Interlude 彼の場合
栄養失調て倒れてから、僕の生活は変わらざるを得なかった。
川口 ハナさん。
彼女とは過去に会ったことがあるらしいけれど、僕は知らなかった。
過去にナツミと話をしていたこと。そう聞かされただけで、激しく嫉妬しそうになった。
ナツミは、僕だけの思い出だと思っていたから。
ねぇ、ナツミ。
僕は、なにを食べても味がわからないんだ。
生きているかぎり、丁寧な生活をしなくちゃいけないのはわかっているつもりだけど。
なにも感じないんだ。
テレビもラジオもない生活に不満はなく、生活に必要だからという理由だけでスマートフォンを持っている。
運転免許の資格は取れたけれど、そこから仕事に直接関わるようなことはあまりなかった。
ただ一つ。毎月膨れる借金だけが、僕とナツミが生きていた証しとなっている。
そう、今もナツミの治療費を払っているんだ。
だって、ナツミは泣かないから。
本当は痛くてつらいでしょう?
だから、僕がお医者様に頼み込んでナツミには内緒で緩和ケアをしてもらっていたんだ。
僕はナツミが緩和ケアを含めた延命治療を拒否していたのを知ったうえで、あがいていた。
たとえばナツミが眠っている時とか、たとえば意識が混濁している時とか。
お願いします。ナツミを助けてくだしい。
それだけの言葉を、彼女に聞かれていただろうか?
ナツミはににも言わなかったけれど、すべてをわかっていたように感じる。
僕は罪人だ。
ハナさんに優しくしてもらえる立場にない。
だって、ナツミの意思を無視したから。
ナツミに嘘をついたから。
まだ生きて、そばにいてほしいとそれだけが、どうしても言えなかった。
ねぇ、ナツミ。
僕の罪は生きながらえること。
僕はまだ、罪を償わなければならないのだよね?
僕は、ハナさんの手料理を食べる資格なんてないんだ。
だっていつも。
だっていつも――。
食べた後に吐いてしまうんだ。
必死に飲み込んで見せるけど、喉を通って胃から逆流してしまう。
そんな身体になってしまったんだよ。
だからハナさん、ごめんね。ごめんなさい。
僕はあなたにも嘘をついているのです。
つづく




