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『異世界転移しない女子中学生の私』が『界の賢者』⁉  作者: 藍銅 紅@『お姉様はずるい』コミカライズ連載中


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第14話 第六界→第三界 アルティエロ⑦


「ほい、アルさん。図書館から借りてきた癌の本」

「玲央、ありがとう! 読んでみて分からないことがあったら聞く」

「あー、本よりもテレビ番組とかネットとかのほうが良かったかな。アルさん、日本語の文字を読むより、音声のほうが理解しやすい人だろう」

「そっちも見るよ。できる限り多くの知識を得たいから」


玲央は良い奴だ。いきなり現れたオレをすんなり受け入れてくれた。

この二年間世話になりっぱなし。


……魔法のない『第七界』で。しかも戸籍だとかなんだとか、すごく厳密でいかにも異世界人……というか外国人な外見のオレが、パスポートとかマイナンバーだとかいう身分証明書もなしに、この世界で生きていくのは無理だっただろう。


運が、よかった。

『第六界』でヴィオ姉さんとジルベルトと別れた。

『第三界』にいた時と違って、ヴィオ姉さんはもう怯えもしないで元の明るい姉さんに戻っていた。


「アルも『第六界』で暮らそうよ。ここならアタシたちが死ぬまでっていうか、子どもとか孫の代まであの山羊モドキに食べられないで安全に暮らせるよ」


……元の明るいヴィオ姉さんに戻ってくれたのは嬉しい。

だけど、それじゃ『第三界』の人たちは、イズラは、タビオ氏は、ランカさんはどうなる?


あと十年……もない。多分、五年程度。なんらかの手立てが見つからなかったら『第三界』は山羊モドキに食われちまう。


「……オレは『第七界』に行くよ。魔法とは違う方法であの山羊モドキを倒せる方法があるかもしれない」


ヴィオ姉さんにとっては『第三界』の人も他の『界』の人も、親しくもない単なる他人なのかもしれない。


彼らのために戦うなんて発想はきっとない。


自分たちだけが山羊モドキから逃げられればいいんだ……なんて、言ったら。

ヴィオ姉さんが酷い人間だって言っているみたいだけど。


「……山羊モドキに対抗なんて、できないでしょ。食われないように逃げるしか」


多分、怖いんだ。ヴィオ姉さんは。

『第一界』が食われるのを目の当たりにしているから。

自分も、食われていたかもしれないから。


逃げて、逃げて、逃げて。無事に一生を終えられればそれでいい。


そんな気持ちも分からないではないけど。

だけど、オレは、イズラたちを見捨てられない。


イズラは王女で。父親である王様とか、血の繋がりのない王妃様とか、きょうだいたちと……、本当の意味では家族になれないって思っているけど、でも、イズラは家族に寄り添いたいんだよな。

家族のために、持てる力を使って……、大事な娘だよ、家族だよって、きっと言われたいんだな。あー、違うか、言ってもらっているけど、イズラのほうが受け取れないんだろうなあ。

わがまま姫が無理やりあたくしを産ませてごめんなさい。せめて、王家のお役に立ちますから……なんて、どこか卑屈に思っている。

親の罪を子が背負う必要なんてないのにな。

だけど、イズラの想いは理屈じゃないんだろう。

王家の役に立てば、家族として思ってもらえる。せめて、母親の罪を少しでも償えれば……なんて、考えちまうくらいには、家族が好きなんだろう。


イズラは『第三界』が飲み込まれるとしても、一人だけ他の『界』に逃げたりはしたい。


タビオ氏もそうだろうなあ……。

他の人たち……、なるべく多くの人を救うために、奔走する。


オレは、二人を失いたくない。

守りたいのなら……、二人を連れてどこかに逃げるのではなくて、山羊モドキをどうにかしないといけない。


「ねえ、アル。『第七界』って、アタシたち魔防使いがいる『界』とは違うんでしょう? そんなところでできることなんてきっと何にもないよ。今までアルは他の『界』のために頑張ってきたじゃない。もういいよ、ねえ、アタシたちと一緒に余生をのんびり送ろうよ」


余生。

ああ、ヴィオ姉さんはもうそういう気分なんだ。


『第一界』という故郷が食われて。どうしようもなくて。逃げて。その逃げた先で、ただ、あとは穏やかに暮らしたい……。


そういう気も、分からなくはないんだけど。


「ごめんね、ヴィオ姉さん。オレは行くからちょっとだけジルベルトを借りるよ」


ジルベルトはヴィオ姉さんを置いて『第七界』にオレを送りに行くことを躊躇していたけど……。そこは、オレが頼み込んだ。

だってオレには『界』を渡る能力はない。

ジルベルトが嫌だっていうのなら、仕方がない。『第六界』とかの『界』渡り能力のある誰かに送ってもらうしかないけど……。


「ヴィオランテをあんまり長い時間一人にしたくないから、『第七界』にアルを置いたら、ボクはすぐに戻るけど」

「ああ。それでいいよ。ありがとう」

「……一応、安全そうなところに置いていくね」


準備をして、すぐに転移をした。


「ここが……『第七界』」


四角い部屋にたくさんの机と椅子が整然と並んでいた。


「じゃ、僕は行くよ」

「ああ、ありがとうジルベルト。ヴィオ姉さんをよろしく」

「うん」


着いてすぐに、ジルベルトは『第六界』に戻った。


ふっと消えるその姿。オレはなんとなくため息を吐いて……そして、四角い部屋内をぐるりと見回したら。


「あ、あ、あ、あ……」

その部屋の一番後ろ。ドアを背にして座り込んでいる黒髪の男の子がいるのに気が付いた。『第七界』の人間だ。


「あ、えっと……」

「い、い、い、い、いきなり現れたと思ったら、一人消えて……」

「あー、はい。『界』を転移、してきましたけど……」


あ、そうだった。魔法のない世界なんだ、ここは。

突然人が現われたり消えたりしたら、驚くんだ……なんて、オレはボケっと思って。


「マジかーっ! 『界』を転移って、つまりはアンタは異世界人っ!」

「あー、そうなりますね。えっとオレは『第一界』のアルティエロと言います」

「キタコレファンタジー展開! ひゃっはー! 俺は村上玲央でっす! よろしく異世界の人!」


目がキラッキラに輝いて。興味津々って感じで。

……ぶっちゃけて言うと。初対面の玲央を見てオレはヤバい人に出会っちゃったなーと思った。

でも、玲央曰く、ファンタジーを理解しない大人に出会っていたら、身分証不所持で、警察とかに連れていかれたかもよーってことだったので、玲央に出会えて幸運だったんだろう。


たまたまの、偶然だけど。

ジルベルトがオレを置いて行ってくれたここが聖稜中学校の三年二組っていう場所で、そこで、たまたま一人でいた玲央に会えてよかった。


まあ何というか、玲央曰く「アニメオタクでゲームオタクでラノベ好きでファンタジー適性がある」とのことで。


オレのこともすんなりと受け入れてくれたのだ、玲央は。


「なるほどなるほど、理解理解。つまり、アルさんは魔法使い」


キラキラ輝く瞳で、オレの話を聞いてくれた。


「魔法ってさ、この世界でも使えるのか?」

「んー、まあ、『第六界』とまでと違って『第七界』は魔法のない世界って聞いていたし、魔法を使うための元素みたいなのも薄いっぽいけど……使えないことはないみたい」


試しにいくつか通信魔法とか、使ってみたけど。

うーん、なかなかうまくいかないかも。できないことはないけど……やりにくい感じ。


「なあ、なあ。魔法って、俺にも使えるようになるかな?」

「玲央も……。うーん適性があれば、使えるかも」


とりあえず、オレはイズラにしてやったみたいな訓練を、玲央にもしてみた。


「うおおおおおおおおおおっ! 魔法は想像力っ!」


なんて、叫びながら、玲央はあっという間にオレを玲央の体の中に入れるという魔法を獲得した。マジか!


「ふははははは! この世界で異世界人のアルさんが暮らすのはちっと難儀だからな! 同化して、俺の目を通してこの世界を知ればいいよって思ってたらできたぞ俺天才!」


……話が早くてありがたいというべきか。いいのか出会ったばかりの見知らぬ他の『界』の人間を自分の体に同化させたりなんかして。オレが悪い人間だったらどうするんだ。ちょっとは警戒とか、オレの言うことを疑うとか……、しないんだよな、玲央は。


言いたいことはたくさんあったけど。

とにかくオレは、玲央の身体に同居させてもらう感じで、この『第七界』で山羊モドキを倒す方法を探っていくことにした。


「まー、非常識な異世界転移を実体験しているんだけど。そうだなあ。世界を知るなんて大袈裟なこと考えないで、とりあえず、俺の日常でも一緒に体験してくれ」


朝起きて、母親の作るご飯を食べて、妹と軽口を叩いて、学校で勉強して、放課後は友人たちとアニメやラノベの話をして、家に帰って、アニメを見たりネットを見たりゲームをしたりして、ちょこっと受験勉強もして、風呂に入って寝る。


玲央の生活はその繰り返し。

たまに、玲央のご両親とかが不在の時に、玲央の部屋で、オレも玲央の身体から出て、二人でアレコレ喋ったり。


……山羊モドキのことを忘れそうになるくらい、楽しかった。


アニメとか、ラノベとか。

荒唐無稽のファンタジーと玲央が好む創作物を、眺めているだけで楽しい。

玲央の嫌がる受験勉強も、知らない世界の知らない知識で面白い。

玲央の妹の美沙ちゃんとのやり取りも結構好きで。


……オレが、弟で、姉しか知らないから。兄と妹っていう関係を見ているのは新鮮で。


山羊モドキのことがなければ、このままずっと、ここで過ごしたいななんて思う程度には、きっと楽しかった。


でも……のんびりなんてしてはいられない。

山羊モドキが『第三界』を食っちまう前に、なんとかしないと……。


焦ったりはしないけど、でも焦りが出そうになったとき。


玲央の妹の美沙ちゃんのクラスメイトがいきなり消えたって聞いた。


状況、聞いて。

オレは思った。


「イズラ……が、オレを呼んでいる?」


『第三界』に山羊モドキが到達するまで、まだ時間的な余裕があるはずだった。

でも、到達時間は予測でしかない。

不測の事態が起こったとか何とかで、もしかしたら……。


だったら、オレは『第三界』に戻らないと。

戻っても、山羊モドキを倒す方法なんてまだ全然見つかっていないけど。だけど。


倒すのが無理なら、せめてイズラたちだけでも助けないと……。



焦るオレ。

だけど。

あっさりと美沙ちゃんが言ったのだ。


「あー、でも、でっかい魔物を倒す方法ねえ。方法はいくつか思い浮かんだけど……」


……美沙ちゃん、君は賢者か⁉

あっさりといくつもの方法を思いついて。

信じらんない。

いや、信じたい。

美沙ちゃんの方法のいくつかが、きっと、あの山羊モドキを倒せるんだと……。


オレは、調べに調べた。

高レベル放射性廃棄物とか毒物とか。

『第一界』から『第六界』にはない物質だから。

癌とかいう病気のことも。細胞の遺伝子に異常が生じ、制御不能に増殖する悪性腫瘍。山羊モドキだって生き物である以上肉体があり、肉体は細胞から構成されているハズ。だから、その細胞に異常を生じさせる。

……なるほどなって思った。山羊モドキを倒すというよりも、山羊モドキの肉体を内側から崩壊させる。

時間はかかるかもしれないけど……できそうかなって。細胞の変異。物質を変異させることができる魔法使いがどこかにいたと記憶しているし。



調べられる限り調べて、それで、オレは『第三界』に戻ろう。あの世界を守るために。



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