7ー3
放課後になって、わたしはまたマサミくんと話をした。
「マサミくんの妹さん、どんな調子なの?」
「うん。今は点滴が効いてるらしいんだ。これで落ち着いていたら、週末にも退院できるかもしれないって」
「決まったらわたし、ケーキ作ってもいい?」
「ああ、助かる。あと、唐揚げの作り方も教えてくれないかな?」
そもそもマサミくんは、わたしに料理をならうつもりでいたわけだから、そこは彼女とかそういうわけじゃなくても協力したい。
「もちろんだよ。なんならこれから作ってみせようか?」
その言葉に他意はなかった。ただ、みんなの大好物の作り方を披露するつもりというだけで。
だけど、マサミくんは身を乗り出してよろこんでくれた。
「いいの? じゃあ、甘えちゃおうかな」
その言葉がなんだかとても恋人っぽかったから、距離感がつかめなくなってしまった。
「いいよ。卵焼きも作ろうか?」
「お願いします」
こんな言葉ひとつでよろこんでもらえるなら。
わたしはもうアキラさんにお弁当を作らなくなっても生きていられるんじゃないかと思い始めてきた。
それは脳裏に、アキラさんのために買ったフライパンが、あの部屋で錆びついて捨てられる運命にあるとわかっているような気持ちも含まれていた。
アキラさんには、もう会わない。
アキラさんのためのお弁当ももう作らない。
そして、その楽しみさえも無くしたことを、今になってさみしく思えた。
それでも料理するんだなって、自分のことを冷たく見下ろしていた。
「ハナちゃん、つらかったら無理しなくてもいいよ?」
マサミくんは優しい。だからこそのクラス委員長なんだけど。
「平気平気。アスパラは今高いから、また今度でいい?」
「うん。なんならそれは冷凍食品でもいいんだ」
そうやって妥協しながら生きているんだなって感じた。
マサミくんにできることを、わたしもやらなきゃな。
「じゃあ、買い物ついでにおいしい冷凍食品を教えてもらってもいい?」
「うん、いいよ。そういうのは僕得意なんだ」
普通はそうやって妥協するんだよね。
冷凍食品でいいんだよ。
旬のものを食べなくたって、生きていけるんだから。
でも、どうしてかなぁ?
心のすみっこのところで、初恋がくすぶっているんだ。
だからお願い。もうアキラさんのことを思い出さないで。
お財布の中身を確認してから、わたしたちはそろってスーパーへと向かった。
つづく




