第26話 第三界 相川裕也⑧
「木下、まじ、すげぇ……」
呆然としつつもブイサインの木下を見て。
「ふははははは! 我こそが勇者なり!」
なんて、木下は高笑いしているけど。
マジすごい。
巨大化魔法。本人の希望通りに、巨大ロボットアニメとか、三分間だけ地球で戦える巨大ヒーローにはならなかったけど。
上着をでっかくして、魔物を倒すとは……。
木下一人で倒したわけじゃないけどさ。
計画がズレた時に咄嗟に動いて、敵を倒すなんて。マジすげえ……。
「……なあ、木下。最初から、これ狙っていたのか?」
「うんにゃ。ホントは自分がでっかくなって、山羊モドキを倒すってのを考えていたんだけど。自分の身体を巨大化するってどうもなー、怖いっつーか、失敗したら、死ぬかもって思って」
「うん」
「物体なら巨大化できたんだよ」
「いつ」
「相川が他の『界』に行っている間」
「マジかー」
知らなかった。
当然だけど。
「ま、奥の手? そういうのがあるもんだろ?」
「アニメかヒーロー番組かよ!」
「あははははははー」
木下は笑うけど。
「お前が勇者だなあ……」
「スーパーヒーローと言ってくれ!」
ブレないな!
まあいいか。
とにかく山羊モドキは燃え尽きたようだし、俺たちも『第三界』に戻ることにした。
戻ってすぐ、ジルベルト師匠は「ヴィオが心配だから、すぐ帰る」って言って、アルティエロさんにだけ「じゃあ、また」と言って、俺に手を振ってきた。
俺は慌てて、頭を下げた。
「ジルベルト師匠! ありがとうございました!」
頭を上げた時はもう既にジルベルト師匠の姿はなくて。
イズラさんに抱き着かれているアルティエロさんが見えた。
「アルティエロ様、アルティエロ様、アルティエロ様っ!」
抱き着いて、わんわん泣いて。
「……もう大丈夫だよ、イズラ。山羊モドキは倒したし。『第三界』は食われないよ」
アルティエロさんが、優しくイズラさんの髪を撫でている。その横ではランカさんが仕方がないなーって顔をしている。
あーあ。
分かっていたけど失恋か。
俺は、何にもできなかったなあ。
木下みたいに、最後にいきなり活躍して、山羊モドキを倒した最大の功労者とかにもなれなかったし。
その木下は、クラスの連中に囲まれて、コーフンして口から唾を飛ばしながら、山羊モドキを倒したまでの話をしていて。
上野さんとかが拍手したり、佐倉さんが必死になってメモを取ったり。
俺は、全然活躍していない。
やっぱり俺は勇者でもヒーローでもなかったなって、再確認させられただけ。
……このまま、連れてこられて、いろいろ見てそれだけで帰るのは癪だなってちょっとだけ思う。一つくらい何か。せめて、イズラさんの心の片隅にでも、俺がちょっとだけ、残るように。なーんて、未練がましいけど。
「イズラさん! アルティエロさん!」
いきなりに、呼びかける。
すると、イズラさんはパッとアルティエロさんから離れて、顔を少し赤らめて。ランカさんが差し出したハンカチを取って、目元に当てて。
「あ……、相川さんも、ありがとうございました」
イズラさんが俺に言った。
「俺は、何もしていないです。アルティエロさんみたいにたくさんの『界』を渡ったわけじゃないし、木下みたいに最終的に山羊モドキを倒したヒーロー的な活躍をしたわけでもない」
何も、できなかった。
何も、しなかった。
イズラさんは首を横に振った。
「そんなことないです。あたくしが相川さんや皆さんを勝手に『第三界』に連れてきてしまったのに……、あたくしを責めることなく、魔法を覚えると、最初に言って下さったのが相川さんです」
あー……、そうだったっけ。
「その言葉があったから、皆さん、前向きに……といいますか、楽しむようにしてあたくしたちの手助けをしてくださったと思っています。普通なら、元の世界に帰してくれですとか、責められても当然なのに」
「ええと……、それは、俺が、じゃなくて、上野さんたち女子がイケメンアルティエロ様にお会いしたいとか盛り上がったからで」
「いいえ。それは、もう少し後のことでした。最初は……あたくしが皆さんに謝った時には、相川さんの魔法を習いたいって言葉で、皆さん全員が相川さんの言葉に頷いたんです」
「そーだったっけ?」
覚えてないなあ……。
「それで、皆さんが鐘を直してくださったりして……、結果的にアルティエロ様に再会できたことに繋がっているんだと思います」
晴れやかな笑顔で、微笑まれて。ああ、胸が痛いなー。
「山羊モドキを倒したので『界』渡りの魔法使いも、手がすきますので。鐘が直らなくても、皆さんを元の『第七界』に戻すことは可能です。その前に、あたくし、相川さんや皆さんにお礼をしたくて……」
「お礼……」
俺は、木下たち、コーフン状態のクラスメイトを見る。
「おーい、みんなー! イズラ王女様がお礼って言ってるけどー」
大声を出しながら、考える。
きっと全員お礼なんて欲しくないだろう。
いきなり転移させられたんだけど、この『第三界』で過ごしたこと、それ自体が楽しかったっていうんじゃないかな?
そう思っていたら、案の定。
「巨大化は正義! そんな夢みたいな魔法を使えてヒーローになって、夢が叶った! これ以上は何にも要らないっ!」と木下。
「そうそう! 楽しかったもんねー」と上野さん筆頭の女子たち。
「ふっふっふ。この体験をラノベにして投稿するのよー」と佐倉さん。
男子たちも「あー、別にー」だし。
やっぱりなと思いつつ、俺はみんなに尋ねる。
「じゃあさあ、俺が代表して、イズラ王女とアルティエルさんからもらいたいもの、あるんだけど、それ、言ってもいいかな?」
聞いたら、みんな「へ?」って顔になって。
「何よ、相川君ってば、強欲ー!」って上野さんに叱られた。
「違うって! きっと、みんなも欲しがるもんだって!」
多分、絶対、欲しがると思うんだけど。
「何よー! 物欲なんてないわよー」
「金貨とかもらっても、困るだけっしょ! 入手先、言えなくて犯罪者扱いはごめんだー」
女子も男子もわあわあ言う。あー、うるせー。
「違うって、モノじゃないって!」
俺はクラスメイトにちょっと待ってろと手で制して。
イズラさんの方を向く。
「あのさ。俺はさ。俺たち十八人の中で一番最初にイズラさんに召喚されたんだよね」
「ええ、はい」
「そのとき、イズラさんを見て、すんげえ美少女だーってちっと思って」
「え、えええええ⁉」
「俺たちの世界によくある異世界転生モノのマンガとかアニメとかみたいに。……俺が、美少女を救う勇者なのかなって、うっかり思って」
言ったら、クラスの女子たちが「相川、夢見てんじゃないわよー」って突っ込まれた。
ツッコミには「うるせー! 分かってるよ! 勇者っていうんなら、世界のために一番がんばったのはアルティエロさんだろうし、魔物討伐に導いたのは村上さんだし、最終的に美味しいトコロ持って行ったのは木下だし! 俺なんて、から回ってただけだよ!」って怒鳴り返した。
分かってる。
分かっているけど、言う。
息を吸って、吐いて。
「俺が最初から、イズラさんを責めないでいたのは……、俺が、姫様を守る勇者の役目なのかとちょっと期待して」
「相川さん……」
イズラさんがじっと俺を見る。
やっぱかわいいなあ、美少女だなあ。チョクショウ!
「好意よりも、もうちょっと強い気持ちっていうか、好きです付き合って下さいって思う前に、アルティエロさんに負けたーって最初から分かっていたから、だから言いますっ! イズラさん! アルティエロさんとしあわせになって! せっかく二人とも、世界の命運を背負ってすんげえがんばってきたんだから!」
一息に、言った。
肩で息をするくらい、でっかい声で。
木下や上野さんたちだけじゃなく、遠くのほうでアレコレ報告している魔法使いの皆さんが俺の方を振り向いちまうくらいにでっかい声で。
「あ、え、ええと、あの、相川さ……」
「相川……君、それはええと……」
イズラさんとアルティエロさんが、おろおろと、きょときょとと、挙動不審になりながらも、お互いを見つめあったと思ったら、パッと目を逸らして。
顔を、赤らめて、お互いに、ちらちら見たりした。
……やっぱり両想いじゃねえのかよ、ちくしょーっ!
叫ぶ代わりに、言う。
「結婚式に呼んでとかは言わないけどさっ! 、絶対にっ! しあわせな人生を送ってよね! それが、俺たちに対するお礼ってことで‼」
怒鳴りまくったら、上野さんたち女子たちが「よく言った相川っ!」と盛大な拍手をしてきた。
男子たちもだ。
「イズラさん、泣かすなよー」
「しあわせになれよー」
ワイワイと。
……ホントこいつらノリいいよな! なーんて。
俺は、自分から失恋したんだっつーのに。
ちょっとだけ、目のふちに水が溜まりそうになったから、顔を上げて、空を見上げる。きれいな秋晴れ。高い空。太陽がまぶしくて、目に沁みる。
春に、桜の時期に、ここに来た。
もう今は、こっちは寒くて。
まだコートは要らないけど、制服の上着だけじゃ、首が冷える。
上着をなくした木下なんかは、今はコーフン状態だろうけど、落ち着いてきたら寒さも感じるだろう。
少しだけ、鼻を啜って。
それから。
「お前ら! 元の世界に帰るぞっ!」
空に向かってだけど、明るい声を無理やり出した。
「おーっ!」
「帰ろう帰ろう!」
「鐘は直っているよー。多分帰れるよー」
クラスのみんなが声耐えてくれて。俺は、みんなのほうを向いた。
「あ、ありがとう、相川さん! ありがとう、皆さん!」
「ありがとう! 美沙ちゃんや玲央にもよろしく伝えて!」
イズラさんの声とアルティ絵の声に、右手を上げて答えて。
そうして。
俺たちは召喚された『第三界』から元の世界に戻っていったんだ……。




