6ー2
わたしはアキラさんの心を好きになった。
たしかにイケボなのもポイント高いけど、思い出の中のアキラさんの声は思い出せない。
そんなアキラさんからはっきりと拒絶された。
「じゃ、家まで送るよ」
マサミくんは泣き止まないわたしに優しくしてくれる。
でも、どうして?
アキラさんは、わたしがずるいことを見抜いたのだろうか?
ナツミさんの記憶を上塗りするようにご飯を食べさせてしまったから。
いつかは拒絶されると思っていたけど、すぐとは思わなかった。
「ねぇマサミくん。わたしなにか悪いことした?」
「さぁ? 僕はきみのすべてを知っているわけじゃないから」
「じゃあなんでつきあおうなんて言ったの? わたしのこと、よく知らないのに」
「好きだからだよ? 好きだからもっと知りたくなるんじゃない? もういいよっていう拒絶の反応は、本当にもうおなかいっぱいってことでしょう?」
マサミくんの言葉は鈍器で頭を殴られたくらいの衝撃を残した。
たしかにそうだ。
じゃあ、やっぱりもう、わたしがいると迷惑だと思っているんだ、アキラさん。
「アキラさん、味がわからないんじゃないかと思って」
「うん? どうして?」
「いつも、おいしいって食べてくれるから」
それだけが原因じゃないと思うけど。心因性のものだとしたら、どんなにおいしい料理も意味をなさない。
「それで? ハナちゃんは今、どうしたい?」
「アキラさんに会いたい。会って、マサミくんと会わせて、彼氏ができたから心配しないでお弁当食べてくださいって言う」
「それはまたずいぶんと自分勝手なんじゃないかな?」
あ。もうわたしの料理を食べたくないんだ。
「そんなこと言われたら、アキラさんにも僕にも失礼だよ?」
どっちにも不誠実だ。
わたしはなんて自分勝手なんだろう。
涙が引っ込んだ後の、熱の冷めた体がひんやりと冷えてゆく感覚がある。
このままだとわたし、風邪をひいてしまうかもしれない。
「マサミくん教えて。わたしはどうすればいいの?」
「一番いいのは、もうアキラさんと連絡をとらないことじゃないかな。彼がそれを望んでいるのだから。あとは、僕のことを好きになる努力をしてくれたら失恋の痛手なんて忘れるんじゃない?」
失恋なんて、たいしたことがないようにマサミくんは言うけど。
「忘れたくないよっ」
「でも、きみのその一方的な想いはきみ自身でさえも傷つけることになるんだよ? それでもいいの?」
後悔のない生き方をすることを目標にしてきた。
生涯を終えてすっきり笑って死にたいから。
だけど、こんな味気ない失恋って、あるんだな。
わたし、今日は料理できないや。
つづく




