第21話 第七界 アルティエロ⑨
……美沙ちゃんに背中を押されて。
「行ってらっしゃい」って言われて。
オレは……ありがとうって言おうとして……、ふっと目の前の景色が変わって……。
見えたのは、金色と銀色が混じった光。
目を細めてしまうほどに眩しいのに、目を閉じたくない。
光に、手を伸ばす。
そうしたら。
「アルティエロ様!」
声が、した。
記憶にある幼い声とは少し違う。
姿も、記憶通りじゃない。サラサラで銀色の髪は、腰よりももっと長くなっていたし。背も伸びている。今は……オレの肩よりちょっと低いくらいかな? でも……金色の大きな瞳は変わっていなくて。
「アルティエロ様! アルティエロ様! アルティエロ様!」
すんごい何回も名前を連呼されて。ぎゅうぎゅうに抱きつかれて。
オレは、その柔らかい体をそっと受け止める。
「イズラ……。ただいま」
ただいまって言ったら、イズラの金色の瞳からは、ぶわっと涙があふれて出た。
「お、おか、おかえり……なさ……」
さいごの「い」まで言えなくて、大声を上げて、イズラが泣いて。
うわあ……どうしようって思ったら。
「きゃーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
「感動の再会よおおおおおおおお!」
「姫様よかったねえええええええ!」
「アルティエロ様マジイケメン!」
「上野議長、我々はやり遂げましたぞ!」
「うっはーっ! 現実には居ないラノベ系美形男子! 赤い髪が素敵ですねー」
あ、あ、あっと、えっと?
泣いているイズラを抱きしめるオレの周りが……、いつの間にか、美沙ちゃんと同じくらいの年の女の子たちに……囲まれていた。
ええええええっと?
きょときょとしていたら、やっぱり美沙ちゃんと同世代の男の子たちが、ちょと離れたところから、ヤサグレた感じで。
「けっ! マジイケメンだぜ」
「そりゃあ、姫様が待ちに待ったイケメンだぜ? ブ男では絵にならん」
「あー、あー、あー。どーせオレたちはモブですわー」
「異世界転移した勇者には、おれらなれかったかクソが!」
ぶつくさ言っていて。
ええと……。
助けを求めてオレはきょろきょろ。
あ……、ランカさん発見。
でも、ランカさんは無言で、仕方がなさそうに「ふ……」って笑っただけで、我関せずモード。
助けて下さいよーなんて言えないけど。えっと。
「と、とりあえず、皆さんは、村上美沙ちゃんのお友達っていうか、三年二組の人?」
聞いたら、女生徒が一人、前に進み出てきた。
「はい♡ 三年二組十八人を代表しまして『イケメンアルティエロ様をお迎えする会』議長、上野でっす! アルティエロ様がマジイケメンで、私たちがんばった甲斐があったわー♡」
「あ、ありがとうございます……?」
何だそれ『イケメンアルティエロ様をお迎えする会』って……。ツッコミを入れようと思ったけど……。やめた。それよりも。
「ええと、皆さんの保護者の方にお会いしました。皆さんは必ずあちら……『第七界』にお返しします」
「あら、アルティエロ様、性格までイケメンねえ……」
上野さんって人が呟いたら、女子全員が「完全同意!」とか声をそろえて。
えええええええっと!
「でも、すぐには無理でしょう? 鐘だって、実は修復途中で」
「へ?」
「今『第七界』から『第三界』へと一方通行設定にして、仮修復なんです」
「マジですか」
「はい、マジです」
うわ……。あっちで保護者の皆さんとか美沙ちゃんたちに魔力増幅してもらってよかったのかも……。危ない橋、実は渡っていた……?
「美沙ちゃん、マジ賢者……だった……」
心の中で、美沙ちゃんに感謝。増幅足りなかったら、途中で鐘がぶっ壊れて、オレ、『界』の迷子になった可能性もあったかも……? セ、セーフってことで。胸を撫でおろして。
「へ? 村上さんが賢者?」
上野さんがオレの呟きを拾って、首をかしげる。
「あー、うん。マジ賢者並みにアイデア豊富で。多分、美沙ちゃんのアイデアのうち、いくつかが実行できれば……山羊モドキの魔物、倒せるかもしれなくて」
泣いていたイズラも、我関せず顔だったランカさんも。
ばっと顔を上げて。
「アルティエロ様っ! 山羊モドキ、倒せるの⁉」
「……できるかどうか分からないけど、倒す方法、いろいろ授けてもらった」
イズラは袖で涙をグイって拭って。あ、今まで泣いていた女の子の顔じゃなくて……、民を守る王女様の顔だ。
「聞かせてっていうか、タビオ師匠交えて話したほうが良いわね! 今、呼ぶわっ!」
通信魔法で伝達して。
そうしたら、数分待つこともなく、タビオ氏がやってきた。他の魔法使いたちも、大勢引き連れて。
「アルティエロ!」
「あー、お久しぶりです、お待たせしました。アルティエロ、戻りました」
「お帰りっつーか、山羊モドキ、倒せるって⁉」
「ええと『第七界』の賢者、村上美沙さんに、いくつもの方法論を授けてもらいました。『第三界』の魔法使いで、実行可能か要検討ですが」
「魔法のない『第七界』で方法って……」
「説明します。場所、どこか用意してもらえますか?」
バタバタと動き出すタビオ氏たち。
「あのー。私たち、鐘の修復と設定変更、引き続きやりますけど。説明会も参加希望でっす!」
上野さんが手を上げた。
「ああ、もちろん。美沙ちゃんのアイデアって『第七界』のもので、こっちの世界にはない知識だから、皆さんに補足説明してもらえると助かります」
頭を下げる。ありがたいなあ……って思ったら、女子メンバーの皆様にいつの間にか、周囲を取り囲まれた。
「あの、アルティエロ様。美沙ちゃんて、ウチのクラスのクラスの村上さんですよね」
「うん」
「ラブなんですか? アルティエロ様、姫様とラブじゃなかったんですか?」
「へ⁉」
ら、ラブ……?
予想外のことを言われて、何を答えていいのか分からなくて。
そうしたら。
「お前ら、いくら相手がイケメンで浮かれているからって、いきなりそりゃナシだろ?」
男の子が一人、前に進み出た。
「うっさいわ、相川。これは重要事項なのよ?」
「ラブだか何だか、女子たちの浮ついた思考は嫌いじゃねえよ? だけど、相手のこと考えようぜ? アルティエロ様とやらは、今『界』を渡って、こっちに帰って来てイズラさんと再会したと思ったら、魔物倒しの説明会勃発で、大変だっつーのに、お前らの趣味のために集団で迫るな」
あー、相川君とか言うこの男の子、真っ当な人かも。ありがたい。女子の輪からオレを救い出してくれた。
「あ、ありがとう。えっと、相川君?」
「出席番号一番、こいつらの中で一番最初にこっちに転移してきた相川裕也です。よろしく」
睨まれた……わけじゃないと思うけど、すごくじーっと見つめられた。
とりあえず、「はい、よろしく」とオレは頭を下げる。
「一応、こいつらのフォローじゃないけど。ランカさんからアルティエロさんはイケメンって聞いて、女子ら、盛り上がっちまって。イケメン様にお会いしたいって情熱で魔法おぼえて、鐘修復して、アルティエロさんをこっちにもどせるようにしたんだよ」
「あ、ありがとう……!」
わ、わあ……。
「盛り上がっていた内容っていったら、女子らの妄想で、イズラさんって王女様を救うための勇者アルティエロ様って感じの、王子様妄想暴走だったんだけど……」
ぐわあ! アニメとかラノベとかで登場する感じの暴走系女子……。とすると、ある程度の情報は出さないと……、妄想が更に暴走かもしれない。
「ええと。オレは『第七界』では美沙ちゃんの兄の玲央に同化させてもらって、世話になって」
「「「「「「「「同化!」」」」」」」」
女子の声が重なった。うわ……、何か言い方間違えたかな?
「『第七界』で異世界人が暮らすのは結構難しいからって、玲央の厚意で……」
「「「「「「「「好意‼」」」」」」」」
ん? なんかニュアンスが違うみたいだけど? まいいか。
「だから、美沙ちゃんは玲央の妹だから、何となく、オレにとっても妹的な感じだったんだけど、山羊モドキを倒すためのアイデア、ポンポン出してきて、それ以外にも色々……。ホント賢者って感じで。玲央にも美沙ちゃんにもメチャメチャ感謝してます」
女性の皆さんが「うんうん」と頷いている。
その中の一人が「いやあ、他の『界』に行って、男子の中に男子が同居……。ムフフ妄想がはかどりそう……」って、服のポケットから小さめのノートを取り出して、メモ書きを始めたよ……。
「さ、佐倉先生! そのネタは別枠で! まずは姫様と勇者様の『界』を隔てた美しきファンタジーをお願いしたい!」
メモを取っていた女子は頷いて。
「うんうん。異世界ファンタジーとびーえる妄想を一緒にしては世界観の崩壊だわね」
相川君は「げー」とか言いながら、首を横に振る。ええっと?
よく分からないな。ま、いいか……。
とにかく、オレはあの山羊モドキを倒すために、ここに帰ってきたんだから。




