第25話 第三界 相川裕也⑦
手紙を近藤先生に渡した後、俺はジルベルト師匠と一緒に『第六界』に向かった。
アルティエロさんのお姉さんでジルベルト師匠の奥様であるヴィオさんにご挨拶。
ヴィオさんとジルベルト師匠はちょこっと話し合いをして、それで……ジルベルト師匠も一緒に『第三界』に行くことになった。
「アタシは『第六界』で待っているわ」
「うん、行ってくる。で……アレが滅んだところをこの目で見てくるよ」
ジルベルト師匠はお子さんと奥さんに別れを告げて、俺と一緒に『第三界』に入った。
『第三界』では既にアルティエロさんやタビオ課長補佐たちがチームを組んで、山羊モドキを太陽に転移させる準備に入っていた。
俺たち三年二組のみんなは『第七界』から『第三界』に一方通行にして仮修復した鐘を、双方向に行き来できるようにして、きちんと修理しようって、がんばっている。
山羊モドキを倒した後、俺たちが元の世界に帰れるように。
帰って、終わりじゃなくて、その後も行き来ができるように。
……行き来するには『界』渡りの能力が必要だとは思うけどさ。
それはともかく。
ジルベルト師匠も俺も『界』渡りができるから。
魔法使いたちのチームに入れてもらった。
できることを、して、帰る。
ただ、それだけ。
……木下だけは「巨大化ーっ!」とか叫んでいたけど。まあ、無理は無理だよな。諦めも肝心。
そう、諦めも肝心。
……イズラ王女様は、アルティエロさんが帰って来てから、もうなんていうのか、顔つきが変わった。
泣きそうになりながらも、それでも何とか大勢を生き延びさせなきゃって感じに、悲壮感背負っていたのに。
全然違う。
安心して、山羊モドキを倒せるって希望に向かって前進している。
あーあ、やっぱり俺は王女様を救う勇者じゃなかったなーって。
イズラ王女様の明るい笑顔を見るたびに思う。
アルティエロさんが勇者なんだよなーきっと。
あーあ。
諦めが肝心だよなあ、なあ、木下。俺も、お前も。
でも、木下は巨大化魔法を諦めてはいなかった。
ぶつぶつ言いながら、毎日魔力循環の練習とかして。
「絶対に巨大化させるぜー」って燃えていた。
……すごいな、木下。ある意味尊敬。
心を整理しつつ、魔法使いたちと連携取って、更にアルティエロさんの魔法で、俺らの魔法も強化・増強してもらった。
そうして、遂に決行日。
内訳はオレにアルティエロさんにジルベルト師匠、『第三界』の『界』渡りの魔法使い全員に、他の『界』の転移魔法使いとか、アルティエロさんみたいに魔力の増加とか、サポートに調整、宇宙空間でも動けるように結界使いとかいろいろ合わせて総勢80人。
何故だか木下もついてくることに。
「お前が来たってやることないだろ?」
「うんにゃ。山羊モドキの終焉を、オレだってこの目で見たいしー」
見学……、物見遊山?
巨大ロボット信仰の木下であるからして、宇宙空間に浮いてみたいだけだったりして。
まあ、だけど、やることが何もないまま、『第三界』に連れてこられて、何もしないで元の世界に帰るのもなあ……。女子どもに使われて、鐘の修復チームにもイマサラ入れないし。
半分同情的な感じで。ジルベルト師匠に頼み込んで、木下も一緒に連れていくことにした。
「まあ、一人くらいならボクがつれていけるけど……」って、ジルベルト師匠が承諾してくれてよかった……。
予定時間になって、「じゃあ、行こうか」ってアルティエロさんの言葉と同時に、全員が『第三界』からふっと消える。
出た場所では、山羊モドキがグースカと寝ていた。
「こ、これが……」
宇宙空間。太陽系。金星と火星の間。本来なら地球があったであろう場所に。
巨大な山羊モドキがグースカ寝て……、しばらくすると、ごろんと寝返りを打った。
これまでの魔法使いたちの観察によると、山羊モドキは地球を二個か三個、食った後、深い眠りに落ちる。じーっと動かないで寝続けて……、寝返りを打つと、ゆっくり起きて、あくびとかして、それから別の『界』へと渡るらしい。
今、寝返りを打ったのであれば……『界』渡りまではあと少し。
「全員、所定の配置について!」
アルティエルさんが言う。
山羊モドキを中心に、東西南北上下という感じに、六ケ所に別れて、俺たち魔法使いが待機。
時を待つ。
どれくらい、待ったのか。
山羊モドキが寝返りを打ってから、そう長いこともないと思うけど……。山羊モドキは、ゆっくりとあくびをして「メエエエエエエエ」とか大きく叫んで。
宇宙空間、何もないところだけど、足で土の地面を掻く様に、二三度カツカツと動かして。
そして……山羊モドキの周囲の空間が歪むように見えた。
「今だ! 全員、魔力最大っ!」
山羊モドキの『界』渡りを遮るのではなく、それを曲げる。
村上さんの発案を、アルティエロさんが伝えて、それから、魔法使いたち全員で、計算に計算を重ねた。
その計算通りに、俺たちは、魔力を放出して、山羊モドキの『界』渡り……転移を、歪ませる。
今いる『界』から、山羊モドキの姿が消える。
成功したのかどうなのか。
「隣の『界』に行くぞっ!」
次々と、魔法使いたちの姿が消える。『界』を渡って隣の界に行く。
俺も木下を連れて、ジルベルト師匠と呼吸を合わせて、隣の『界』へと渡る。
すると……。
確かに、半分は、成功していた。
地球は無事。
太陽の近くに、山羊モドキは転移していて……、尻尾とか尻のあたりは太陽の熱によって焼けていた。
でも、それだけ。
背中の羽根を羽ばたかせて、太陽から逃げようとしていた。
マズい。
火傷を負わせただけで終わりかよ?
この『界』の地球も食われる?
もう一回、次の『界』に山羊モドキが転移するときに、今と同じように、転移の先を太陽にする?
それにはここにいる魔法使いたちの協調が必要だし……、咄嗟には無理だろう……。
呆然と、どうしようって思っていたら。
「ふははははははは! 巨大化は正義っ! アルティエロさん! 増幅の魔法使いたちっ! 我に力をっ!」
「へ? 木下ぁ?」
木下は着ていた制服の上着を勢いよく脱いだ。
そして、それを宇宙空間に飛ばす。
「皆の者、聞け! この上着を今から木下様が巨大化するっ! その巨大化した布で、山羊モドキを包めっ! 人間の巨大化は無理でも物体ならできるようになったんだぜえええええええええええ!」
木下の上着が、超巨大化する。
……山羊モドキを包めるくらいに巨大に。
「ふはははははは! 魔法は想像力っ! 巨大化は正義っ! 行けっ! 我が上着よっ!」
マジか……と思ったけど、木下の目は血走ってるし。
アルティエルさんは「分かったっ! 木下君の魔法を増幅するっ! 操作系の力も持っている魔法使いだちっ! 巨大化した上着で山羊モドキを包んで、太陽方向に押していけ!」とか、号令出すし。
呆気に取られているうちに。
山羊モドキは木下の上着に包まれて。
上着ごと、太陽に向かって押し込まれて。
「メエエエエエエエエエエエエエ……ェェェェェ……」
断末魔の叫び声が小さくなって……、そして、その声も消えた……。
ちょっと茫然。
マジか、これ。
「ふはっ! ふはっ! ふっははははははは! 正義は我にあり!」
なんて、木下が大笑いして。ブイサインなんか作って、右腕を高々と上げて。
うそだろー……とか、思ったけど。
えーと。
とにかく。
山羊モドキは、冗談のように、消滅した……。
俺だけじゃなく、他の魔法使いたちも割とマジかーみたいに呆気に取られていたけど。
しばらくそのままでいても、太陽から山羊モドキが飛び出てくることはなかったし、他の『界』に転移して、山羊が逃げたのでもなかったようだ。
一応、隣とか、その隣とか、いくつかの『界』に渡って、本当に山羊モドキが『界』渡りで逃げたのではないことを調べたけど。
調べた限りでは、どこにも山羊モドキの姿はなくて。
やっぱり、あのまま太陽の熱によって、燃やされたということで……。
「木下……、すげー……」
とにかく『界』に平和が戻ったんだ……。




