8本目
「先輩、おはよーございます。」
「おう伊月、おはようさん。俺たちに指令が来てるぜ」
本郷はそう言って一枚の紙を伊月に渡す。
これは組織から組員に指令が下った際に、対象者のレターケースへ届けられる物だ。朝はこの指令の確認から始まる。いつ、誰が入れているのか誰も知らない。夜遅くに任務から戻る者、日が変わってもトレーニングを続けている者、朝早くから準備のために顔を出す者…様々な人間が属しているが、指令書が入れられるのを見たものはいないのだ。その正体を探ろうとカメラを仕掛けた者もいたが、カメラが一瞬だけ謎の不具合を起こし、映像が復旧したかと思えば既にレターケースには指令書が入っている。
組織には戦闘向けではない能力者が何人もいるため、「物を転送する能力を持つ組員がいるのでは?」「電波や自身への認識を阻害する能力者が隠れて入れているのでは?」などの憶測が飛び交い、いまだに真実は分かっていない。
そんな不思議な指令書が本郷・伊月のペアにも届いた。
「えっと?『啜り泣きの廃墟でのヒトナシの掃討を頼むね!ちょっと変な噂もあるから、ついでに手掛かりを見つけたらお願い♪』…ですか。相変わらずっすね、あの人の指令の書き方は。」
この指令を書いているのはもちろん組織のトップ。本郷、佐伯とは付き合いが長く、二人にだけ砕けた書き方をしている。…なぜか手書きで。
「まあ、あいつも腕は確かだ。戦闘だけじゃなく情報力、推察能力、統率力までもな。『噂の件』まで書かれてるってことは、なにか根拠があってのことだろうよ。」
最近、夜な夜な人が町から数人消えるという失踪事件が起きている。月に5人程度、普通に生活していた人たちが突如として消えるというものだ。そして事件が起きた次の日の夜に、廃墟の方角から泣き声が聞こえるという。それが啜り泣きの廃墟と呼ばれる所以であり、何故か帰れなくなった人の泣き声かもしれないという噂が流れているのだ。
もちろん廃墟を調査しても誰の姿も見当たらない。
「不気味な話っすね。で、今回そこにヒトナシまで現れた。でも手掛かりって言っても、調査しても誰もいなかったんでしょ?なんの意味があるんすかねぇ。」
「さぁな。それは行ってみないことには分からんさ。別に何もなければそれでいい。」
本郷も不審に思ったが、ついでとはいえ調査を依頼してきたのだ。それを確認するのが自分たちに課せられた任務であり、友からの頼み。その思いを蔑ろにするつもりは、本郷にはなかった。
「そろそろ行くぞ。直感だが、何か嫌な予感もするしな。警戒だけは怠るなよ。」
「はいはい、りょーかいですよ。いつも通りやらせてもらうんで大丈夫っす。」
軽いノリで返すが、本郷のこういった直感は当たることを伊月はよく知っている。
気を引き締め、二人は啜り泣きの廃墟へと向かっていった。




