7ー5
アキラさんちのアパートはかけ足だと音が鳴って迷惑になるから、静かに一歩ずつ前に進む。
もし、アキラさんが引っ越していたらその時はその時。
わたしは持っていた合鍵で鍵をあけた。
「こんにちは」
小さくあいさつをすると、部屋の中に入った。
よかった。まだアキラさんの部屋のままだ。
わたしはとても神聖な気持ちでエコバッグを降ろすと、荷物を全部置いて内側からドアに鍵をかけた。
料理をする。
油のはねる音。
香ばしいかおり。
食欲をくすぐるフライパンの音。
食事は人を元気にさせる。
「勝手にあがりこんで、アキラさん、怒るかな?」
もし怒られてもかまわない。
わたしはもう、アキラさんから逃げるのは嫌だ。
だって、ずっと気になっていた人だから。
アキラさんのことが好きだから。
どんなに拒絶されても、悲しい嘘をつかれても、わたしはもう逃げ出したりはしないよ。
だってまだ、本気でぶつかってないから。
「……できた」
唐揚げとポテトサラダとフルーツ寒天ゼリー。炊きたてのご飯とワカメとお豆腐のお味噌汁もある。
そうして充分に気持ちがたかぶった頃、アキラさんが家の鍵を回した。
部屋の電気がついているのと、鍵のあき加減がいつもと違っていたのとでアキラさんの動きが一瞬止まる。
「もしかして、ハナさん?」
「……はいっ。わたしです」
アキラさんの深いため息を聞きながら、数日ぶりの彼を見上げる。
「おかえりなさい。ご飯、作っておきました」
「どうして? こんなことしなくていいって言ったよね?」
「はい。好きな人ができたという嘘もつかれました」
「それでも来ちゃったの?」
「だって。アキラさんのことが好きだから」
「僕はそういうのは困るんだけど」
「それでも。それでも何回もわたし来ます。もし家の鍵を変えられてしまったら、不用心だけどドアノブにお弁当提げておきます」
「好きって、どういうことかわかる?」
「はい。無償の愛ならわかります。アキラさんに健康的なご飯を食べてもらいたいんです」
なんでだよ、とアキラさんは頭を抱えた。
「正直に言うね。僕、食べ物の味がわからないんだ」
「それは、なんとなく気づいてました」
「それだけじゃない。きちんと消化することすらできないでいるんだよ?」
それはあまりにも衝撃的で。
「なんだ。だったらお粥作ります。もっと消化のいいおかずもしらべてきます」
「嫌じゃないの? きみの食べ物を吐いたって知っても」
「かえって心配になりました」
「それはまた……」
困ったねと言いながら、アキラさんは泣きじゃくった。
「僕は、きみのことを好きになるかもしれない」
「ウェルカムですっ!」
うれしい。アキラさんに好きになってもらえるなんて。
つづく




