋』2巻 発売中


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第3話 三年二組 村上美沙③


説明会の後、またしばらくの間、三年二組の生徒だけでなく、全校生徒、登校停止状態が続いた。


きっと授業どころじゃないんだろう。私たち三年二組の生徒たちだけじゃなく、先生たちも。


……というか、ぼーっとしている私なんかより、沖田先生や近藤先生たちのほうが大変そうだ。


教室の荷物だけは、警察官や近藤先生の立ち会いのもと、取らせてもらえたけど。

久しぶりに会った……近藤先生は、顔色も悪かった。目の下の真っ黒で。


「ごめんな。弁当が腐るまで、荷物のこととかまで気を回せなくて……」


近藤先生が、ボソッと言った。


……お弁当が腐って、臭いだして。それで、先生たちが、教室内の荷物を廊下に出したんだって。先生たちだって教室に入るのは勇気が必要だっただろうに。

沖田先生が、多分、十二時から十二時十分までの間じゃなければ、きっと安全性は高いだろうって判断したんだって。


腐って、臭わなければ。

教室の荷物はもっと先まで、ずっとそのままで。

私のスマホや教科書なんかも、受け取れないままだったんだろう。


ありがとう、みんなのお弁当。キミタチの犠牲は忘れない。


ああ、私、あの日、母のおにぎり、食べておいてよかったなあ……、なーんて。ゴメン。

先生たち、腐ったお弁当の中身を捨てて、お弁当箱とか洗うの大変だっただろうに。虫とか湧いていたら……うわあ……。


そ、それで、消えたクラスメイトたちの持ち物は、どうなったかというと、保護者たちに渡されたんだって。


その受け取りの時とかに、納得のいかない保護者たちが集まって、廊下から三年二組の教室を、二十四時間体制で見張らせろと、沖田先生たちに詰め寄った……らしい。


何かしらの仕掛けがあるはずだ。

生徒が消えるのも、黒板に文字が浮かぶのも、誰かが何かの仕掛けをしているはずだ。

なんらかの仕掛けがあるはずだから、暴いてやる。


学校側は、それを承諾した。


校長先生は難色を示したらしいけど、沖田先生は「現実的ではない、訳の分からない現象が起こっているんだから、隠しても意味はない。大人数の目で、実際に見て、検証してもらったほうが良い」と主張したらしい。


もちろん保護者だけが三年二組の教室の前に集まったわけじゃない。

近藤先生や沖田先生、警察官。それから……マスコミとかも。


テレビのニュース、新聞、ネット……。

公開しちゃうんだ。ずいぶんと英断だなあ……なんて、私はまだまだぼんやり思ったり。


でも、沖田先生は、許可を出す代わりに交換条件を突き付けたのよ。


一つめ。三年二組の教室の中には絶対に入らないこと。廊下から、教室内を見るに留めること。教室に入り、何かあったとしても、学校側は一切の責任を取らないこと。


二つめ。外部に情報発信をするときには、必ずその文面や写真、動画を学校に提出して許可を取ること。許可なく情報を公開し、それが他者に影響を及ぼすのであれば、学校側として法的処置をとること。


三つめ。三年二組の生徒たちはもちろん、ウチの学校の生徒たちや保護者たちに個人的に接触して、話を聞いたりインタビューを行うのは一切禁止。


沖田先生はちゃんと誓約書まで作った。

マスコミ関係だけでなく、保護者、全校生徒にまで、同じ誓約書を書かせた。すごい。


特に一つ目の、教室に入らない……に関しては、生徒が数名「俺たちも異世界に転移するんだ!」とか、浮かれて教室に入ろうとしたんだって。

その馬鹿な生徒たちは保護者が呼ばれてお説教されたとか。……先生たちも、そういうヤツラにも対応しないといけないんだから、大変だよね。


そんなこんなでいろいろあった後。


推定異世界転移者たちの保護者が……三日三晩、三年二組の教室を見張った。

相川君のお父さんや井上君のお母さんなんて、廊下にテントを持ち込んで、三日間ずーっと学校に泊まったって。

わあ……、すごい。


それで……本当に、何の仕掛けもないのに、昼の十二時くらいに「リンゴーン!」と鐘の音がなって、黒板に文字が浮かび上がった。


……ちなみに毎日違う文面だったって。

それから、制止を無視して教室内に入ったとある保護者が、浮かび上がった文字を、黒板消しで擦っても……消えなかったって。

でも、次の日には、元々書かれていた文字はスーッと消えて、次の文章が現れる。


ホント、魔法みたいだけど。

でも、書かれている内容は……できの悪いライトノベルみたいな文章。


まず、この世界には、『界』とかいう概念があって、『界』ごとに一つずつ、地球がある。


……ええと、空想科学小説でおなじみのパラレルワールドみたいな考え方……なのかな?


で、たくさんの『界』があるうち、人間が生息している『界』には『第一』とか『第二』とかの番号が付けられているって。人間がいない『界』には番号はつけていないって。


『第一界』の地球は滅んだ。

『第二界』の地球も滅んだ。


何で滅んだのかというと……。


『界』を渡って、地球を食べるイキモノというか、魔物みたいなのがいるらしい。

地球を丸のみしてしまうのだから、ずいぶんと大きいイキモノ? 魔物? なのね。


『人間がいない界』の地球を食べるなら、別に問題はない。

問題は『人間のいる界』の地球を食べてしまうこと。


つまり、『第一界』の地球も『第二界』の地球も、そのイキモノ? 魔物? に、人類ごと食われて滅んだ。


ええと……、『界渡りの地球食べの魔物』という名称がついているらしいけど、長いな。

『魔物』でいいかな?

いいよね?

その『魔物』が次に食べようと狙っているのが『第三界』の地球らしい。


『第三界』の地球の人々……特にアイオアディ王国の上級魔法使いであるイズラ・ド・アイオアディという魔法使いとか、魔法省のタビオ・ロッシ・クローチェ局長補佐とかいう人たちが、『界渡りの地球食べの魔物』を滅ぼそうと、手を尽くしているらしい。


それで、よく分からないんだけど、そのイズラっていう名の魔法使いは、元々は滅んだ『第一界』の地球にいたアルティエロ・デ・バルベリーニという魔法使いを呼び寄せたかったらしいのよね……。


なんでも、『第一界』の地球が滅ぶとき、アルティエロ・デ・バルベリーニは、いつかどこかで『魔物』を倒すべく、別の『界』に移ったとか何とか。


で……、そのアルティエロ・デ・バルベリーニを引き寄せるつもりが、どういうわけか、間違えたのか、私たち聖稜中学校三年二組の生徒たちを呼び寄せてしまったらしい……。


ちなみに私たちがいるこの日本は『第七界』と呼ばれているらしい……。


何なんだそれ……。

『第一界』に『第三界』ときて、『第七界』って……。引き寄せるにしても『界』が違うんじゃないの……? みんなは、もしかして、手違いで異世界転移させられたの……?


保護者の皆様は、何なんだ! って、叫んだって。


そりゃあ、そうよねえ……。


でも、消えた十八人は帰ってこない。


それどころか……、『魔物』に対抗するために、魔法とかを、『第三界』の地球で学んでいるらしい。


うーん、なんだかなあ……。


そんな出来の悪いライトノベルみたいな文章が、三年二組の黒板に、毎日毎日、浮かんでは消える……。


なんだかなあ……。


緑川君とかは「マジで異世界転移! チート! 勇者! あああああ! 僕も行きたい! 魔法使いたいいいいいいい!」とか何とか、大コーフンしているけど。


私的には、どうもね……。

イマイチ乗り切れないというか……。

異世界が滅びるのなんてどうでもいいとまでは言わないけど。

他の世界を魔物から守るより、帰っておいでよって思う。お父さんやお母さんが心配しているんだからさあ……。


うーん……。緑川君みたいに、消えた十八人を羨ましいとは思えないなあ。


広崎さんもわたしの意見に近いみたい。


「……異世界なんかに行かずに済むなら、それに越したことはない」って言っている。


そうして。

時間が経過すれば。


人々の興味は当然移る。


テレビのニュースにウチの中学校が登場することはなくなった。

消えた十八人の保護者の皆様も、もちろんいなくなった自分の子どもは心配だろうけど、元の生活や仕事に戻ろうと努力をしているみたい。


私たちもそうだ。


消えた十八人の安否よりも、私の目下の悩みは五日後から始まる中間テスト……! だって、このところまともに勉強なんてしていないんだもの! 中学校三年生、受験学年なのに!


あー……。クラスメイトの安否よりも、高校入試をどうしよう……って。


私、薄情かな? 

でも、私たちにはどうすることもできないし。


考えても、どうしようもない。

それに……、真面目に考えだすと……、怖い。


もしかしたら。四時間目の授業の終わりを知らせる「キーンコーンカーンコーン」っていう、間の抜けたチャイム音がなければ。……私だって、今ごろ、異世界に、強制的に転移させられて、『魔物』と戦わされる羽目になっていたかもしれない。


それを思うと……、背筋がぞくっとする。


それ以上、考えたくない。

だから、思考を停止して、元の、ごく普通の、学校生活を送るように努める。


朝、母の作るご飯を食べて。兄と軽口を言い合って。

学校へ向かって、緑川君や広崎さん、クラスのみんなと話をする。

もちろんいなくなったクラスメイトのことではなく、ごくフツーのテレビの話とかアイドルの話とか……、進路とか。

学校から帰って、手洗いうがいして、宿題と予習をして。高校から帰ってきた兄が見るアニメなんかを眺めたり。

母の作る夕飯の手伝いをしたり、比較的定時上がりの父の帰宅に合わせて風呂掃除をして、お湯を入れて。

ジャストタイミングで帰宅した父にお風呂を勧め、風呂上がりの父にビールを渡して。

母、父、兄、私の四人で夕ご飯にする。


日常を、繰り返す。


繰り返していれば、桜がすっかり葉桜になって。

太陽の日差しが「うららか」というより「眩しい」と感じられるようになって。

その頃には……すっかり忘れたとまでは言わないけど。

消えたクラスメイトのことを思いだす時間は……ずいぶんと、減った。


夏休みに入って、補習に呼ばれて。十五日間、強制的に学校で勉強させられて……。

夏休みも終わって、受験する高校の資料なんかも取り寄せて……。



そうして、秋の半ば、クラスメイトが消えたなんていう、ありえない事象も、ほとんど考えることがなくなった頃。


日々更新されている元三年二組の黒板に「計算した日数によると『第三界』の地球が食われる日も……近いのかもしれない」という文字が現れた。


『第三界』が魔物とやらに食べられたら。

……消えた十八人のクラスメイトはどうなるの?


ぞっとしたのは、秋風が冷たく感じられたせいでは……きっと、ない。





次回、異世界転移組、相川君視点になります。


2~3日、お待ちください。

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