第18話 第三界 相川裕也④
月日はどんどん進む。
桜の時期にこっち……『第三界』にやってきた俺たち。
今はもう夏が過ぎて、秋になった。
季節感はあっちもこっちも同じなんだななんて。……婆ちゃんの桜餅とか柏餅とか、夏だったらくず餅とかわらび餅とか、そろそろくり饅頭の季節だよなとか。あああ、食いてえなあ……。なんて、それどころじゃないんだけどね。
何せ、一年後か二年後にこの『第三界』の地球が喰われる。
そんな危機感、あんまりないと以下、実感できないんだけど。
ま、でも佐倉さん以外の女子たち全員が、毎日鐘の修復作業をがんばっている。
地球のためっていうか、イケメン様に会いたいからみたいなんだけど。
まあ、イケメンに熱中しているふりで、実は不安を隠してってカンジもあるのかなって、ちらっと思ったけど。
「そっちじゃなくて、緑の二十番に魔力を流すの!」
「それより先に青の二番のほうが良いんじゃない?」
「駄目、緑が先! 青を優先したら、その場所だけは修復できるけど、他の影響が出る」
マジで修復に熱中。もはや職人集団。
ちなみに男子は女子のサポート。
あれ持ってこい、こっちの台支えて、違う、あそこだってば。そろそろ昼ご飯の用意よろしくエトセトラ。言われたとおりに動くだけ。男子情けねー。
佐倉さんだけは……何というか、創作活動がんばってねってカンジ。規則正しく時間を決めて、ルーティンみたいに書いて、昼前に書いたものを送って、午後はのんびり構想……。
「時間を決めてやらないと、学校があるわけじゃないからサボれるだけサボっちゃうでしょ。自分で時間割り決めてその通りに動かないとね」
朝、ラジオ体操までやってるんだよ、佐倉さん。マジかーって思ったけど。異世界転移させられて、自分のルーティンで動くなんて偉いなあ。
じーっと佐倉さんを見ていたら、ぶつぶつ言いながら、メモ書き中だった。
「自分だったらこういう展開にするんだけどなー。でも一応、通信的にすると、ドキュメンタリーに近い創作小説にするっきゃないか! よっし、こっちは削除。ああしてこうしてこう書いて……おけおけ、今日はここまで書いちゃえ。創作恋愛小説ネタとしては、元の世界に戻った時に……えへへへへへへ」
妄想に耽溺しているのか、口元が緩んでいる。……運が良ければ職業作家とかにもなれるんじゃないか? あ、趣味でウェブ小説投稿しているんだっけ。呆れ半分、尊敬半分。
俺と言えば……、半年間ずっと魔法の修行。未だに魔力っていうものが分からない。
いや……、違うか。どういう魔法を使えるようになりたいのか、分からない。
たぶん、それ。
上野さんたち女子のほとんどが、鐘の修復のための魔法を身につけたんだよ。
イケメンアルティエロ様にお会いするためには、まず鐘を直すこととか念じていたら、それ系の魔法を覚えたって……。
……本人の持っている才能が元々開花するんじゃなくて、こういう魔法が明確に欲しいって願ったら、それを得られるカンジなのかなあ。だから、俺は未だに魔法が使えないのかなあ。
うん……。俺は……多分、そこで迷っている。
異世界転移とか転生とかの勇者ってさ、ふっと浮かぶのは、剣を振るって魔王を倒すとかなんだよな。
でも、木星サイズの大きさの魔物を剣で倒せはしないだろう。
そんなバカでかいサイズのを相手にするのが中学生男子の平均身長しかない俺だなんて……。
山羊モドキから俺を見たら、小さいって思うどころじゃなくて、見ても見えないんじゃないのか?
人間がさあ、ウイルスとか細菌とか見えないように。
山羊モドキからしてみれば、人間のサイズなんてウイルス以下じゃないの?
そのサイズ感で、剣を振るっても無意味じゃね?
だから、迷う。
何をどうすれば、木星サイズの魔物を倒せる?
「わっかんねー……」
俺以外の誰に聞いても倒し方なんて分からないってさ。
倒し方が分かっているんなら、もうとっくに『第三界』とかの魔法使いがたちがやってるよなあ……。
ただ、アルティエロさんって人が、希望なのかな?
きっと、どこかで、倒し方を掴んでくるかも……って。
でもさあ……。アルティエロさんって人だってどこの世界に行っても倒し方なんて見つからないんじゃないの?
探しているうちに『第三界』が山羊モドキに飲まれたりして。
だったら、俺が、収納魔法とか覚えて、大勢を魔法で収納して、どこかに逃げる?
……そんなでっかい魔法を、短期間でオレが覚えられるわけないよな。っていうか、そもそも、地球一個まるごと収納するなんて魔法、無理。
悶々としつつ、一応、魔力の循環とかの基礎訓練とかだけはずっと続けてもらって。なんとなーく、魔力の流れ……体の中の血管を血が流れていくような感じは、掴めるようになったんだけど……。
そこからは前進しなくて。
で、そんなことを悶々と、今日も考えていたら……いきなり『リンゴーン』って鐘が鳴った。
「え?」
「えええええ何で鐘が鳴るの?」
「うっそ、修復の順番間違った?」
上野さんたち女子が焦ったけど。
でも違った。
鐘の表面に浮かび上がった文字。
『第三界』のイズラへ。
今、オレを呼んで。
帰るから。
『第三界』に行くから。
すぐに行くから、そっちからオレを引っ張って。
その文字は……しばらく鐘の表面に浮かんで……、上野さんたちが慌ててイズラさんとランカさんを呼んで……。
「アルティエロ様……っ!」
文章を見たイズラさんが、叫んだ。
多分、歓喜の喜び。
「アルティエロ様! アルティエロ様‼ アルティエロ様……‼」
鐘に、縋りついて。
「今すぐお呼びしますからっ!」
魔法を発動しようとして。
「待ってっ! まだ鐘直ってないの! 今はまだ無理!」
上野さんがイズラさんを鐘から引きはがす。
「でもっ!」
「いいから! イズラ王女は待って! ステイよステイ! あー、佐倉さん!」
ステイと言われた意味が分からず、イズラさんは暴れるけど。
上野さんを「議長」と呼ぶ『イケメンアルティエロ様をお迎えする会』の女子たちが、全員でイズラさんを押さえつける。女子の結束力、マジ怖し。
「ほーい、何かな上野さん」
「文字、送って、あっちにっ! 十日後って! 今は鐘修復中だからって!」
「わかった」
佐倉さんがノートに『呼び寄せるための鐘に亀裂が入っている。直すまであと十日。十日後、また』と書いて。それを、鐘経由であっちに送った。
イズラさんが女子たちにぐるりと囲まれて、説教されている。
「いいですか、王女様。イケメン様をお迎えするには万全の態勢で」
「そうですよ。鐘、壊れているのに無理やり呼び寄せて、イケメンの顔に傷でもついたら世界の損失」
「あ、あの……」
「落ち着いて。いい? 我ら『イケメンアルティエロ様をお迎えする会』一同、十日で鐘を修復します。何があっても直します」
「だから、十日待っていてくださいね。ちゃーんと間に合わせますから」
「あ、あの……、はい……、ごめんなさい……」
頭を下げたイズラさんの頭を、上野さんが代表して、盛大に撫でた。
「よろしい。お姫様は出番が来るまで優雅に待っていらっしゃい! ランカさん、姫様にお茶を!」
上野さんがにっかり笑う。
すげえ……。さすが議長……。押し切った……。
女子たちがイズラさんを座らせて、あれこれ言って、落ち着かせて。ランカさんが用意したお茶を飲ませて。
……すげえ、女子、すげえ。
俺は……何かできるのかな?
イズラさんのために。
『第三界』を山羊モドキに食わせないために。
じっと自分の手を見る。俺は聖剣を得て、魔王を倒せるような勇者じゃない。
上野さんのようにイズラさんを落ち着かせるようなこともできない。
アルティエロさんってイケメンって評判の人と張り合っても、イズラさんを俺に興味程度も持ってもらえないだろうし。
でも。
不戦勝って、一番悔しいよな。
戦って負けるんならともかく、戦いもしないで……なんてさ。
一番最初にこの『第三界』に来ただけの、俺。
勇者でもないし、お姫様を救うヒーローでもない。
だけど。
必死で頑張っているお姫様。
イケメンに会いたいって下心であろうと鐘を修復したり、お姫様をサポートしたりしている上野さんたち。
俺だけが情けないって、ない、よな……?
男だからなんて昭和の親父な発言はしないけど。
俺は、きっと、イズラさんにめちゃめちゃ惚れているってわけじゃないけど。最初から負けが決まっている戦いだけど。
でもさあ……、最初に転移してきて、すんげえ美少女イズラさんに出会っちゃったから。
ラノベだったら、俺が、主人公で、出会った美少女と恋仲になるんじゃないかななんて、うっかりちょっと、いや、かなり、思って。
ならさ。やるしかないって思うんだけど。
じゃあ、俺は何ができるんだろう……?
考えてもわからない。
分からないうちに……『第三界』にアルティエロさんを呼び寄せる十日後になった。




