第20話 三年二組 村上美沙⑥
黒板に『十日後』と浮かんでから、ホントちょうど十日後の昼前……十一時ごろ。
出席番号一番の相川君のご両親とおばあ様、出席番号二番の井上君のお母様、それから上野さん、遠藤さん、奥田君、加藤さん、木下君、 倉田さん、紺野君、佐倉さ……ええと。『第三界』に転移したクラスメイトの保護者全員が、元三年二組の教室に集まった。
皆さん、期待と不安が混ざった顔をしている。
それは近藤先生と沖田先生も同じ。
……単純にわくわく顔なのは緑川君くらいかな。
アルさんは緊張顔。兄が「ダイジョーブ! がんばれアルさん!」とか声をかけている。
アルさんは頷いて、それから集まってくれた保護者の皆さんに挨拶をした。
「半信半疑の方もいらっしゃると思います、それでも集まってくださってありがとうございます。オレはかならず『第三界』に戻って、皆さんのお子さんをこちらに戻します」
言って、それから保護者の皆さんに魔法の練習。練習っていうか、小さい魔力を集めてアルさんに渡して、その魔力をさらに増幅っていう感じなんだけど。アルさんが『第三界』に無事にたどり着けるよう、サポート。
『第三界』から引っ張ってくれれば、大丈夫と思うんだけど。黒板に現れる文章からすると、鐘は修復できたみたいだし。
でも、アルさんが無事に『第三界』に行けるようにするには、魔力が足りないより多いほうが良いよね。
教室から机と椅子を全部出して、大きな一つの円になるように立って、隣の人と手を繋いで。
それで、アルさんが魔力を流す。
あったかい何かが、体を通っていく。ぐるーりぐるーりって……。これが魔力。
「う、うわ……」
「きゃあ、何これ……」
保護者の皆さんは驚きに声を上げる。
「大丈夫です。そのまま体の力を抜いて、オレに合わせて。皆さんに危険はないです」
私の手を握っているアルさん。その掌が汗ばんでいる。緊張しているんだろうな。でも、その緊張を出さないように、穏やかに告げた。
私はアルさんの様子を見て……それから、教室の時計を見る。
思いだす。
桜の日。
お腹がすいていた古文の授業。
……まだ、十一時五十九分。今日はお腹が鳴らない。ちゃんとたくさん食べてきた。
なんて思ってくすっと笑ったら。
「美沙ちゃん?」
アルさんが不思議そうに私を見た。
最初の日のことを思いだしたんだ、今日はお腹が鳴らなくてよかったなんて言えないから。
「ここで、兄とアルさんが出会ったのは必然だった……なんて、ラノベの文章みたいなことを考えちゃった」
アルさんのオレンジ交じりの赤い髪と瞳を見て、誤魔化すみたいに舌を出して笑って見せた。
「へ……?」
きょとんと赤い瞳の目が大きく見開かれる。
……ちょうど、十二時。
『リンゴーン』と鐘の音が鳴って、黒板に『イケメンアルティエロ様、今だよ!』って文字がゆっくりと浮かぶ。
私はアルさんと繋いでいた手を離して。離した手で、アルさんの背中を押す。
保護者の皆さんとか先生とか、緑川君とかの円陣の真ん中に、つんのめったように、進み出るアルさん。
「行ってらっしゃい、アルさん。またね!」
「美沙ちゃん……」
サヨナラとかは言わないよ。だって『第三界』を救ったら、また挨拶くらいには来てくれるんでしょう?
「アルさん! またな! 待ってるからな!」
兄も笑顔で手を振って。
「玲央……」
アルさんの口が開いて、何か言いかけて……、その姿がふっと消えた。
「消えた……!」
保護者の人たちが叫んだり、その場にへたり込んだ人もいたり。
そりゃあ初めて目の当たりにすれば、半信半疑だったとしても驚くよね。
沖田先生たちも何も言えないし。
んー……、私がまとめるのも僭越なんですけど。
「アルティエロさんはきっと無事に『第三界』にたどり着いたでしょう。だから、そのうち、皆さん帰ってきます。卒業式に間に合うといいですね。私、ちゃんとクラス全員で卒業したいです」
言ってみた。
あー……卒業できるのかな? 出席日数不足で十八人は留年? 何とか温情措置とかあるのかなー。沖田先生と近藤先生を見たら、お二人とも「卒業式か……」ってぼそっと、合わせたように言った。
保護者の皆さんも、少し顔を上げて。
そうしたら、また黒板に文字が浮かんだ。
『アルティエロ様、無事到着~。姫様と感動の再会♡ 上野議長ら『イケメンアルティエロ様をお迎えする会』のメンバーは大盛り上がりでっす! なお、実況は佐倉桃子でした♡』って黒板に文字が浮かんだ。
へたり込んでいた女の人が立ち上がって。
「も、桃子ぉっ⁉」
叫んだ。
あ……この人が、佐倉さんのお母さんか……なんて思って。
「無事なのね、無事なのねぇ……っ!」
号泣。
もう一人,上野さんのお父さんと思しきおじさまが「『イケメンアルティエロ様をお迎えする会』って……、ウチの娘は何をやってるんだ……」って、呆れ声で、でも目からは涙を流しながら、言った。
「佐倉さんと上野さんが無事で元気なら、十八人全員元気だね、きっと」
緑川君がぼそっと言って。
「そうね。なんか楽しそうね」
広崎さんが苦笑して。
『イケメンアルティエロ様をお迎えする会』っていうのはよくわからないけど。
まあ、楽しそうね、みなさん。
再会して、話を聞く日が、楽しみだ。




