第24話 三年二組 村上美沙⑦
「……ちょっと近藤先生。『エグい賢者』ってどういうことですかあああああああ」
「待て、待て待て待て! 怒るな村上!」
そりゃあ、近藤先生は悪くない。単に、相川君から伝言を頼まれただけ。「『第三界』の魔法使いたちと俺たち十八人に、エグい賢者って呼ばれてますよって伝えてください」って……。でも、だが、しかしっ!
「わ、私は! アニメとかラノベとかで巨大な敵を倒すってパターンを述べただけーっ! わたしの発案じゃないよわーっ!」
叫んだら、沖田先生からは「落ち着け、村上」って言われて、兄からは笑われた。
「そりゃあ、アルさんのせいだろ? 多分、一般人の中学生の発案じゃ、まともに検討してもらえないだろうから、『賢者』からの発案ですとか何とか、言ったに違いない」
「アルさんんんんんんんんんんんっ! 犯人はキサマかああああああああっ!」
がっでむ!
ちょっとイケメンだからって許されるなよ⁉
「まあ、いいじゃんか」
「よくないっ!」
ふんがーって怒鳴ったら、広崎さんがぼそりという。
「エグいって発言は、アルティエロさんぽくないような気もしますけど……」
独り言みたいな言葉に、緑川君がうんうんと頷いた。
「エグいーって単語は相川とか木下とかが使いそうだよな。で、混ざっちゃったんじゃね?」
「混ざるってなにが?」
「村上さんが『賢者』ってアルさんが言ったとするだろ? で、ぽんぽんと山羊モドキを倒すネタをいくつもいくつも出したことに対して『エグい』って言われて、で。『賢者』と『エグい』が混ざった結果、『第三界』で村上美沙の名が『エグい賢者』となった」
「ちょーーーーーーーっと! 緑川君! れーせーに分析しないでっ!」
「でもありそうな話だろ?」
ニシシシと笑う緑川君。
「ありそー」と膝を叩く兄。
ふんがーっ!
「……今ここで、ああだこうだ文句言ったって、アルさんも相川君もいないし、ああああ……もうっ! この話は終わりっ! で? 一か月後? 山羊モドキ太陽転移作戦が始動なのね?」
「ああ、相川の言葉とこの手紙からするとそうらしい」
ふー……。とすると、約一か月後、とかじゃなくて、きちんとした決行日時、知りたいところだよね。
「……この黒板に書いて聞いてみたら、『第三界』の誰かに届くかな?」
「うん? 妹よ。日時を知ったところで、こっちからできることはないと思うが?」
「できるできないじゃなくて、気持ちの問題よ」
「へ?」
兄も先生たちも、首をかしげるけど。
「山羊モドキを転移させる日時。分かれば。その時間に合わせて、こんも教室に来て、どうか成功しますようにって祈るくらいできるじゃない」
「あー……祈る……」
「それから山羊モドキを提要に転移させて消滅させたら、十八人、こっちに帰って来るでしょ? 親御さんにいついつ帰還予定って告げたら喜ぶんじゃない?」
「……いついつに、自分の子が帰って来るって聞かされて、でも、もし帰ってくなかったら……」
そっちの方がつらいかな?
でも、何も知らされないまま、いきなり帰って来るほうが良いのかな?
どっちがいいかなんて、わからないけど。
「私たちが知っている情報、ここで握りつぶすのもどうかと思う。親御さんたちは、今、この瞬間だって、心配で心が潰れそうなのかもしれないし」
少なくとも、相川君と近藤先生は出会ったんだ。
だったら、相川君のご家族は、相川君が無事で、でも自分の意志でもう一回『第三界』に向かったってコト、知りたいと思う。
沖田先生が「……保護者を集めて、説明会するしかないか」って言った。
私たちは参加しなかったけど、十八人の保護者を集めて、現状までのことを沖田先生と近藤先生で話をしたそうだ。
相川君の手紙も、十八人の保護者に見せた。
相川君のお母さんは「……うちの子の字だわ」って、泣いたって。
アルさんが『第三界』に帰った時、三年二組の教室で、アルさんの姿が消えたのを保護者の皆さんも見えているから、相川君の手紙の内容も、半信半疑というよりは、ちょこっと信じる方向に思えるみたいだけど。
普通なら、手紙も捏造妥当とか疑われても仕方かないんだけど。
保護者の皆さんは、一応信じてくれたみたいだったって。
「信じる信じないはお任せします。というよりも、自分たちだって、こんな嘘のような、あの目のような話は信じられない。だけど、帰って来るという希望を持って、今後のことを考えなければならないのだと思います」
「今後……?」
そう、今後。
仮に、年内中に十八人が帰還したとして。
一月、二月、三月と、わずかに約二か月半くらいの期間で、高校入試に間に合うかということだった。
「保護者の皆さん。各校によって数日の差はありますが、私立高校の出願は一月下旬、試験は二月中旬になります。公立高校の出願は二月十日、試験は二月十五日。中学三年生の勉強をほとんど受けていない生徒たちの進路をどうするか」
現実の入試の話をされて、保護者たちは慌てた。
だって、これまでは、消えた十八人が生きているか死んだかもあやふやで、早く帰ってきてほしいってだけを考えていたのに。
いきなり、帰ってこられるようなので、進路をどうしますかって言われても。まあ、無理、よね。
「長期欠席による留年。もう一度三年生をやり直すのも可能です。二年生の成績を元に高校への出願もできなくもない。ただし、実際の入学試験を受けなければ、合格も不合格もないですし、合格するには合格点を取らないといけない。仮に年内中に生徒十八人が全員無事に帰って来るとして、一月二月は鬼のように勉強しても、入試問題を解くのはかなり厳しい」
それは……そうだよね。
三年二組、残された私たちだって、授業の遅れが酷くて、真っ当に試験を受けて、どこの高校に合格できるんだろうって、危惧しているくらいなんだし。
『第三界』の十八人は……、留年してもう一回中学校三年生をやり直したほうが良いんじゃないの……?
「偏差値の高くない私立にとりあえず入学して、学校の成績はともかく予備校に三年間通って、大学入試で間に合わせる……という方法もありますし。とりあえず、中学だけは卒業して、通信制の学校にするとか、高校には行かずに大検を受けるという道も無きにしも非ずですが」
ううん。それもどうかなー……って、それぞれの、ご家庭の方針もあるだろうし。
「今は、本人たちがいない場ですので、進路云々は考えられないと思いますが。帰って来てからその後の進路選択に、時間の猶予はないと思っておいてほしいです」
厳しい現実。
異世界に行きました。帰ってきました。よかったね……で、現実はすまない。
生きている以上、未来に進むしかない。
そんな他人事みたいに言っているけど……私だって、高校、どうなるかって……。自分のこともまだ分からない。
高校を私立にするか、公立にするか。
選んで、試験を受けて、合格できるのか、どうか。
こんなことで悩んでいる私が……『賢者』なんて、ホント馬鹿々々しいんだけど……。
でも、進路かあ……。ホントだったら中学生の重大事項。悩むよねえええええ。
……なーんて、うだうだ言いつつも、時間が過ぎて。
黒板には山羊モドキを提要に転移させる大作戦の決行日が記された。




