Interlude 彼女の場合
本当にひとりぼっちの人が、どんな思いを抱えているかを考えたことがない。
わたしが六歳の時、お母さんが盲腸の破裂で死にそうになって。その時たくさん泣いたから、おかあさんが留守をしていても泣かなくなった。
トライアスロンなんて、つらいだけじゃないのかなって思った時は、お母さんがにこにこ笑っているからつらくないんだなって伝わってきた。
お父さんは、お母さんが留守にしていることをさみしく思わないのかなって聞いたら、毎日電話しているから平気だよって言ってた。
さみしさなんて、そんなものかと思った。
だけど、アキラさんのは違うと思う。ナツミさんに先立たれて、たくさん泣いて、栄養失調で倒れるくらい思いつめていた。
もしかしたら、毎朝目が覚めた時に孤独を感じているのかもしれない。
そうじゃなきゃ、あんな顔して泣かないもの。
それは、今から十年前のことだけど。今でも鮮明に思い出せる、アキラさんが声を殺して泣いていた姿。
その頃は、男の人も泣くんだって不思議に思ったけど。のちによほどのことがないかぎり、泣かないものだよ、ってお母さんが教えてくれた。
もしかしたら、あの時のアキラさんが立場変わってお父さんだったかもしれないと思うとやりきれない。
こんな、胃がきりきりするような思いを毎日過ごしているのだとすると、なにを食べてもおいしくかんじるか、本当は味なんてしていないのかもしれない。
そうか、味がしなかったということか。
それで、かたくなった生姜焼きでもおいしいって食べてくれたんだ。
アキラさんは、なにを食べてもおいしいって言うのなら、お弁当を作って持って行くことすらも気負いしているに違いない。
だったらもう、手を引くべきなんじゃないだろうか。
マサミくんに言われるまでもなく、感じていたけれど。
そう、近いうちにきちんと返事をもらって、終わりにしなくちゃいけないよね。
だってこんなの、アキラさんは望んでないのだもの。
ねぇ、アキラさん。
あなたの心は今、どこに居ますか?
つづく




