第19話 第三界 イズラ②
「ごめんなさい、アルティエロ様。あたくしは『第三界』に残ります」
アルティエロ様が山羊モドキを倒す方法を探るためと、他の『界』の魔法使いたちの能力を増幅・強化するために『第三界』から出発するとき。
あたくしは、一緒に行くことを選ばなかった。
父王や王妃様たちと家族でいたいのなら、あたくし一人が他の『界』に逃げるようなこと、したくないと思った。
ううん、ちょっとちがう。他の界にあたくしだけが逃げたら……もう、家族になりたい人たちからは家族扱いされなくなるんじゃないかなって、不安で、怖くて。
だから、行かなかった。行けなかった。
それに……そのときは、まだアルティエロ様は、あたくしの魔力を増幅してくれた恩人ではあるけれど……出会ったばかりの人で。
一緒に行くって選択肢は初めからなかった。
だけど、離れてからも、一日だってアルティエロ様のことを忘れたことなんてなかった。
むしろ……月日が経てば経つほど会いたいって気持ちが強くなるようで。
今どこにいるんだろう?
山羊モドキを倒す方法は見つかったかしら?
そんなことよりも。
お元気だろうか?
病気にはなっていないだろうか?
『第三界』に現れた時のように、またどこかで倒れたりはしていないだろうか?
ご飯、ちゃんと食べているかな?
あたくしのことを……忘れたりしてはいないかな?
別の『界』で……仲良く鳴った女の人とかが出来て、『第三界』のことなんて忘れて、他の『界』でおしあわせになっているんじゃないんだろうか?
そんなことを思うと胸がギューッとして。
会いたいって思ったり。
別の誰かとおしあわせになるのなら、それでもいいんじゃないかって思うのに、泣きたくなるような気持ちになって。
……そんなことを、上野さんたち『イケメンアルティエロ様をお迎えする会』の皆様に、根掘り葉掘り喋らされて……、ううう。
「それは、あれね! 姫様! 恋ね! ラブよ!」
なんて、女生徒の皆様に興味津々にされて。
「ええと、あのその……、あたくし、アルティエロ様のことは、その心配と言いますか、尊敬申し上げているといいますか……」
「いやぁねえ、姫様、ノリ悪いぞ♡ そこは可憐に頬をぽっと染めて照れてもらいませんとぉ!」
「え、えええええ……?」
恋だ愛だなんだのと、女生徒の皆様は……楽しそうですわね……。
あたくしが間違えて、しかも自棄になって召喚してしまった十八人の皆様。
罵られても仕方がないし、元の世界に帰せって嘆かれても仕方がないのに……。
皆様、好意的……といいますか、何といいますか……。あの……? もしかして楽しまれています……?
佐倉さんという方などは、あたくしとアルティエロ様の恋物語を創作して、毎晩のように披露してくださいます。
「そうして、世界を救うために離れ離れになった姫様と勇者様! 再会の時は近い!」
「キャー♡」
「ああん! 佐倉さん、続きプリーズ!」
「まあ、待って、みんな。あともう少しで妄想じゃなくって、リアルアルティエロ様ご降臨よ!」
「ぎゃああああああああああああああ!」
「楽しみいいいいいいいいいいいいい!」
「姫様っ! ラブラブ再会、リアルで見せて!」
……えっと、あの……。皆様、盛り上がっておりますが……。あ、あたくしは……なんと反応してよいのやら……。
助けてランカ……って、目を向けても、ランカはあいまいに微笑みだけで口出しは一切してくれない。ううう……。
「さあて! 佐倉ちゃんの妄想でマジ気力アップ、MP充填! さあ、皆のものっ! 鐘の修復、最終段階! やったるわよー!」
「おう!」
「任せて、上野議長!」
「再会までに鐘の修復が間に合わなかったら、本末転倒よ!」
「なおしまーっす♡」
「イエッサー!」
上野さんがぐるりと皆様を見回して、そうして右の拳を空に突き出しました。
「可憐なる姫様とイケメン勇者様の再会のために! 我々は全力を尽くすと誓います!」
「「「「「「「誓います!」」」」」」」
皆様がた……遠藤さん、加藤さん、倉田さん、清水さん、 内藤さん、田中さん……、そして佐倉さんも、上野さんと同じように右の拳を空に突き出して。
ありがたいと言っていいのやら、何なのと言いたいような……。ううううう……。
「さあ、修復作業再開よ! 遠藤、加藤、倉田、清水、 内藤、田中、同士諸君は昨日の作業を引き続き! 佐倉同士は我らの精神力切れの時に備えて、妄想小説の続きの構築をお願い!」
「「「「「「「イエス、マム!」」」」」」」
あ、あの……? マムって何でしょう? 『第七界』特有の単語でしょうか……?
分かりません。
「男子諸君! 井上、奥田、紺野、鈴木、相馬らは我ら女子のサポートを!」
「「「「「……へーい」」」」」
「声が小さーい! やる気がないのか君たちは!」
「「「「「はあああああぁぁああああああいっ!」」」」」
上野さんは、そこまで軍隊長のように言ってから、相川さんと木下さんを見た。
「で、二人は魔法訓練の続きするの?」
上野さんの問いに木下さんは盛大に頷いた。
「もちろんだとも! 目指すところはスーパーヒーロー! 巨大化して山羊を打つ!」
「まあ、がんばってね」
ええと……。『第七界』にはヒーローが巨大化して悪を打つという物語があるそうで……。木下さんはそのヒーローのように巨大化して山羊モドキを倒すとおっしゃっていますが。
……人間って、巨大化できますの?
木下さんも魔力の循環訓練はずっと続けていらっしゃいますが、ほんの数センチでも大きくなるのは……成功しておりませんし。
各『界』の魔法使いでも、そんな荒唐無稽な魔法に成功した人はいないはずですし……。
木下さんと一緒にずっと魔力循環の訓練を続けている相川さん……あたくしが最初に間違えて召喚してしまった方は……、この約半年、ずっと難しい顔で、何かを考えているようです。
「ごめんな、イズラさん。どんな魔法使えばいいのか、木下みたいに明確なイメージがなくってさ。山羊モドキ、どうやって倒せばいいのか……、そのためにどんな魔法を習得すればいいのか……、ずっと悩んでて」
「いえ、ごめんなさいと謝るのはあたくしです。間違ってみなさまを召喚してしまったのに、皆様あたくしを責めることなく協力していただいて……」
皆さん優しいです。
誰一人としてあたくしを責める人はいない。
『第七界』の人たちってみんな優しいのでしょうか?
ありがたくて涙が出そうです。
だったら、あたくしはあたくしで、やるべきことをやらなければ。
アルティエロ様を『第三界』に呼び戻す。
きっと何らかの方法を持ってかえってきてくれるアルティエロ様と共に、山羊モドキを倒して『第三界』を守る。
そして……、『第七界』の皆様をきちんと元の世界に戻す。
そのために……あたくしは、魔力を練る。
アルティエロ様に魔力の循環方法を教えていただいてから、増大していったあたくしの魔力量。今では魔力量だけならタビオ師匠も上回っている。『界』の移動はできないけれど……、他者を他の『界』からこちらに呼び寄せたり送り込んだりはできる。
そのための魔力を、高レベルで安定させること。
その循環の、訓練。
アルティエロ様に教えてもらった時のことを思いだしながら、魔力を何度も循環させる。
「うわー……、姫様、体、金色に光ってる……」
「綺麗ねぇ……」
上野さんたちの声をどこか遠くに聞きながら、魔力を練って、練って……。
アルティエロ様に、届け。
届いて……、引き寄せて。
そうして、まもなくの再会のとき。
最終回第27話まで一日おきの投稿予定です。




