1ー5
おむすびを頬張りながら、緑茶を飲む。口いっぱいに広がる美味しさに、とろけてしまいそうになった。
「ハナさんは、料理が上手ですね」
「えへへへ。あのね、お母さんが入院していた頃、料理を教えてくれたお姉さんがいたの」
それ以上は聞いてはいけないような気がして、だけど聞かずにはいられなくなる。
「女の子は殿方の胃袋をつかんだら勝てるわよって、力強く教えてくれたの。うちのお母さんなんてほとんど料理もしない人だから、憧れて。でも、しばらくしてお母さんが退院してから会わなくなっちゃった」
「その人は――」
のめり込むように布団を握りしめた。
「その人の名前とか覚えてる?」
「たしかナツミさん、だったかな?」
息が止まった。ハナさんはナツミと会っていたのだ。
「……ナツミは、死んでしまったんだ」
「ナツミさんのこと、知ってるの!?」
「僕の」
声がかすれる。
「ナツミは僕の大切な人だ。それは今でも変わらない」
「……それは、依存? それとも愛が続いてるの?」
「その両方かもしれないし、もっとほかにたとえようがあるのかもしれないけど。だけど、僕は今でもナツミを大切に思っているよ」
「そうなんだ。なんていうか、立ち入ったことなのに、ごめんなさい」
「いいんだ」
この世界に一人でもナツミのことを覚えいてくれる人がいるのなら。僕は、ハナさんのことも大切にしなければならない。
「あっと……。わたし、もう帰ります。ねぇ、本当に連絡してもいい?」
「それは困るかもしれない」
僕は絶対にハナさんを失望させる自信があった。
僕にしかわからないだめで弱い部分を見られてしまったら。
人間として失望させてしまうから。
「でも、連絡するよ。だって、ナツミさんも言ってたもの。いつなにが起こるかわからないのだから、一秒を大切に生きなくちゃって」
もう、それだけで充分だった。
「わかっているよ。僕も何回も言われた」
書き続けてくれ、とも何度も言われた。
だけど、彼女の頼みを叶えることはてきなかった。
僕はもう何年も小説投稿サイトをのぞいてすらいない。
こんな僕に、ハナさんはまぶしすぎるんだ。
つづく




